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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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鳥に食われる

 強化をかけた上でもなお、妖鎧武者の方が攻撃の始動が早く、ヨミの攻撃に勢いが乗り切る前に抑え込まれる。

 この戦い方はカナタやサクラの戦い方によく似ているが、質が違う。

 あの二人は相手にいかに攻撃をさせないように剣の檻を形成するかを重視しているが、妖鎧武者は一メートル近くもある長すぎる刀身とそれによる振りの遅さをカバーするために、先を動いている。


 勝機があるとすれば、この振りの遅さだ。

 これは相手より常に早く動くことで成立していることなので、これさえ崩すことができればヨミにも勝機がある。


「あるんだけど、こいつの技量が半端じゃないね……!」


 崩すことができるような隙がほとんどない。僅かに見つけたと思って攻撃を無理やり差し込もうにも、その僅かな隙すらカウンターに繋がっており、着実にヨミに切り傷を増やしていく。

 カウンターの直撃を受けずに掠り傷程度で済んでおり、自己再生能力が高いので傷は十秒足らずで塞がるが、向こうは一つ失敗すればそれを即座に学習して修正してくる。

 AIらしいといえばらしい動きだが、カナタもサクラも同じようなことをやってくるので、達人ともなれば一回ミスしたことは戦いのさなかで即修正できるのかもしれない。


 ちょっと気になったことがあったので、長刀を弾き上げて上からの振り下ろすを誘発させる。

 それを刀を頭上で水平に構えて受け止める、のではなく触れた瞬間に傾けることで刀の側面で受け流す。

 カナタが得意としている変則受け流しで、相手からすれば押し込むために力が入っているので、それが綺麗に受け流されるとバランスを崩してしまう。


 妖鎧武者もこの受け流しまでは知らなかったようで、体が前に少し傾く。

 その隙を見逃さずにブーツで脚力を強化し、思い切り顎を蹴り上げる。一定以上の威力での攻撃なため、追加で衝撃波も発生して武者の体が吹っ飛ぶ。

 二回三回と地面をバウンドするがすぐに起き上がり、低い姿勢で走り出そうとしてきたので、刀形態でエネルギーを消費して斬撃そのものを拡張する。

 早く鋭く振るえばその分だけ威力と射程が上がるので、かなり雑な振り方になってしまったが刀身の五倍近く射程が伸びて、雷の斬撃が妖鎧武者に襲い掛かる。

 斜めに向かって行った斬撃を紙一重で回避され、そりゃいくら速いとはいえ見え見えの攻撃に当たる間抜けはいないかと、楽しそうに笑みを浮かべる。


「……は?」


 長刀を霞に構えた妖鎧武者を見て、無音の間合い詰めからの突き攻撃だと予測して回避行動を取ろうとした時、信じられないものを見た。

 一メートルほどの長い刀身に、戦技特有の淡いエフェクトがかかる。


火杭鳥(ヒクイドリ)


 淡いエフェクトが一転して真っ赤な炎のようなものに変化すると、爆ぜるような音とともに真っすぐ突っ込んで来た。

 咄嗟に体を捩ることでギリギリで回避するが、代償として左腕を切り落とされる。

 システムによって抑えられた痛みに顔を歪め、追撃を食らわないようにと後ろに下がりつつ血の槍を放って牽制する。


”ふぁ!?”

”刀戦技やんけ!?”

”かっちょええええええええええええええええええええええええええ!?”

”なんでプレイヤーの持つ刀には戦技がないのに、エネミーにはあるんだよ!”

”エフェクトがド派手すぎて濡れるわこんなん”

”ちょっと鳥っぽい形をしているのも細けえな”

”それよりもヨミちゃんが完全に反応しきれてないのが何よりもヤバい”

”ヨミちゃんの腕があああああああああああああああああ!?”


