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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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うねうねパニック!

 いきなり出て来たし、ウィンドウからボスエネミー扱いをされているのは分かっていたので覚悟をしたが、いざ戦い始めてみると思ったよりも弱かった。

 攻撃一回で足は斬り落とせるし、HPもそんなに多くないのかあっという間にHPを全損間際まで持っていくことができた。

 なんだ、ただの見掛け倒しな雑魚ボスエネミーか。そんな空気が流れていたが、ヨミは忘れていた。


 美琴が、海棲系のエネミーが大量発生している頃だと発言していたことを。



「多い多い多い!?」

「あっちもこっちもタコ足とイカ足ばっかりで嫌ああああああああああああああああああ!?」

「こ、来ないで! 灰は灰に(ATA)塵は塵に(DTD)!」

月夜の繚歌(ムーンフェイズ)繊月(クレセント)ォ!」

「やああああああああああああああああ!? お姉ちゃんヘルプミー!?」

「シズうううううううううううううううううう!?」


”うははははははは!”

”見事なまでのパニック状態ですなぁ”

”美少女が触手に囲まれて青い顔してるの……イイ……”

”シズちゃんの悲鳴、やっぱヨミちゃんの妹なだけあってよく似てる。非常にあそこにクる上質な悲鳴だ”

”おい触手ども! 早くノエルお姉ちゃんとかに絡みついてうねうねしろ!”

”ノエルお姉ちゃんほどのダイナマイトボディだと、絵面がすごいことになりそうだな。収益化が剥奪されないかが心配だ”


 四方八方をタコ足イカ足で囲まれて、その気持ちの悪さに顔を青くしながらばっさばっさ切り落としたり、殴って千切り飛ばしたり、大火力の魔術で焼き払ったりしている中、コメント欄は半ばパニックになっている様子を見て愉悦に浸っていた。


「うわー、今回もひどいわねー」

「前回よりもいくらか数が多いですね。どうしましょう」

「どうするも何も、片端から倒していくしかなかろう。ほれ、ヨミが早う来いとこっちを見ておるし、妾たちも参戦するぞ」

「ところでフレイヤさんが動かないんだけど」

「放っておけば再起動しますから平気ですよ。タコやイカは食べるのは平気でも、生きている実物を見るのはダメなだけですので」

「あー、じゃあここはフレイヤさんにとって地獄って感じかー」

「そこ! 呑気に話してないで早く助けてー!?」


 なんか緩い空気感で話している美琴たちに向かって、声を張り上げて助けを求める。

 ただでさえデカくなって気持ち悪い吸盤のある触手が、八本や十本ではなく数十本も周りにあるのだから、嫌悪感がすさまじい。

 これが終わる頃には当面はイカとタコは食べたくなくなっていることだろう。


「『イクリプスデスサイズ』!」


 うぞうぞと大量のイカとタコの触手が迫ってきたので、一気にそれを払うためだけに極大魔術を使用して薙ぎ払う。

 MPが全部なくなるが、血液は摂取済みなので限界まで高めたMP自己回復能力と合わさり、すさまじい速度で回復していく。

 すぐに影魔術や暗影魔術、血魔術、血壊魔術が使えるまで回復したので、自分の周りに血の武器を大量生成し、失った分を魔術で補填して血の武器に影をまとわせて範囲を拡大させる。

 とにかく触手の一本たりとも近付かせないと、目に付いたものやちょっとでも近付いてきたものを脊椎反射で切り伏せていく。


「よっぽどこの軟体動物が苦手みたいだな! 動きに精細さがないぞ!」

「こんなきしょいのを見ていつもの動きができるとでも!?」

「ヨミ! そっちに一本行ったぞ!」

「来るなああああああああああああああああああああああああ!?」


 一本のイカ足が接近していたので、『クリムソンドレイク』で血の龍を作り噛みちぎらせる。

 チギレタ部分がそのままヨミの方に落ちてくるが、すかさず血の武器を作り追加で『ミゼラブルダンス』で武器をさらに増やし、オートと手動の両方で武器を操作して細切れにする。

