打ち上げとお姫様にご褒美
「うっふふふふふふ……。な、なんて素晴らしい……。これがあれば、それこそFDO最高倍率の竜特効兵装が作れます……」
「これがグランド素材か。確かにこれはすさまじいな。君はこれを早々に倒すだけでなく、これを使った武器を持っていたというわけか。ズルいな」
「ズルいってなんだよズルいって。ちゃんとめちゃくちゃ苦労して手に入れたものですぅー」
リトルナイトのエマの屋敷をセーブポイントにしていたため、再度ログインして目を覚ますと、フレイヤがヤバい目でゴルドフレイの鱗と牙を見つめながら撫でており、アーネストは爪と鱗をじっと見つめていた。
文字通りのこのゲーム内最高レアリティの素材だ。売却するだけでもとんでもない値が付くし、それを使って装備を作れば強力なものが出来上がる。
ヨミも一部剥ぎ取って手元にあるのだが、これ以上武器を増やしても使いきれないし、ブリッツグライフェンは高速変形機能もあり非常に使いやすくなじんでいるので、これを変えたくない。
せっかくロットヴルムを苦労して倒して手に入れた白黒の夫婦剣も、まともに使ったのはアンボルト戦までで、そこからは夜空の星剣のバフ能力だけしかろくに使っていない。
ブリッツグライフェンで色んな武器に変形させて、様々な武器種を使いこなせるようにしてはいるが、多いとそれだけ使いきれずに腐ってしまうものも出てきてしまう。
初期に手に入れたものであればともかく、ユニーク装備などの強力なものはインベントリ内で腐らせるのはもったいなさすぎる。
「これを使ってアロンダイトを強化するもありだし、フリーデンのクロムに頼んでグランドウェポンを作ってもらいもあり。何ならフレイヤに魔導兵装を作ってもらうのもありかもな」
「これだけの素材で作る魔導兵装はさぞ強力でしょうねぇ……。音速の十倍以上速度の墜落にすらほぼ無傷で耐えきることのできるエネルギー保護。攻撃にも転用できるエネルギーを操るだけとシンプルであるからこそ強力な能力。それを私の手で……うふふふふふふふふふふ」
「……しばらくは使い物にならなさそうだし、クロムに頼むか。そう言えば、ヨミの防具もアンボルトのものなんだってね?」
「そうだよ。耐久は低いけど筋力をメインで強化してくれる奴。最高レアリティ素材使ったから、かなり筋力上ってる。ノエルほどじゃないけど」
「君の幼馴染のSTR値はどこまで行っているんだ」
「さあ? もう300近く行ってるんじゃない?」
本人も加減しないと制御できないと笑っていたし、冗談ではなくマジでそれくらいはありそうだ。
とにかく生存のためのVITも、自己強化できる幅が増えるMPが増えるMNDと魔術の性能を上げるMAGをほとんど上げずにSTRを上げるように依頼してたし、アンボルト鎧一式で発動させることができた防具スキル『雷禍の王鎧』も、とにかく筋力を底上げする性能だ。
一体あの脳筋はどこを目指しているのかと、同じ脳筋でも自分でもちゃんと制御できる値にしているヨミは頭を抱えそうになる。
「さっき美琴も鱗を取りに行くと言ってウラスネクロまで行ったが、かなり浮かれていたな」
ちなみにだが、ウラスネクロ大霊峰へはリトルナイトのワープポイントからファストトラベルできるようになっているので、初めて行った時のように長時間かかることはない。
「そりゃ、美琴さんもグランド倒したいってずっと言ってたし。装備の更新もできて今までよりも強い竜特効が武器に付くから、もしかしたらずっと挑んでる緑竜王に勝てるようになるんじゃない?」
「三原色はそう優しい相手じゃないよ。ゴルドフレイと戦って分かったが、上位三体は次元が違う。フィールド全体の即死攻撃なんて、タンクがほぼ確実に半分以上やられるからな」
「何その地獄」
「君の国で言うところの、大紅蓮地獄という奴だね」
