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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
232/301

お願いされたのは

 アニマに手伝ってほしいことがあると言われて足を運んだ場所は、遺跡のような場所だった。

 木に侵食されてあちこちが崩れており、今にも崩れてしまいそうな雰囲気がある。


”なんか神秘的な感じやな”

”ゲームだからいきなり倒壊はしないだろうけど、リアルに合ったら流石にちょっと怖いやつ”

”もしマジで崩れてもヨミちゃんなら、アニマちゃん抱えて速攻で逃げられそうだけどな”

”何の遺跡なんこれ”

”アンボルトの眷属のボルトリントはこんな感じの遺跡を守ってたけど、もしかしてグランリーフ関連?”

”もしそうなら美琴ちゃん張り付いてたら後で絶対に来る奴”


 コメント欄もこの遺跡がどのようなものなのかが気になっているようで、あれでもないこれでもないと議論をしている。


「アニマちゃん、ここはどんな場所なの?」

「一応、ダンジョンになっているんです。地下にすっごく広い空間があって、そこに大量のエネミーがいるんですけど……」

「それが強くてクリアできないと」

「ヨミさんのコメント欄にも今ありましたけど、グランリーフに関係のあるものだと思ってます。まあ、勘なんですけど……」


 グランドクエスト自体未だに謎に包まれている。

 倒したアンボルトとゴルドフレイを倒した際、特に世界観の説明がされているものの書物などを入手しておらず、きちんと自分の足でFDOの世界を回って情報を集めて、考察する必要があるらしい。

 面倒なので考察ギルドのアーカーシャに情報料を渡してこの二体について聞いたが、まずアンボルトは七つの竜王の中でも最弱格でありながら滅ぼした国の数は意外に多く、ゴルドフレイは四色最強でありながら竜神より賜った空を翔るために序盤は積極的に国滅ぼしをしていたが、最近はそれも少なくなっていたらしい。


 どちらも空からくる災いとして、そして実際の色はともかく黄竜王と金竜王で字面の色だけ見れば同じなので、昔は同一の存在だと思われていたこともあった。

 あと面白い情報だが、ステラが持っているアスカロンはこちらの世界でも竜殺しの聖剣として知られており、なにがきっかけでそう呼ばれるようになったのかということだが、竜王の眷属ではなくもともとこの世界にいたドラゴンを倒したことに由来しているらしい。

 その際にそのドラゴンの血を浴びて力が宿り、強い竜特効が付与されて、大昔にゴルドニールを撃退したと思しき記述があったそうだ。


 ゴルドニールを撃退させることができるのなら、ゴルドフレイにも通用する。ゴルドフレイに挑むのなら、まず先にアスカロンを入手することがスタートラインだ、というのがアーカーシャの考察意見だ。

 結果的に、ステラ自身を仲間に引き入れて眷属も王も、どちらも彼女に止めを刺させた。四色のみではあるが、竜を殺し眷属を過去に退けた剣は、眷属と王を殺すだけの力を秘めているということが証明され、アスカロンの価値が一気に高まった。


「そういや、シンカーさんもこういう遺跡で竜王関連の情報を集めたって言ってたっけ」

「アーカーシャが運営している考察サイトにも、世界各地に存在する十四個の竜の遺跡にはグランド関連の情報が記載されていて、それを読み解くことで攻略をスムーズにすることができるってあります」

「それで、グランリーフがいるこの国にあるこの遺跡は、多分グランド関連じゃないかって踏んでるわけか」

「そういうことです。ぼくも、グランドクエストに参加したいので、まずはこういう情報収集をしっかりしておきたいんです」

「なんかちょっと耳が痛い……」


 アンボルトもゴルドフレイも、ろくな情報収集をせずに挑んで、数の暴力と気合と根性とほんの僅かな糸口のみでクリアしてきたので、ちゃんときっちりと情報を集めようとしているアニマの言葉を聞いて苦笑する。


