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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
225/301

そうだ、都会へ行こう

「晴翔流剣術か。知ってるぞ」

「マジっすか」


 結局あの後も特に情報が集まらず、これは早々に詰んだかもしれないと思いながら、松茸を分けてくれた薬草専門店のおじさんに話を聞いてみようと足を運んだら、あっさりと知っていると言われた。


「源流は不尽御嶽の麓にある天翔流剣術で、そこに通ってた一人の侍が竜を斬るために編み出した剣術だ。基本は天翔流だから剣筋はかなり似てる。違いは、天翔流は対人特化で人と戦うことを想定した動きなのに対し、晴翔流は竜を殺すために一刀の威力が高いんだと」

「詳しいですね」

「孫が晴翔流剣術道場の師範をやってるからな。この国の央京都(なかのみやこ)っていう、帝が住む街に行けばそこで会えるぞ」

「ここからどれくらい歩きます?」

「そうだなぁ……。嬢ちゃんたち冒険者なら二日歩いていれば着くんじゃないか?」


 近いのか遠いのかよく分からないが、リアルの土地よりもダウンスケールされているゲーム内の土地を二日歩くと考えると、かなり遠い。

 アーネストに頼って飛空艇を出してもらえば、この移動時間も大幅に減らせるだろうが、いくらノーザンフロストの王子だからとそう何度も飛空艇を出せるわけでもないので、諦めて自分の足で歩いていく。


「一応船を使って海を回っていくこともできるが」

「この間でっかいタコに襲われてちょっとトラウマなので」

「あー……。あの大蛸にやられたのか」


 この時期は海棲系エネミーが大量発生している時期で、海に出るのは危険だ。

 ヨミとノエルの強さならそんなに怯える必要もないのだが、ヒノイズル皇国に来る途中でのできごとを思い出し、ぞぞぞっと背筋を震わせる。


”すばr……いやな、事件だったね……”

”ぶっちゃけ、またタコに襲われて悲鳴上げてるヨミちゃんが見たい”

”今度こそノエルお姉ちゃんが捕まってうねうねされるのが見たい”

”美少女が触手に絡まれることでしか得られない栄養素があるんです”

”時々露骨なエロトラップとか仕掛けてあるからこのゲームを止められない”

”ノエルお姉ちゃんがタコ足に掴まってうねうねされたら、そのナイスボデーなのもあってこの配信の収益がBANされちゃいそう”

”リタちゃんがやられるよりはマシ”


「ぜってー船では行かない。ノエルのそんなはしたない姿、誰にも見せてたまるもんか」

「私も流石に、ヨミちゃんとシズちゃんが連れてかれたの見てるからちょっと嫌かなー」

「あの時ボク、あいつらの粘液飲まされてマジで気持ち悪かった。不味いしねばねばしてるし生臭いしで最悪だった」

「……ヨミちゃん、もうその話は絶対にしないでね?」

「へ?」


 なぜ、とノエルの顔を見ると顔を赤くして顔を逸らしていた。

 本当になんでだとリスナーに助けを求めようとコメント欄に目を向けると、「その言い方はまずい」だの「イカん」などよく分からないコメントが大量に書き込まれていた。

 でもどうせ変態的妄想をしているに違いないので、ノエルにはあんな思いをさせないぞという意味も込めて抱き着き、リスナーに変態とだけ言っておいた。


「とにかく目的地が決まったようなものだし、央京都に行こう」

「だね。美琴さんたちにも連絡しとく?」

「一応しておこうかな。あの人たち、普段どの辺にいるんだろ」


 トップ層だし、普通に央京都に拠点を構えてそうだ。

 美琴にメッセージを送り、既読が付かなかったので忙しくしているのだろうとウィンドウを閉じ、お店でノエル用の薬草とかを色々と購入してから退店し、手を繋いで央京都への旅を始める。


