蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 5
逆鱗に水蒸気爆発でダメージを入れたことで謎の防御が一時的に崩れ、ダメージの通りが非常によくなる。
どれくらいの時間で元通りになるのかは分からないが、戻るまでの間にとにかく攻撃を仕掛けまくる。
フレイヤの作る魔導兵装にはすべて竜特効が付いているため、ヨミの夜空の星剣の固有戦技の影響範囲外にいてもいいダメージを与え、影響範囲内にいる近接アタッカーや魔術師アタッカーが火力を出す。
美琴も背後に一つ巴紋を三つ出して蓄積させ、雷を圧縮して作り上げた刀を開放してとんでもない威力の抜刀術をお見舞いしていた。
サクラは右手の打刀、左手の脇差で素早い連撃を舞でも舞うように繰り出し、カナタは両手でしっかりと構えた刀で手数を減らして一撃に威力を置いた攻撃を続ける。
MP消費をまだそこまで意識しなくていいアーネストは、最大火力のアロンダイトをぶちかまし、亡霊の弾丸たちは各々で威力の高い弾丸魔術を顔面や首元に集中させる。
「『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷殲・大剣撃』!」
ヨミも大鎌から二本の片手剣に変形させたブリッツグライフェンで激しいラッシュを繰り出して蓄積を早め、最大まで溜まったところで両手剣形態にして全放出した。
強力な竜特効固有戦技が叩き込まれ、ゴルドフレイのHPががりがりと削れて行く。
もうすぐ最初の一本が削れる。アンボルトは二本目を削り切ってから、超々広範囲雷ブレスを放ってきたので、HPバーに十本の金ぴか竜王もそうだろうと思った。
だが考えが甘かったと現実を突きつけられる。
『ゴルドフレイが体にエネルギーをまとって防御を固めました!』
「魔術師隊、もう一度水蒸気爆発で逆鱗狙いなさい!」
シェリアが監視してくれているおかげで、ゴルドフレイの行動の機微が分かる。
再び防御が展開され攻撃の通りが極端に悪くなるが、さっきよりも通りが酷く悪い。
何かしてくるつもりだなと警戒していると、尻尾と翼の付け根の噴出孔からエネルギーを強烈に噴射させて踏ん張ることなく、近くにいたタンクを蹴散らしながら空へと飛んで行った。
まだHPを一本も削り切れていない状態での行動の大幅な変化。やはりメインで最難関コンテンツなだけあって、前がそうだったからこいつも同じだと言うわけにはいかないらしい。
「どこに飛んで行ったんだろうね」
たたた、と駆け寄って来たノエルが不安そうな顔をする。
「アンボルトは高い位置からの超特大ブレスだったけど、ゴルドフレイのブレスはあいつみたいに広がるんじゃなくて、一点集中の貫通型っぽいから違うだろうね」
「となると、エマちゃんからの情報を踏まえて考えると……」
地面にぽつぽつと、赤いAoEが表示される。超高速飛行しながらの連続ブレス攻撃か、連続召喚した小さな隕石の落下攻撃の前兆だ。
どっちが来るのかは見てからじゃないと分からないが、今は足を止めている場合じゃない。
「走れえええええええええええええええええ!!」
ヨミの号令と共に、あちこちに連続して発生するAoEから逃れるように全員が走り回る。
こうしたところでまだ運営の人の心を感じられるが、それを帳消しにするレベルでの密度の攻撃が雨となって襲ってくる。
ゴルドフレイの今回の高速旋回しながらの攻撃は、隕石召喚ではなくブレスの機関銃掃射のようで、金色の弾丸が無差別に襲い掛かってくる。
防御力が低いプレイヤーは必死になって走り回り、HPに余裕のあるタンクはがちがちにバフをガン盛して耐えようとして一発でガードブレイクが発生したり、約一名の戦闘狂が固有戦技連射で迎撃しようとしたり、ロマン信者の金髪女子高生が超火力兵器で相殺しようとしたりしていた。
エマから迎撃は考えないほうがいいと言われていたのになぜそれをしたのか分からないが、アーネストはアロンダイトで相殺しきれずに直撃し、フレイヤはガードしようとしてガードごと爆散していた。
まだ蘇りの祭壇の効果がギリギリ残っているのでよかったが、もしここで効果が切れていたらどうするつもりだったのだろうか。
