蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 6
ゴルドフレイがヨミの使う雷王怨嗟を警戒してか、ヨミ一人をとりわけ強く敵視してタンクのヘイト誘導スキルがほとんど効果を成さなくなったのは正直予想外だった。
考えてみれば、竜王そのものの力なのだから竜王にかなり有効なのは考えるまでもないことなので、使ってダメージを入れれば警戒されるのは火を見るよりも明らかだ。
とにかくヨミを排除しようと猛攻を仕掛けてくるので、いっそのこと一旦自分が全てのヘイトを買ってやろうかと、ブリッツグライフェンを全て分解して背中に集めてから、アンボルト素材のおかげで腐敗の力をより多く引き出すことができ、かつ雷の付属効果も付いてきた斬赫爪を取り出す。
「ギィィィァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「つくづくバーンロットはどんだけ怖がられてんの!?」
斬赫爪を取り出した瞬間、見るからに怯えを見せたゴルドフレイに思わずツッコミを入れる。
最強の竜王、最初の竜王、ということくらいしかまだわかっていないが、それだけにしては流石に恐れられすぎている。
他の王との間に何があったのだろうかとだんだん興味が湧いてきたので、近いうちに森の奥に行ってちょっとお話でもしてこようかと予定を立てる。
斬赫爪を装備したヨミを何よりも先に排除してやろうと、尻尾と翼の付け根からエネルギーを噴射して踏ん張らずに一気に飛んできて、シェリアの警告と誘導のおかげで難なく回避。
体の表面を撫でつけるように大鎌を振るい、ほんの少しだけダメージを入れる。
腐敗の力は以前よりも強くなっており、蓄積も早くなっているはずなのでゴルドフレイも腐敗状態になるまでそう時間はかからないはずだ。
本当はバーンロットのもう一つの能力である炎も引き出したかったが、クロムも炎の力自体は感じられるが引き出し方が分からないとお手上げだった。
仕方ないので腐敗を強化したが、この腐敗の力は王が由来になっているので非常に強力だ。
体を撫でつけられたゴルドフレイは、まるで暴漢にでも遭遇した乙女のように大きな悲鳴を上げて、制御を崩してもんどりうって地面を転がる。
大慌てで立ち上がった奴は、怯えた目でヨミが持つ斬赫爪をを見つめてヨミが近付くとその分だけ離れようとする。
「……へぇ」
本気形態じゃないバーンロットの左腕を素材にしたので、本体よりも性能は格段に落ちているはずだが、それでもこの怯えよう。
これは非常に使えるなと、にこーっと笑顔を浮かべて全力で向かって行く。
まるで来るなと叫ぶかのように咆哮を上げて、連続でブレスを放ってくるが先読みと持ち前の動体視力と反射神経と勘で回避しながら前に突き進む。
体を捻り、跳躍し、血の武器を足場にして蹴って加速し、立体的に動き回り、影の鎖をあちこちに配置した血の武器に巻き付けることで立体機動して機関銃掃射ブレスを回避して接近する。
徹底的にヨミだけを最優先で排除しようとしているため他の警戒がゼロになってしまったようで、フレイヤとノエルが接近していることに反応が遅れて、二人がかりでのアッパー攻撃を受けて顔が上に弾き上げられる。
「『ジェットファランクス』!」
逆鱗がどこにあるのか分からないので、数のごり押しでMPを大量消費して無数のジェットブラックの槍を形成し、一斉射出する。
喉元全体に槍が当たり、どこかにある逆鱗にも命中したようでHPがぐぐっと大きく減りビシッ、と何かに亀裂が入るような音がする。
ゴルドフレイの謎防御はただ逆鱗を攻撃するだけでなく、一定以上の威力がないとダメということが判明し、それならと息を吸い込む。
「クルルさん! 喉元を重点的にトリガーハッピーしてください!」
「言われなくても分かってるわよ! 全弾強撃弾掃射でも食らいなさい、この金ぴかクソでかトカゲ!」
フレイヤが呼び出したカーテナを持つ女性のフォルムをした足のない大型人形が、横から思い切り剣で殴りつけてからノエルが追撃で固有戦技でぶん殴り、更にフレイヤが特大ハンマーを取り出して殴って追撃の衝撃波でも発生したのか、二重の衝撃音が聞こえてついに地面に張り倒される。
シェリアが素早く指示を出して術師たちが一斉に拘束系魔術を使って起き上がれないように縛ってから、クルルが急いで喉元を狙える位置まで走り、滑りながら止まってすぐに引き金を引く。
弾丸の嵐が襲い掛かり、硬いものにぶつかるような音が大きく響いたが、顎の方に少しブレッヒェンを傾けると連続的に大きなダメージが入り、何かが砕けるような音が響く。
ゴルドフレイが大きな声を上げてかけられている拘束魔術を引き千切って起き上がり、秒間200発の弾丸から逃れる。
だが正確な場所までは分かっていないがどの辺にあるのかは絞れた。あとはトーマスの腕次第だ。
「『ウェポンアウェイク』───『緋色の敗爪』!」