「すごい自然に手を繋いだけど、別に繋がなくてもよくなかった?」

「ソンナコトナイヨー」

「顔を背けながら片言で話すな脳筋女騎士。絶対ボクのこと子供扱いしてるでしょ」

「子供扱いじゃないよ。妹」

「どっちにしろ酷い」


 おかげで波寄町を出るまでに、おばさまたちから優しい視線を向けられた。

 恐らく仲がいいね、程度の認識をされていただろうがあんな優しい眼差しで見られたら、それはそれで恥ずかしい。

 しかしすぐに、変態が繁殖しているリスナーたちと比べればマシかと、さっきからずっとてぇてぇしか流れてないコメント欄を見て思った。


「ところで、ヨミちゃん最近変な人に付きまとわれたりはしてないよね?」

「変な人? 特には。アンボルトの後は、ボクに変態リスナーが増えるきっかけになったアマデウスに襲われはしたけど」

「あの、負け確定したら子供みたいに癇癪起こした情けない人? 懲りてなかったんだね」

「どうせボクには使いこなせないだろうからって決めつけてたよ。雷王怨嗟のブレスで消し飛ばした」

「今でこそあの心核全部取り込んで火力すごいけど、全部じゃなくてもプレイヤー一人吹っ飛ばせるくらいの威力はあったんだね」


 自分でもあれはちょっと驚いたが、大声を出して邪魔者を消し飛ばすことができてすっきりした気持ちの方が大きかった。


「ここまで追いかけて来てたら面白いね」

「流石にないでしょ。あいつボクにリベンジするためだけにPKにまでなってたし」

「ヘカテーちゃんいなくてよかったね」

「だね。そう言えば、すんごい今更だけヘカテーちゃんってどうしてあんなにPKK過激派なんだろうね」


 ゴルドフレイ戦終了後、ノエルから血を貰う代償としてPKになったヨミを、ヘカテーが両手斧を撫でながらこっちをじっと見つめていたのを思い出す。

 小学生があんな風になるのには何か理由が絶対にあるはずだが、あんなにやさしくていい子があんな風になるなんてろくなものじゃないだろう。


「温泉旅行最終日、ヨミちゃん先にお風呂から上がっちゃったじゃない? その時に私聞いたの」

「残ってればよかった。で、なんて?」

「二年ちょっと前くらいにFDOとは別のゲームでレベル制のMMOやってた時に、ヘカテーちゃんがレアアイテムをゲットしたんだって。その時組んでた男の人がそれをすごい妬んじゃって、ヘカテーちゃん年齢が年齢だから年長の自分が持つべきだーってうるさかったんだって。でもそのアイテムをドロップしたエネミーに止めを刺したのも、一番ダメージを出してたのもヘカテーちゃんで、他の仲間の人たちも大人気ないこと言うなって宥めたらしいんだけど……」

「いるよねー。自分より年下の女の子だからって見下すようなバカ」


 ヨミも性別の年齢もバレないように全身鎧でゲームを楽しんでいたこともあり、勝手に女の子だと妄想して頼んでもないのに姫プさせようとしてきた直結厨がいた。

 露骨に後ろに下がらせようとしてくるものだからムカついて前に飛び出して敵を殲滅して戻ってきたら、ゴリラ女に用はないと言って一方的にパーティーを解散されたこともある。


「それで、ヘカテーちゃんがそのアイテムを持ってるのが許せなくなったその男の人が、ヘカテーちゃんが一人でいるところを襲撃してキルしちゃったんだって。でもその時すでに大事なアイテムだから倉庫に預けてて、キルしても落とさないようになってたみたいなんだけど、そのことを知らないその男の人がドロップするまでリスキルしてやるって脅してきたみたいなの。冗談だと思ったみたいだけどマジで何度も何度もリスキルしてきて、怖くなってログインできなくなっちゃったんだって」

「子供相手に何ムキになってんだそいつ」


”ヘカテーちゃんみたいな可愛い幼女を何度もリスキルする輩がいるのか……”

”二年くらい前になんかそれっぽい書き込みが掲示板にあったな。最終的に両手斧持った幼女に逆にリスキルされまくったって”

”大人気ねぇ……大人気がなさすぎるぜぇ……”

”こいつはくせぇーッ! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!”

”よくそれでゲーム引退せんかったなヘカテーちゃん”

”むしろそれで覚醒したんか?”


「怖くてゲーム止めることも考えたけど、そもそもそのエネミーを倒したのは自分で一番活躍したのも自分。寄生するみたいに攻撃もせずに逃げ回ってる人に、何でこんなに怒られなきゃいけないのか、何で悪くない自分が悪者にされて、こんなにキルされなきゃいけないんだって思ってから吹っ切れて、そしたらその人のことが絶対に許せなくなって叩きのめすためにログインしたんだって。で、不意打ちじゃなければ真っ向勝負で負ける要素がなかったみたいで、それはもうぼっこぼこにしたんだって。その日以降、PKは許さないって考えになっちゃったみたい」

「なんというか……パワフルだなー」


 大人の男の人というのは、幼い子供からすれば怖い存在だ。それも二年ほど前となると、ヘカテーはまだ小学校低学年とかだ。

 そんな時に大人に怒られて何度も襲われたら、ゲームそのものが怖くなってもおかしくないくらい怖かっただろうに、恐怖心とかが振り切ってしまったのだろう。

 その結果、PKK過激派のPK絶許幼女が爆誕し、現在ヨミの真似をし始めたこともあり超高機動型アタッカーとなって、PKたちを怯えさせているのかもしれない。


「……その男のプレイヤー、もしかしてゼルとかじゃないよね?」

「話を聞く限りじゃそれっぽいよねー。今度ゼーレさんに聞いてみる?」

「だね。今そのゼルがリアルでやばいことしでかそうとしたみたいで修羅場ってるって、割とガチで泣きそうだったけど」


 あの自己中は一体どこまで人に迷惑をかければ気が住むのだろうかと、呆れかえるしかない。

 いつになったらゼーレは戻ってこられるのだろうと、最初はちょっと突き放すような感じだったのに、いつの間にかいないとちょっと寂しく感じるくらいにまで親しくなっていることに気付き、彼女ももう大事な仲間なんだなとふっと笑みをこぼした。

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