 これまで散々存在しないのではないか、いや刀だけ仲間外れなわけがないと議論に議論が重ねられていた、刀戦技問題。

 掲示板にNPCが刀戦技を使っただの、こうすれば戦技を習得できるよと見るからにデマだと分かるような嘘情報が流れていたり、刀を装備した状態で特定条件を満たす必要があると推測されていたりしていた。

 当然どれも的外れだったり当然の如く誤情報だったりしていたのだが、一年が過ぎた現在でもなお刀戦技に関する議論は盛り上がりを見せる。


 現在ヨミの配信を通して大勢のリスナーやプレイヤーに届けている情報は、それに決着をつけかねないほど貴重なものだ。

 この情報を持っているだけで情報料としてプレイヤーからお金をふんだくることもできるが、そんなことしたら普通にイメージダウンしてしまうし、グランド関連ならともかくこういうのは独占する必要はないと思っているので、配信を止めずにそのまま戦闘を続行する。


「随分と派手な戦技だな!? ほら、他にもどんな技があるのか見せてごらんよ!」

(クルワ)ギミ

「ひょえ!?」


 またすさまじい突きが放たれたので体を捻って回避すると、通り過ぎる直前にびたっと止まってそのまま追撃してきた。

 血の武器を作ってそれを盾にしてどうにかして直撃を免れるが、ぴしっという音が聞こえたのでまた影に潜って距離を取る。

 案の定血の武器は真っ二つに破壊されてしまい、もしあんなのを直撃させられたら問答無用の即死だと頬を引きつらせる。


 そして、やはり最初のあの派手なエフェクトはヨミの願望による幻覚でも何でもなく、本物の戦技だった。

 ずっと習得方法が不明だった刀戦技。その習得への糸口となり得るエネミーとの遭遇に、下手したらグランド戦以上に胸が高鳴る。


 欠損した左腕の修復までまだ時間がかかるので、刀から片手剣に切り替えてしばらくはそれで持ちこたえることにする。

 どんな戦技を使ってくるのか分からないので様子見、それこそ防戦気味になるかもしれないがそれでいい。

 それで情報が集まるのなら万々歳だし、その間に攻略の糸口を見いだせればなお良しだ。


(ハヤブサ)!」

「移動用!?」


 次はどう動くのかと警戒していたら、頭の位置がほぼ変わらず初動もほぼ見えない状態からの瞬間的な間合い詰め。

 刀ではなく下半身に僅かにエフェクトがかかっており、移動用戦技まであるのかと目を丸くする。

 今ので分かったが、妖鎧武者の使う戦技は全て鳥の名前で統一されている。

 最初に使った戦技は『火杭鳥』、今の移動用は『隼』と分かりやすい。突きからの斬撃コンボの『クルワギミ』は自信はないが、恐らくはカッコウだ。読み方を変えるだけでそんなにかっこよくなるのかと感心する。


 長大な間合いの長刀であるにもかかわらず、片手剣の速度でも封殺されかねないほど攻撃の始動が早く、勢いが乗り切る前に弾かれてしまう。

 どうにかして自分の攻撃を差し込もうとしてもそれは相手のカウンター用の隙だし、かといってその隙を逃すと全く攻撃ができないので、焦りで思わず攻撃してしまう。


「火杭、鳥」

「回避ぃ!」


 そして何より、アンデッド系のエネミーとは思えないほど滑らかな体捌きに、普通の剣術の中にいきなり刀戦技が紛れ込んでくるので、非常にやりづらい。

 特に火杭鳥は回避しづらい。構えてから打ち出されるまでが異様に早いし、打ち出されてからも速い。

 幸いエフェクトが非常に派手なものになるので刀身にエフェクトがかかった時点で、火杭鳥が来ると分かるがそれも焼け石に水だ。


 また左腕を狙ってきたので飛んで回避し、瞬時に背中のパーツを集めて盾を足元においてから、盾に落ちた自分の影の中に潜ることでその後の追撃を回避。

 少し離れた場所から飛び出て片手剣戦技『ヴォーパルブラスト』で一気に間合いを詰めようとすると、即座に再捕捉されて『隼』で間合いを詰められる。


”何このハイレベルな戦い”

”刀戦技だー! って喜ぶのも束の間、別次元バトルに絶句”

”あのヨミちゃんが防戦一方になるの珍しっ”

”この落武者が強すぎる”

”まさかとは思うけど、刀戦技ってこいつを倒さないとダメとか?”