ウラスネクロ大霊峰のふもとに飛空艇を配備しており、そこをリスポーン地点にしているのでそこから戻ってくるつもりだったのだろうか。
「ってかいつ終わるんだよこれえええええええええええええ!?」
一分以上も雨のように降り注いでくるが、まだ続く金色の雨。密度が増していき、足が遅いプレイヤーや防御力の低いプレイヤーが直撃してポリゴンとなって消えていく。
祭壇の効果はあと一分も残っていないので、もしまだ一分以上も続くのなら序盤でかなりきついぞと怒りをあらわにして、うがー! と腕を振り上げる。
とにかく全力で走り回り、体を捻り、飛び上がり、回転してギリギリを掠め、着地してすぐに転がり、立ち上がるのを待たずに低姿勢のまま走って加速する。
息を吐く間もなく、影に潜って五秒間だけ凌ごうにも飛び出た瞬間そこがAoEだったら回避のしようがないのでできない。
まだなのかと、次々と発生するAoEを見て速攻で判断するために頭をフル回転させながら走り回っていると、やっと金色の雨が止む。
やっと降りてくるのかと一安心すると、ヨミを中心に特大のAoEが発生した。
まだ来るのかと舌打ちして本気で走ると、なんとAoEが追いかけてくる。つまりはヨミ個人を狙った強力な攻撃だ。
空を見上げると、ゴルドフレイが斜めに大きく円を描きながら旋回しており、徐々に加速しているのが分かる。
それだけでどんな攻撃を仕掛けてくるのかを悟り、被害を少しでも減らすためにプレイヤーが少ない方に向かって走り出す。
シェリアが俯瞰で見ているためヨミの意図を察してくれたおかげで、ヨミが走っていく方向にいるプレイヤーに指示を出して、ヨミの方に向かって走ってきてすれ違っていく。
ここまで来れば大丈夫だろうと立ち止まって振り返り、空を見上げる。どれほどの速度になっているのかゴルドフレイの描く金色の軌跡は綺麗な楕円を描いており、劈くような大轟音がびりびりと響いている。
点滅するように足元にあったAoEが一際濃くなってから二秒後、一直線にゴルドフレイが落下してきた、というのを直撃してから分かった。
すさまじい衝撃と共に体が潰されたのが分かり、しっかりと効いている痛覚軽減でも体中にきしむような痛みを感じる。
もう既に蘇りの祭壇の効果はなくなっている。今から新しく設置しても、ヨミは今からでは蘇れない。
だが、ストックが最大数までありそれが自動で消費されてHPを四割回復させてから復活する。
「どうやって回避すりゃいいんだよ今の!?」
最大速度が音速の十倍以上だと聞かされていたが、知識として知っているだけで経験がなかったので反応すらできなかった。
なんとなく、自分のステータスでなら行けるだろうと思っていたことが、粉微塵に粉砕される。
とりあえず、復活したヨミを狩ろうとブレスを放とうとしてきたので影に潜り、大急ぎで一番近くにある影まで向かって飛び出し、追いかけてくるゴルドフレイから死に物狂いで逃げ回る。
「追いかけてくんなあああああああああああああああああああ!?」
今の極超音速墜落攻撃の反動なのか、まだ一本目すら削れていなかったHPが二本目に突入しており、エネルギー噴射ができなくなっているのか走って追いかけてくる。
それでも70メートルを超える巨体なので一歩一歩がものすごくデカく、結果的にすさまじい速度で追いかけられているように錯覚する。
「ヨミちゃんを、いじめるなあああああああああああああああああ!!」
後ろからバグンッバグンッ! と何度も噛みつき攻撃を放ってくるので地味に恐怖心を煽られ、目じりにちょっぴり涙を浮かばせているとノエルがすっ飛んできて、固有戦技『雷霆の鉄槌』を使ってフルスイングで顔面をぶん殴った。
ノエルの異常な筋力の高さと、高い竜特効性能と物理性能のトリプルパンチで、ゴルドフレイの体が大きく横に弾かれる。
ノエルがヨミの近くに着地した後、フレイヤが転送魔術が籠った魔導兵装を使って迎えに来てくれて、二人に触れながら自分で転送魔術を起動してゴルドフレイから離してくれる。
「ノエルうううううううううううううううう! 怖かったよおおおおおおおおおおおおお!」
「よしよし、怖かったねー。もう大丈夫だからねー」