「ところで、アニマちゃんも一人称ぼくなんだね」

「……へぁ!? す、すみません!」

「なんで謝るのさ」

「だ、だって……ヨミさんの真似をしているようにも聞こえますし……」

「女の子で一人称ぼくなのは珍しいとは思うけど、別に真似しているとは思わないよ。この間も出かけている時に、小学生くらいの女の子が一人称それだったし。ボクは気付いたらこれだったけど、大体こういうのって周りに影響されるからさ」

「そ、そうなんです! ぼくも上にお兄ちゃんが二人いて、その影響で!」


 人前でぼくというのが恥ずかしかったのか、焦りながら必死に弁明するアニマ。

 その様子がちょっと可愛らしくて、なんか妙にほっこりしてしまう。


「ボクは別に一人称がどんなものでも気にしないよ。ボクだってこんなだしさ。……多分リスナーも全然受け入れてると思うよ」


”画面に映っている美少女二人が揃ってボクっ娘……だと……!?”

”なんという奇跡なんだ……”

”しかもどっちも成長途中の……ぐふふ……”

”アニマちゃんは美少女だけど、どことなくボーイッシュな感じがある”

”ヨミちゃんのボクはひたすらに可愛い。アニマちゃんのボクは妙にしっくりくる”

”ボクっ娘美少女×ボクっ娘美少女=最高神”

”このめぐりあわせに感謝いたします(感涙)”


