蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 4
「MPの消費をある程度無視できると、私もかなり無茶ができるな! 『ウェポンアウェイク』───『湖光の聖剣』!」
一足先にゴルドフレイに接近したアーネストが、至近距離でアロンダイトを開放して光の奔流をゼロ距離で叩き込む。
ヨミのグランドウェポンとステラのアスカロンを除けば、プレイヤーが所持している竜特効付き武器の中で断トツの倍率を誇るそれに、夜空の星剣の固有戦技『月の揺り籠』を開放することで更に竜特効を付与・強化する。
高倍率竜特効攻撃にさらに竜特効が上乗せされた一撃は、アーネストがMP消費度外視で思い切り打ち込んだことでゴルドフレイの巨体を三分の一ほど飲み込む。
流石に奴もこれを食らったらひとたまりもないだろうと期待したが、ほんの少ししか減らないHPバーを見てやっぱこいつおかしいと頭を抱えそうになる。
「アーネスト、スイッチ!」
影の鎖をアーネストの左手に巻き付けて、引っ張り寄せてもらいながらアーネストは後ろに下がって入れ替わる。
「『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷霆・斧撃』!」
かなり強く引っ張り寄せてもらいその勢いを乗せた両手斧の一撃を叩き込み、強烈な雷エネルギーが全放出されて落雷のような音が響く。
ひたすら集めに集めまくったアンボルトの素材たち。使い道はないのだろうかとクロムのところに持っていったら、なんとそれを使って強化してくれた。
竜王の血というアイテムもあり、それと鱗や骨を合わせることで性能が上昇。竜特効の倍率は据え置きだったが、攻撃力と蓄積できるエネルギーの上限が増え火力が上がった。
以前までの全放出と比較して倍近くエネルギー量が違うので期待していたのだが、アーネストのアロンダイトより通りがいいだけで相変わらずほとんど減らない。
夜空の星剣で小さな満月を出し、それで竜特効を強化して他のプレイヤーにも付与してダメージを入れているはずなのに、あまりにも硬くて通りが悪すぎる。
アンボルト戦では一番のダメージソースになっていたシエルの滅竜魔弾も、ゴルドフレイには豆鉄砲と化している。
「ボクらトップ層の本気喰らって何なんだよこいつ!?」
「ははは! いいじゃないか、これでこそ燃えてくるというものだ!」
「この戦闘狂めぇ!?」
どこまでも楽しそうなアーネストと、どうすりゃいいんだと悩むヨミ。同じ戦闘狂でも種類が違うのだなと、周りから視線を向けられているが気付かない。
とにかくまずは顔面を殴り続けていくしかない。胴体は異常なまでに硬くこっちの手が痺れて来そうなほどだが、顔面は生物共通の弱点であるためまだ比較的ダメージを入れやすい。
アロンダイトを連続で叩き込んでいるアーネストの方を踏んで跳躍し、頭の上で身を翻しながら両手斧から大鎌に変形。
「『シャドウクラッドアーマメント』!」
機械チックな大鎌に影をまとわせて大きさを大幅に拡大。ずしりと重くなった相棒を体を捻り勢いを加えて脳天に振り落とす。
叩きつけられた影の大鎌は、切っ先を僅かに鱗に食い込ませてゴルドフレイの頭を少し下に揺らすが、それだけにとどまる。
結構思い切りやったんだけどなと冷や汗を浮かばせつつも、やはりゲーマーで戦闘狂な血の騒ぎを抑え込むことができずに、にやりと笑みを浮かべる。
突き刺さっている影を消してからもう一度纏い直し、頭から振り落とそうとしてくるので跳躍し、足元に血のハンマーを作ってそれに足を付けて戦技の初動を検知させつつ血のハンマーを操って振り抜く。
「『バニッシュオンスロート』!」
大鎌熟練度85で習得する単発系多段ヒット戦技。
体の発条を連動させて思い切り振り下ろされた一撃が、先ほど攻撃を入れた場所と同じところに命中し、単発の本体からの攻撃と追撃で同じ個所に多段ヒットする。
やはりHPは数ドット程度しか減らないが、こうして減らすことができるのだから攻撃を続ければ必ず倒せる。