バカデカい化け物に追いかけ回されると言う恐怖体験に、思わずノエルに飛びついてしまう。
飛びつかれたノエルはよしよしと頭を優しく撫でてなだめすかしてくれて、十秒後に配信中かつ周りの視線があることを自覚して、真っ赤になりながら離れる。
「仲がいいって素晴らしいね」
「いっつも二人一緒だよねー」
「ヨミさん、いつも頼りになるのに今のちょっと可愛かったです」
「最近ヨミが姉さんにべったりで、流石の俺もどうするべきか困るんだが」
「お姉ちゃん、すっかりノエルお姉ちゃんの妹だねぇ」
ジン、ゼーレ、ヘカテー、シエル、シズが妙に温かい目でこっちを見てくる。ノエルに助けを求めようにも、本人はヨミに甘えられてまんざらでもないので助けは期待できない。
「う、うるさいうるさいうるさい!? そんな微笑ましいものを見るような目で見るな!? そんなことしてる場合じゃないから!?」
「お前が言うな」
シエルにバッサリと切られる。ごもっともだ。
コメント欄も「てぇてぇ」で埋め尽くされており、グランドクエストの真っ最中なのになんて緊張感がないんだとぐぬぬ……、と歯軋りしてからもう知らんとそっぽを向いてゴルドフレイの方に向き直る。
ゴルドフレイさんはちょっと空気を呼んでいたのか、黙ってヨミがいた場所で止まっていた、と思いきや口からエネルギーを漏らしているのが見えたので空気を読んでいたわけじゃなかった。
ジンが速攻で前に飛び出して率先して防御を展開し、グランドクエストクリア報酬の「聖盾ヴィタニウス」からアンボルト素材のグランドシールド「ブリッツヴェヒター」に切り替える。
「『ウェポンアウェイク』───『災禍不侵』!」
固有戦技を発動してどしりと構え、正面に『ギガントフォートレスシールド』と同じかそれ以上の大きさのエネルギーシールドを展開する。
聖盾ヴィタニウスと固有戦技の内容が被っており、ジンの後ろにプレイヤーやNPCが多ければ多いだけ防御性能が上昇するが、こちらはMPを大量に消費しての発動で、聖盾ヴィタニウスはパッシブでの発動と使い勝手が違う。
MPを消費する分防御力は当然ブリッツヴェヒターの方が上だが、発動までにラグが発生するので素早く守るのならヴィタニウスのほうがいいと、実は意外と使い分けが可能だ。
今回、ジンの後ろには数百人ものプレイヤーがいる。加算されるのが最大でも30人までなので数百人分の防御力までとは行かないが、強力なブレスをジンがまずは一人で真正面から受け止める。
その状態から次々と盾戦技、タンクスキルを重ねて行って少しでも時間を稼ぎ、遅れてきた他のタンクがジンの後ろや横に並んで同じようにタンクスキルと盾戦技を連発して重ねる。
金色の眩いブレスが十数秒間吐かれ続け、流石は王というべきかタンク衆の防御に大きな亀裂までいれるがそこで止まった。
ブレスが効かないと分かるや否や走って突進してくるが、ブレス攻撃をされたこととさっき追いかけ回してくれたお礼をするためにヨミが前に飛び出し、全ての魔術がキャンセルされる代わりに雷の王の力をその身に発現させる。
アンボルトの心核を全て取り込み真なる雷王の力を獲得した代償として、ゲージが溜まりやすくなったが、その代償に見合うほど強力なスキルに進化した。
すぅー、っと大きく息を吸い込んでぷくりと頬を膨らませ、口元に小さな魔法陣を出現させる。
「わああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
目を閉じながら目いっぱい大きな声で叫び、一気に巨大化した魔法陣を通して特大の雷王のブレスを放つ。
真っすぐ放たれたブレスはゴルドフレイに直撃し、あの巨体を少しだけ後ろに下がらせる。
竜王の力をそのまま撃ち込まれると流石に大きなダメージが入るようで、二本目のHPが一割も削れる。もっとこれを気軽に使えればいいのだが、今のブレス一回で怨嗟ゲージが六割もたまってしまったので、しばらくは打ち止めだ。
低い唸り声を上げて鋭い眼光で睨み付けてくるが、再び雷王怨嗟を使われることを警戒しているのか飛び込んでこない。
ならばと前衛アタッカー人全員で一斉に走り出し、また飛ばれたりする前に少しでもダメージを入れることに集中する。