「えーっと……?」

「うん、あまり気にしなくていいから。この人たちの病気みたいなものだし」

「中々辛辣なこと言いますね……?」


 何かをすれば発作的に変なことを言いだす連中なので、間違ってはいないと思う。


「さて、じゃあこの遺跡を攻略しちゃおう。ボクもせっかくヒノイズルに来ているんだし、緑竜王の攻略法を少しくらい知っておかないとね」

「お、お願いします」


 戦闘になった時にすぐに対応できるよう、ブリッツグライフェンのパーツを全部出して背中に集めておく。

 でもやっぱり変形させる時間が惜しいから、ナイフくらいは持っておこうとパーツを集めてナイフを作り、太もものホルスターにしまう。


「ヨミさんのその武器、かっこいいです!」

「でしょー? 変形武器はロマンだよね」

「変形武器で、こう、見た目がガチャガチャしているのとかもう大好物です!」

「お? このよさが分かってくれるかー。あとでこういうロマンについてたっぷり語り合おう」

「ぜひ!」


 これはいい話し相手ができたかもしれないと、胸が弾む。

 早速遺跡の中に入ると、かび臭さはないがちゃんと朽ちた遺跡を再現しており、中々に雰囲気がある。

 大体こういう場所にはゴースト系とかグール、スケルトンなどのアンデッド系がいるが、今は年下の女の子がいるのでそれらが出てきても気丈に振舞うと心に決める。


「前方に敵の反応があります」

「だね。アニマちゃんは魔術使えないんだよね? 機械人族のレア種族だから」

「はい。代わりにソナーやサーモグラフィーでの索敵が可能です」

「機械的ぃ~」


 そういうの大好きだと思いながら、先に敵を見つけたのでナイフにパーツを更につけて片手剣に変形させる。

 アニマも彼女の種族特有の武装保管庫から取り出したであろうガンブレードを右腕に接続し、ブゥン……という音を鳴らして起動させる。

 一つ一つがロマンを刺激するなと笑みを浮かべ、姿を見せたエネミーを見てちょっと引く。


「何あれぇ……」

「モスゴーレムです。見た目の通り、苔でできたゴーレムです。見た目に反して結構硬くて強いのでご注意を」

「ゴーレム系か。まだ戦たことなかったと思うけど、こういうのって胸の中心に核がある奴だよね」

「その通りです。なので最速の討伐方法は、」

「胸の核を破壊する!」


 モスゴーレムが両腕を振り上げた瞬間、ヨミが低い姿勢で走っていく。

 アニマは少し遅れて走り出し、引き金を引いてエネルギー弾で攻撃を仕掛けて牽制する。

 エネルギー弾を撃ち込まれたモスゴーレムは鬱陶しそうに両腕を振り回してから、接近してきたヨミに向かって左腕を振り下ろしてくる。

 ヨミはそれをひらりと回避して、地面に叩きつけられた腕を蹴って胸に向かって跳躍する。

 このまま決めてしまおうと思ったが、アニマの言った通り見た目に反して想像以上に硬く、刃が通らなかったので地面に降りると同時に影に潜ってアニマの隣に出る。


「本当に硬いねあれ」

「はい。なので少し時間を稼いでもらっていいですか? このガンブレード、チャージをすれば核を撃ち抜けるので」

「オッケー。任せたよ!」


 どれくらいかかるのかなど聞かずに飛び出していき、モスゴーレムの注意を引き続ける。

 一撃一撃の攻撃力はかなり高めだが、速度が遅く大振りなのでよっぽどへましなければ当たらない。

 アニマにこれの討伐を任せるとは言ったが、ダメージを全く入れずに任せっきりは嫌なので、『ブラッドイグナイト』と『ブラッドクリエイト』を使って自分の火力を底上げする。


 縦に振り下ろされた右腕を蹴って逸らし、胸に向かって突きを放って少しだけ削り、掴もうとしてきた左腕を作った血の武器を足場にして飛んで回避して『ブルータルランサー』で血の槍を叩き込む。

 少しずつ苔が剥がれ落ちていき、それに伴ってモスゴーレムのHPも削れて行くが、ノエルのような脳筋かあるいは苔に含まれる水分ごと蒸発させられる大火力魔術師がいないと難しそうだ。


 ゴーレムがひたすらヨミを掴み取ろうと腕を伸ばしてくるが、動きが遅いので簡単に回避して、できるだけ右腕の同じ場所を攻撃し続ける。

 すぐにゴーレムはヨミの意図に気付いて右腕での攻撃を控えるが、ならば左腕だと同じように同じ場所を攻撃をする。

 左右両方の腕のどちらかで攻撃しなければヨミは捕らえられないのに、攻撃をしたら腕を失ってしまう。

 選択肢を突きつけられたゴーレムは、左腕を犠牲にすることを選んだようで左腕で掴みかかろうとしてくる。


「中々いいAIじゃんか! でも、残念ながらエネルギーはたまったんでね!」


 上からの叩きつけを下がって回避してから、片手剣から刀形態に変えて固有戦技を発動させながら突進する。


「『ウェポンアウェイク・全放出(フルバースト)』───『雷切・武御雷』!」


 掴みかかってくる左腕を潜り抜けて懐に潜り込み、電磁加速を受けた抜刀術を繰り出し、右腕の傷に叩き込んで切り落とす。

 左腕が前に伸びた状態で右側が軽くなり、バランスを崩してしまう。

 倒れてしまわないように影の鎖を首と胴帯に巻きつけながら後ろに回り込み、思い切り引っ張って支える。


「アニマちゃん!」

「準備完了です! 『砲撃(フォイアー)』!」


 膝立ちになって構えたガンブレードの引き金を引き、砲撃音を響かせてチャージされたエネルギー弾が放たれる。

 真っすぐモスゴーレムに向かって行ったそれは胸の中心に直撃し、任せてほしいと言ったことを裏打ちするように破壊して貫通してくる。

 そのままだとヨミにも直撃するが、貫通するのが見えた直後に影に潜って回避することで事なきを得る。


 アニマの隣に出るとモスゴーレムは地面に倒れ、核を破壊されたことによるクリティカル判定を受けてポリゴンとなって消えていった。


「ナイスアニマちゃん」


 すっと拳を突き出すと、ぱちりと目を瞬かせた後にぱっと表情を明るくして、こつんと拳を合わせてくれる。

 あれらのせいで少し自己肯定感が低いように感じていたが、ああやって任せてほしいというくらいにはまだ自信があるようだし、このままこのダンジョンの攻略でアニマの自身を取り戻させてあげようと、嬉しそうにしているのを見てひっそりと思った。

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