 甲板にびたびたと細切れになったタコ足や切り落とされたり殴って千切り落ちたイカ足が散らばっているが、トーチが炎魔術でそれを焼き払ってヘカテーが鎖を使って海に放り投げる。


「もうやだあああああああああああああああああ!! せっかくみんなでオフ会に来て温泉入っていい気分になれたのにいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「全くだよ!? なんでこんなに多いの!? 充実しているから恨みでもあんのか!?」

「文句を言ってないでどんどん狩る! ほら、追加の団体様のご登場だぞ! なんか甲殻類みてーな足が生えた魚の団体だ!」

「キモッ!?」

「やあああああああああああああああああああああ!? 来ないでええええええええええええええええええ!?」


 マグロやカツオ、鮭の体にカニみたいな足が生えた気持ち悪すぎる生き物が這い上がってきて、強烈な生臭さを発してメンタルを削ってくる。

 顔を真っ青にしたヨミが口と鼻を左手で覆いながらキモいとドン引きし、ヘカテーが半狂乱になって『ヴァーミリオンバタリングラム』でかっ飛ばす。


 ここにきて余計な獲物が増えてしまい、まだまだ船の周りを囲んでいる触手どもをどうしてやろうか、いっそのこと『血濡れの殺人姫』を使って一気に殲滅してやろうか。

 そんな極端な考えた脳裏をよぎった時、ヨミの警戒網を一本のタコ足がすり抜けてきて、左脚に巻き付く。


「み゛ゃああああああああああああああああああああああああ!?」


 そのまま持ち上げられ逆さ釣りに吊り上げられてしまい、ヨミは悲鳴を上げる。

 咄嗟に左手でスカートの裾を抑えることはできたが、多分ろくに守れていないだろう。

 しかし今着けている下着は見られたくない。何しろ、ヨミの年齢や見た目からすればかなり背伸びした、派手な赤色の紐パンだから。


”ナイスだ触手ぅ!”

”クソぅ、ヨミちゃんの反応速度が高いからパンモロは回避しやがった……!”

”だが、上下逆さまで宙ぶらりんのままずっとパンツを隠し切れるかな!?”

”カメラ君ッ! もうちょっと横に行くか後ろから撮影してくれ!”

”ワイは見逃さなかったぞ。一瞬だけ赤の紐っぽいものが見えたのを……”

”ものの見事にパンツが見えることを期待してる変態しかいないな。目に焼き付ける準備はできています”

”誰一人として心配はしていないのである”


「ボクの下着を見ようとするな変態共!? こんな太ももだけ太い貧相なボクのどこがいいんだ!? 第一なんでちょっとタコの方を応援して───ひゃああああああああああああああ!?」


”まさかまさか。ヨミちゃんの応援をしてるよ”

”でもやっぱり普段ガードが固い女の子のエッッッッッなのを期待しちゃうんすわ”

”太ももだけが太い貧相な、だって? 太ももが太いのがいいんだろうが”

”太ももは太ければ太い方がいい。ロリであればなおさらヨシ”