”刀戦技習得できるの一部の上位層だけじゃないですかやだー!?”


 コメント欄も盛り上がりまくっているが、今はそれに意識を割いている余裕はない。

 とにかくこの妖鎧武者は、技術が高いとか力が強いとかじゃなく、戦い方が巧い。

 いかに自分の有利を押し付けるのかをよく分かって行動しているので、ヨミから攻めようにも攻め込めない。


 間合いを離そうとすれば踏み込んで間合いを詰めるし、影に潜って無理やり離れても即座に追いかけてくるし、じゃあ前に詰めたら後ろに引かれるしでやりづらいことこの上ない。

 救いがあるとすれば、完全に物理型なのか斬撃を飛ばしてくるなんてことはしてこないことか。

 間合いを無視した斬撃なんかよりも厄介でめんどくさいシンプルな剣術に、高威力の戦技まであるので、あまり変わりはないような気もするが。


 数合、数十合と刃を交え、欠損した左腕も復活したので即座に刀形態に切り替えて、超至近距離でエネルギー消費による高威力間合い拡張斬撃を放ち、伸びた間合いの分無理やり押し離し、そこに向かってブーツでエネルギーを消費して跳躍するように詰める。

 着地と同時にヨミの間合いに入り込んだのに、妖鎧武者は不安定な空中にいながらも的確にタイミングを合わせて脳天に長刀を振り下ろしてきたので、ジャストパリィで受け流す。


「『ウェポンアウェイク・全放出(フルバースト)』───『雷霆(ケラウノス)脚撃(ヴォーダン)』!」


 完全に妖鎧武者の足が地面に着く前に、全てのエネルギーを消費して脚力を超強化。

 鋭い横蹴りを放ち胴体に叩き込み、爆撃音のような衝突音とゼロ距離での雷の追撃を受け、妖鎧武者が掻き消えるほどの速度で蹴り飛ばされる。

 地面をバウンドして大きくえぐり、木にぶつかってへし折り、体を掠めて木の幹を削り取る。


 まだ戦闘状態は続行中で、今の直撃を食らってもなんでまだ生きてるんだよと突っ込みながら影に潜り、高速移動して追いかける。

 地面に仰向けになって倒れているのを見つけ、HPバーがレッドゾーンまで減っているので今がチャンスだと、近くの太い木の枝に向かって影の鎖を伸ばして巻きつけ、巻き取りながら高速移動する。


 妖鎧武者がのそりと起き上がり、両足を広げ腰を落とし長刀を霞に構える。

 切っ先から燃えるようなエフェクトをまとって行き、そのかっこよすぎる演出に厨二心を刺激され、早く自分にもそれを使わせろと急接近する。


鳳皇(オオトリノスメラギ)!」


 間合いに入った瞬間、妖鎧武者が動いた。

 霞に構えた状態から素早く袈裟懸けに振り下ろしてきたので、巻き取っている鎖の途中に血の武器を生成してぶつけることで軌道を強制的に変え、左脚をバッサリと縦に斬られる。

 この程度で止まってなんかいられないと、地面に落下すると同時に影に潜って妖鎧武者の背後から飛び出る。

 エネルギーはたまり切っていないが、強烈な一撃を一つ、叩き込めばそれでいい。


 使用している『ブラッドイグナイト』と『フィジカルエンハンス』が強制解除され、『雷王怨嗟』が発動。左腕を伸ばして背中に触れようとする。

 あと一発。勝利を頭で確信してしまったヨミは、まだエフェクトが刀身にかかったままであることに気付くのがほんの一瞬だけ遅れてしまった。

 気付いた時には既に遅く、回避行動を取ろうとした瞬間に長刀が振り払われ、自分の首が斬り落とされる感覚を味わった。


 ほぼ満タンだったHPが、首を落とされたことでクリティカルを受け残量関係なしに即死。

 自分の頭が地面を転がるという、ゲーム内だからこそ味わえる感覚と共に敗北を味わい、見ていて清々しい程の残心をゆっくりと解いて見事な所作で長刀を鞘に納めるのを見届け、『YOU DIED』の表示と共に視界が完全に暗転した。

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