「……アーネストって、日本人じゃない?」
「おっと、リアルの詮索は止したまえ。まあ、どの道そう遠くないうちに知るだろうが。ところで、さっきからその二人が非常に気になるんだが」
アーネストの視線がヨミの太ももの方に向く。だが彼は別にヨミの太ももを見たいから視線を落としたのではなく、揃って膝枕をしてもらっているエマとステラの二人を見ている。
二人一緒にお願いしますと言ってきたのでどうしたものかと思ったが、正面にいるアーネストにパンツが見えないようにあぐらをかいて、左右の太ももをそれぞれに差し出した。
「二人とも膝枕してほしいって」
「それは……まあ、うん」
「おい、何を妄想した変態剣聖」
「酷いことを言わないでくれないか? 別に何も思っちゃいないよ」
「ほんとに?」
じとっと睨み付けると、すーっと視線を逸らしていくアーネスト。
「……レディに対して言いたくはないが、君の太ももは肉付きがいいから、それもあってそこのお姫様二人にお願いされたんだろうな、と思ったよ。確か幼馴染のノエルからもお願いされてなかったか?」
「アーネストってむっつりスケベじゃないだろうね」
「私はロリコン趣味じゃない」
「誰がロリだ誰が!」
「とはいうが、お姉様は小柄だからそう言われても仕方ないと思うぞ? それがまた可愛らしいのだがな」
「体が小さなヨミ……も、素敵、だよ?」
「二人とも、それ援護じゃなくて追撃だから」
どっちがよかったのかはいまだにわからない。
太ももが太いとやたらと下半身に視線が集中するし、同性の親しくなってきたクラスメイトからは触られるようになるし、今もこうして膝枕している。
では胸が大きければよかったのかと言われれば、元男として考えれば足元が見えないくらいの巨乳であったらそれはそれで嬉しいが、大きい分苦労するのをのえるを見て知っているし、太ももが太いより胸が大きい方がいやらしい目を向けられる。
結局何事もほどほどが一番だなと、エマが太ももをもっちもっちと揉んで来たので軽いチョップを側頭部に落とした。
しばらく適当にアーネストと雑談していると、自分の世界から帰還してきたフレイヤも話に混ざってきて、ヨミにも大火力魔導兵装を一つ作ってくれると約束してくれた。
流石にそこまではいい、どうせマーリンから報酬として何かを貰うことになっているのだしそれで十分だと断ったのだが、ラストアタックボーナスはフレイヤのものでグランドクエストは唯一のものだし、グランドクエストに参加できたのもヨミのおかげなのでそのお礼だと言って押し通された。
「ところで、ラストアタックボーナスって何なのでしょうかね」
「あぁ、それなら多分竜王の心核だと思う。他の人にも譲渡可能だけど、基本はラストアタックしたプレイヤーだけが手に入れられるもの、だと思う」
「随分曖昧ですね」
「ギルメン全員、黄竜王の心核はいらないって言われたし、あれに参加したのボクのギルメンだけで持ってきたの全部NPCだったから推測でしかないんだよね。多分フレイヤさんもリトルナイトの吸血鬼からそのうち受け取れるようになるんじゃない?」
ヨミの場合はそれが来るまでそこそこ時間がかかったが、今回は500人のプレイヤーがおりみんな躍起になって剥ぎ取りしに行っているので、前よりは早く手に入れられるかもしれない。
金竜王の心核はどんな能力なのだろうか、同じように突破がほぼ不可能なレベルの防御を展開したり、音速を突破して飛んでくるのだろうか。
全身をがちがちに武装したフレイヤ音速の数倍ですっ飛んでくるのを想像すると中々にホラーだが、あくまで妄想でしかないのでフレイヤがそれをお披露目してくれるのが楽しみだ。
彼女のことだし、魔導兵装に組み込んでしまいそうではあるが。
しばらくすると、エマとステラがヨミの太ももの寝心地がいいのかそのまま穏やかな寝息を立てて眠り始めてしまった。