強化を重ねることで解放された固有戦技を使う。斬赫爪の刃に赤い腐敗がまとわりつき、腐敗耐性の高いヨミですらその瘴気にあてられて腐敗ゲージが溜まっていく。
非常に短い間だけ、腐敗の能力を大幅に増幅させることができると言うだけの固有戦技だが、腐敗という状態異常が強いのでそれだけでもこの戦いを有利に進められる。
しかしこれを使っていられるのは長くても二十秒程度で、それまでに攻撃を何度も叩き込んで相手を腐敗状態にしないといけない制約がある。
ぼさっとしている時間もないので起き上がったゴルドフレイに向かって行くと、やはりバーンロットを怖がっているので逃げようとする。
「逃がさない!」
固有戦技でノエルが殴りかかり、ヘカテーも自分の血の武器を空中に配置して血の鎖を飛ばすことで立体機動で急接近し、高い筋力と高速移動の勢いを乗せた一撃で顔を殴る。
シエルは逃げられないように胴体に滅竜魔弾を撃ち込んで体を揺らし、アーネストが上からアロンダイトを叩き込む。
術師たちも大魔術を使って足止めし、それでも逃げようとするゴルドフレイ。
「空間凍結、使います! 領域・凍結封印!」
これではだめだと判断したフレイヤが、大きな十字架のようなものを取り出してゴルドフレイの近くに突き立てて起動させる。
マーリンのように離れた場所から座標を指定しての凍結まではできなかったようで、十字架を突き立てた場所を中心に数百メートル以内にある指定したものの周囲の空間を凍結させるように作ったと言う。
空間ごと動きを止められたゴルドフレイは、一切身動きが取れなくなってしまったことに驚いたように目を見開き、接近するヨミに恐怖の眼差しを向ける。
「『デッドリーカーネイジ』!」
大鎌熟練度100の大技を使用。
戦技のエフェクトと腐敗の尾を引きながらヨミがぐんと超加速して接近し、体の発条を使った鋭く強力な五連撃を叩き込む。
クルルが逆鱗を攻撃してくれたおかげで防御は剥がれており、ダメージが大きく入る。鱗に傷がつき、大鎌が深く突き刺さる。
ヨミの腐敗ゲージが限界まで溜まってしまったので固有戦技を解除するが、ゴルドフレイの体に付いた傷からは赤い腐敗が見えた。
「腐敗状態になった!」
「ナイス! そして、うちは逆鱗の場所を見つけたぁ!」
腐敗を治すために下がりながら浄化結晶でダメージを受けつつ腐敗を打ち消すと、ゼーレが前に飛び出していく。
彼女もギルメンになったし差別はよくないからと作成したグランドウェポン『鳴王刀』と、ドイツ語での命名が続いた竜王シリーズでは珍しく日本語のものを持ってゴルドフレイの体を駆け上がる。
流石はアサシンスキル持ちと言ったところか、するすると体を駆け上がっていきアサシンスキルなのか逆さまになりながらしっかりと首に両足を付けて立つゼーレが、一点に向かって鳴王刀で突きを繰り出す。
「『ウェポンアウェイク』───『千鳥』!」
突きを繰り出す瞬間に固有戦技を発動し、雷を刀身にまとわせて威力を上昇させる。
ゴルドフレイよりは格下、されど同じ竜王の力の一撃をたった一点、逆鱗に叩きこまれて大ダメージを受けて悶絶するように悲鳴を上げる。
防御が張られていない状態で逆鱗に攻撃を受けるとより大きなダメージを受けるようで、ごりっと二本目が大きく減ってもうすぐ三本目に突入しそうになる。
「痛いよねぇ。ごめんねとは言わないけど。というわけなのでトーマスさんやっちゃってくださいな」
張り付いていた首から落下して空中でくるりと回転して、着地と同時に転がって衝撃をいなすノーダメージで着地する。
同時に、一条の雷の弾丸が一直線に飛んで行き、途中で軌道を大きく変えてゼーレが攻撃した場所にぶち当たり、二本目を削り切り三本目に突入する。
これでトーマスは逆鱗の位置を掌握した。あとは防御が張られるたびに逆鱗を狙って剥がし、アタッカーや後方火力組でじわじわと削っていくだけだ。
あまりにも大きな功績に、終わったらゼーレに何かご褒美でもあげないといけないとなと考えていると、空間凍結が解除されてゴルドフレイが自由になる。
直後にヨミたちを牽制するように頭上に魔法陣を出現させ、そこから大きな隕石をいくつも落としてくるが、落下攻撃にしては高度が足りなかったからかかなりの数隕石がその場に残る。
エマの話を思い出し、これはゴルドフレイの必殺の奥の手の前兆だと悟り、大声で号令を出す。
ヨミたちは岩の裏に退避するように行動し、ゴルドフレイはエネルギーを噴射して空に飛んで行った。
豆粒にしか見えなくなるほどの高さまで飛んでいくと、ゴルドフレイがいる場所を中心にフィールド全体と同じ大きさの魔法陣が現れて、地面に大量のAoEが発生する。
しかし奴の牽制に放った隕石の裏側の一定範囲内にはAoEが発生しておらず、そこが数少ない安置であることを示している。
全員がどうにかして隕石の裏側に隠れたところで、遥か上空にいるにもかかわらずそれでも思わず耳を塞いでしまうほどの咆哮を上げ、それを合図に魔法陣から大きな隕石が次々と姿を見せた。