特に今ここにいる全員、逆鱗さえ攻撃できれば一時的にダメージが通りやすくなることを知っているので、いつその瞬間が来てもいいようにと最初の作戦通りに行動し連携して攻撃している。
「わ、ちょ、暴れんな……わぁ!?」
いつまで頭の上に乗っているんだとぶんぶんと頭を振り回されて、踏ん張れずに遂に落下してしまう。
ゴルドフレイはすかさず落下途中のヨミを攻撃しようと、右の翼の付け根の突起からエネルギーを噴射してその反作用で回転し、尻尾攻撃を仕掛けてくる。
「ッ、『シャドウダイブ』!」
尻尾が直撃する寸前に辛うじて魔術を発動し、迫り来る尻尾にできている自分の影の中に潜り込んで回避する。
何度も使うたびにこの回避性能がおかしいしナーフされてもおかしくないのだが、まともに使いこなせているのがヨミだけなのか、あるいは現状はヨミだけの魔術だからなのか、ナーフが来る気配がない。今はそれがありがたい。
ゴルドフレイの足元の影から飛び出てから、空っぽになったエネルギーを蓄積するために足を攻撃する。
邪魔だと言わんばかりに振り払われて、それを紙一重で回避すると叩き潰そうと振り上げられたので、思い切り跳躍して回避。
翼に影の鎖を巻き付けて巻き取りながら高速移動し、翼の付け根に思い切り大鎌を叩きつけるが硬い手応えだけが返ってくる。
「『雷霆万鈞』!」
どんなスキルを使っているのか、足元に雷を圧縮して作った足場を連続生成しながら空中を走る美琴が、ユニーク武器『雷薙』に強烈な雷をたたえながら接近して、見事な一線を叩き込む。
紫電が雷薙の一薙に合わせて一閃され、一瞬だけ空間が歪んだようにも見えた。
美琴が好んで使用する自分の雷と武器を合わせた複合攻撃の『雷霆万鈞』は、リキャストが発生せずMP消費も少ないので手軽に連射できるものでありながら、かなりの威力を誇る。
魔族系最上位の魔神という固有種族で、シンプルなスペックだけで言えばヨミよりもやや上で、本人も現実で薙刀を習っていることもあってかなり鋭い一撃だったのだが、微々たるダメージしか入らない。
じろりとゴルドフレイが美琴を睨み付けると、普通に翼を羽ばたかせて飛翔して前脚で攻撃を仕掛けてくる。
美琴はそれを雷の足場を蹴って跳躍することで回避し、引きながら前に伸ばした右手から連続して雷を放つ。
『万雷』というその攻撃は、雷鳴が雷鳴をかき消していくほどの速度で連射されるが、一撃一撃の威力が低いので牽制にしかならないと本人も語っている。
ド派手な攻撃で美琴が注意を引き付けると、王の死角より巨大な炎の巨人が現れて両手に持つ炎の十字架を胴体に叩き込む。
美琴のギルドメンバーのトーチの使う、魔法使い姉グレイスが使う魔法を基に作成したトーチのオリジナル魔術『イノケンティウス』だ。
ボォオオオオオオオオオオオ!! と炎が燃え盛る音が咆哮のようにも聞こえ、目の前にいる存在を焼き滅ぼさんとめちゃくちゃに十字架が叩き込まれる。
美琴を追おうとしていたゴルドフレイはイノケンティウスが目障りに感じたのか、ぐるりとそちらを振り向いてから大きな前足を振り払って攻撃するが、炎で構成された体に物理は効かない。
物理が効かないと一回で理解したらしい王は、口元からエネルギーを漏らして短いチャージを行ってからブレスを放ち、一撃で炎の教皇を消し飛ばしてしまう。
流石に今の威力と規模の攻撃を受けるとどうしようもないようで、イノケンティウスが消えてしまう。
なので、そうなることを前もって予測していたトーチは、魔力消費度外視でイノケンティウスを連続起動。更にルナからのバフを受け取ることで更に巨大化・火力増加を行い、20体ほどの炎の教皇が姿を現す。
その全てのかなりの大きさのイノケンティウスを、トーチは一か所に集めて一体化させることで更に巨大化。
ゴルドフレイの巨体に匹敵する炎の教皇が爆誕し、特大の炎の十字架が叩きつけられる。
「なにこれぇ……」
炎の巨人と金色の竜王の大怪獣バトルのような絵面になり、ぽかんと呆けてしまう。
イノケンティウスの特大炎十字架が何度もめちゃくちゃに叩きつけられ、ゴルドフレイが翼で直接攻撃したり前脚を振り払ったり、翼の付け根の噴射孔からエネルギーを噴射して高速回転して尻尾の薙ぎ払いを繰り出す。