「あ、ちょっと!? 左手は、左手はダメッ! や、やめろ!?」


 パンモロしないための最後の砦である左手に、別の触手が巻き付く。

 それだけはダメだと常に待機状態にしてある『フィジカルエンハンス』と『ブラッドイグナイト』を同時に起動して、力で引き剥がそうとするのに抵抗する。

 すると、そっちがその気ならこうしてやると言わんばかりに周りに次々と触手が出てきて、ゆっくりと恐怖を煽るように迫ってくる。ものすごくうねうね動きながら。


「ひっ!? た、助け───むぐっ!?」


 これ以上は無理だと助けを呼ぼうとしたら、後ろから顔に触手に巻き付かれて口をふさがれる。

 強烈な生臭さとぬめぬめした気持ち悪い感触に、背筋がぞぞぞっと震え肌が粟立つのを感じる。

 これはまずい、非常にまずい。一定時間呼吸を封じられると窒息のバッドステータスが発生し、スリップダメージを受け始める。

 何度もノエルの胸に抱き寄せられて経験しているので、何気にその苦しさを知っている。


「っ、っ、っ……!?」


 自由の右手を振り回してブリッツグライフェンで口を塞いでいる触手を切り落とそうとするが、それも巻き付かれてしまい完全に動きを封じられる。

 しまいには体に張り付いている吸盤が変に吸ったり離したりを繰り返しており、こそばゆいやら気持ち悪いやらでもう頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 しかも何が一番最悪かと言えば、今日に限ってデバイスがゲーミングデバイスとなっており、感覚がよりリアルになっていることだろう。

 巨大なタコに絡みつかれると言う経験は、生憎リアルで一度もないが、もし本当にこんな化け物がいるとして絡みつかれたらこんな感じなのだろうなと、ぬめぬめな粘液を飲まされえづきながら思った。


 窒息によるスリップダメージが発生し始め、本格的にこれはまずいと剥がそうと暴れるが、両足と右腕、お腹に顔周りに絡みつかれているせいで上手く動けない。

 このままでは窒息死してしまうと最悪を想定すると、急に浮遊感が襲ってくる。

 海に叩きつけるつもりかと思ったがそれにしてはゆっくりで、四肢が自由に動けることに気付く。


「大丈夫ですか?」

「げほっ……! フレイヤさん……? た、助かりました……」


 助けてくれたのはフレイヤだった。背中から機械の翼であるイカロスの翼を展開して浮遊しており、迫り来る触手をシールドで防いでいる。


「……見れば見るほど気持ち悪いですね」

「マジでそうですよ……。しかも粘液まみれで、ボクそれ飲まされて……、おぇ……」


 喉に絡みつくような不快感がある。あとで口直しに血液パックを飲むか、ノエルから血を貰いたい。


「女の子にはこうしていやらしく絡みついて、倒しても倒しても数が減らない。こういうのが一番嫌いです」

「ふ、フレイヤさん……?」


 なんか声のトーンが一気に下がり、感情なく言葉を発する。

 言い表せない悪寒を感じて顔をあげると、絶対零度の無感情の瞳でシールドに張り付くタコ足を見つめていた。


「一応食べる分には美味しいそうなので、必要数だけ確保して、後は殲滅します。『武装展開(アームズ・オン)全武装解放(フルウェポンリリース)』」

「え゛っ!?」


 なんだそのロマンたっぷりな名前は、というよりも先に、過剰威力すぎるだろという感想が来た。

 それはやりすぎだと止めようとしたが、それよりも早くフレイヤが行動に移し、爆撃、氷結、雷撃、物理、暴風、炎、水、岩、鉄、等々。数々の属性攻撃がそれぞれ対応した魔導兵装から全ぶっぱされ、瞬く間にタコ足とイカ足が減らされて行く。


”タコさーん!? イカさーん!?”

”フレイヤちゃん、それは過剰戦力すぎ……”

”フルウェポンリリースとかかっこいい要素しかないし普段だったら『すげー!』っていうけど、今回に限って言えば過剰戦力すぎて笑えない”

”やwwwりwwwすwwwぎwww”

”フレイヤちゃんが飛び出した辺りから、美琴ちゃんたちが戦うのやめてて草”

”攻撃範囲と多彩さで言えばこの子が一番だからね”

”爽快感はあるけど、今回は喪失感もある”


 結局タコとイカの方を応援してたんじゃないかとカメラにジト目を向ける。

 その後、フレイヤが戦いに参加してから十分もかからずに殲滅が完了し、一緒に船に戻ったヨミはすぐに下着から全て着替え、なぜかついてきたノエルから血を少し貰って口直しをしてから、大量のタコとイカの食材が手に入ったのでそれで船上たこ焼きパーティーとイカリングパーティーを行った。

 食材としては結構ランクが高いものだったようで、憎たらしいことにどれも絶品だった。だが当分はもうイカとタコは見たくないと、熱々のたこ焼きをはふはふと食べながらしみじみと思った。

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