アーネストだけならともかくまだ他にもヨミの変態リスナー共がいるので、飢えた猛獣共の前に極上の餌を置いておくわけにはいかないのでフレイヤに協力してもらってエマの屋敷に運んだ。
二人を運び終えて外に出ると、美琴がいつの間にか戻ってきていた。丁度二人をベッドの上に横たわらせている間に来たようだ。
「あ、いたいた。ヨミちゃん、ゴールデンウィーク中は暇?」
「え? えぇ、まあ、暇っちゃ暇ですけど」
「じゃあさ、ゴールデンウィーク中にさ、みんなで打ち上げ旅行しようよ」
あまりにも唐突な申し出に、ぱちくりと目を瞬かせる。
「構いませんけど……今から予約取れます? ゴールデンウィーク真っ只中ですけど」
「それなんだけど、私の知り合いが経営している旅館で結構大きな団体の予約があったんだけど、なんか急にキャンセルが入ったんだって。なんでも、会社ぐるみでとんでもない不正をしてて、内部告発されて蜂の巣を突っついた騒ぎになったみたいで」
「うわぁ……」
「で、どうしようかってお父さんに連絡してきて、お父さんもお母さんもゴールデンウィーク中はきちんと休みを取るけど、二人は二人で旅行に行きたいって言ってたし、どうせなら友達誘って行って来いって」
美琴の知り合いというだけで何故か信用できてしまうし、更に言えば彼女の両親も知り合いで信用している様子だし、安心できる。
本音を言えばめちゃくちゃ行きたい。行きたいが、美琴の友達となるとカナタやサクラは当然で、フレイヤ、リタも来るだろう。
FDO内での温泉交流の時点でかなり限界だったのに、リアルの方となるとフィルターという視覚保護もないので見えるところは全て見えてしまう。そうなったらあっという間に限界を迎えてしまうだろう。
「美琴さん、そこって温泉ありますか!?」
ちょっと返事をためらっていると、いつの間にか来ていたノエルが元気よく質問する。
「もちろん。温泉街にある旅館だからね。美肌効果もばっちりな場所よ。ちなみに、料理も絶品」
「やーん、超行きたい! ヨミちゃんも行くよね!?」
「……この流れでいかないとか言ったらただの薄情者だよ」
こいつ、さっきの仕返しかとジトッと睨むと、へったくそな口笛をしながら顔を逸らす。
やっぱりかと、にっこりと笑みを浮かべつつ口の端をひくひくとさせながら、がしっと肩を掴む。
「アーネストくんはどう? 私としては、女の子だけの旅行はちょっと不安があるから来てほしいんだけど」
「イリヤ次第だな。どうせ行くと言うだろうが。フレイヤたちは?」
「私は是非とも行かせていただきます。リタは、私が行くと言えば絶対に来るでしょうね」
「仲いいわよねー。こっちもトーチちゃんとかに声かけておくわね。んふふ、大人数の友達と旅行なんて楽しみ」
美琴はうきうきでウィンドウを開いて素早くタイピングしてメッセージを送り、フレイヤも今はまだこの場にいないリタに向かってメッセージを送る。
結局グラマラスなお姉さん組が揃うということで、温泉の時は地獄のような桃源郷になることがほぼ決定してしまった。
シエルは何かと理由を付けて逃げそうな気配がするので、何が何でも連れて行く。女子の比率の高いこの旅行に数少ない男子として連れて行ってやると意気込む。
その後、ギルド共有となっているワープポイントからシズがやってきて、シズも付いていくと言う話になり、すぐにログアウトして来たる旅行に向けての準備をしに行った。
まだ数日先の話だが、早いうちに準備をしておくことは大事なので、ヨミもシズを見習って早めに準備をしっかりとしておこうとログアウトして、家族旅行の時にも使ったボストンバッグを引っ張り出して、付着している埃をふわふわワイパーで拭き取ってから必要な分の着替えや必需品を詰め込んでいった。