ゴルドフレイの攻撃が当たるたびにイノケンティウスの炎が散らされて少しずつ小さくなっていくが、その都度トーチが炎魔術を使って補充する。
『氷系の魔術が使える術師系は攻撃しまくってください!』
すぐに意図を理解したヨミは、ゴルドフレイの意識が術師に向かないようにと前に踏み出していき、少し遅れてアーネストも追いかけてくる。
もしゴルドフレイが鉄の鱗を持っていたら、熱した後の急速な冷却は焼き入れになってしまうので逆に鱗が固くなってしまったかもしれないが、ただ硬いだけの鱗だ。
そして奴も生物。思い切り熱された後に一気に冷やされれば、多少はダメージを食らうだろう。
「ギィィイイイイイイイイイイイイ!!」
ゴルドフレイがイラついたような咆哮を上げて、暴れ回りながら口からエネルギーを漏らす。またイノケンティウスをブレスで吹き飛ばすつもりらしい。
攻撃をし続けたことと性能を上げたことでエネルギーの回復効率が上がり、二割ほどエネルギーが溜まっている。
背中の接続パーツを両足に飛ばしてブーツにして、制御度外視でエネルギー消費で脚力を超強化。地面を蹴って地面を砕く威力の衝撃波が発生してかッ飛び、シェリアからの指示を受けたのかトーチがイノケンティウスを操作してヨミの通る道を作ってくれた。
背後からアーネストがすさまじい速度で追い抜いて行ったが、少し先で止まってから左手を伸ばしてきたのでそれを掴み、上に投げ飛ばしてもらう。
直後に特大のブレスを薙ぎ払いながら攻撃してきた。
下の連中は大丈夫かと心配するが、既に指示が出されていたようでタンク陣の近くに集まって、守られていた。
薙ぎ払いブレスでステラの方に被害はないかと確認すると、丁度ジンの後方にいたこともあってしっかりと守られていた。
ゴルドフレイの方に向き直ると、イノケンティウスが離れていてトーチが何かしているのかどんどん白く見えるほど熱が上昇していっているのが見える。
何をやっているのだろうかとみていると、術師たちが氷や水の魔術で攻撃を仕掛けており、ヨミが思っていたものとは違う方法の攻撃を仕掛けようとしているのが分かった。
巻き込まれたらひとたまりもなさそうなので影に潜って退避し、アーネストも指示を受けたのか機械の翼のスラスターを吹かせて上空に向かって退避する。
やがて準備が完了したのか、イノケンティウスが激しく燃える音を咆哮のように轟かせてゴルドフレイの方に接近し、薄い氷の膜のようなものができているゴルドフレイはそれを砕きながら応戦しようとする。
真っ白に見えるほど超高温になった炎の教皇は、接近するだけで氷を瞬時に梳かしていき、水になった瞬間に蒸発して気化する。
一気に水分が数百倍までその体積を膨張させ、いわゆる水蒸気爆発を引き起こす。
その反動でイノケンティウスまで消滅してしまったが、首元を重点的に氷と水で覆っていたため逆鱗に当たったようで、大ダメージが入る。
一点集中の強い攻撃じゃなかったのでなおも一本目を削り切れていないが、今の現実の化学反応を用いた大規模な破壊魔術は有効だと判明し、術師たちはそういった反応を引き起こしやすい魔術の使用にシフト。もとより炎魔術が非常に強力なトーチも、炎に特化したバフをかけることでダメージソースに成り上がろうとする。
「トーチちゃんだって頑張ってるんだ。ボクも負けていられないね!」
暗影魔術『ジェットファランクス』と血壊魔術『ブラッドレッドレイク』を同時起動し、ジェットブラックの槍衾を向かわせながら、今は血液をMPがある限り生成できるようになっているので特大の血の池をフィールドに形成し、それら全てを血の武器に変換させて一部を手動、一部をAI操作にしてゴルドフレイに向かわせる。
そのうちの一本をアーネストがひったくっていき、まさかの二刀流でのラッシュを叩き込み始めるが、あの剣聖様のことだしそれくらいできるかと考えないようにする。
もう一度エネルギーを少し消費して脚力を強化し、地面を踏み砕きながら加速して、大鎌形態のブリッツグライフェンを巨木のように太い首に叩き込んだ。




