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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第三章 蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を
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フリーデンへご案内

「ふへへ……お姉ちゃん可愛い……。いっぱい着せ替えたい……」

「ちょっとは欲を隠したらどう?」

「無理。こんなに可愛いのを着こなしてるのを見て、我慢できるわけない」


 詩月を迎えに行き、プレイヤー名をシズにした詩月がわざわざ隠密までして後ろから忍び寄って抱き着いてきたのには驚かされたし、耳元でこんなことを言ってくることにも驚いた。

 こっちの世界でなら好きにしていいと言ってしまっているので、シズはその通りにするだろう。だから数日は始めていることを教えずに、素材集めをしたり服飾関係のお店に入り浸っていたのだろう。


 もうすでに頭が痛くなってきた気がして右手で頭を抑えながら、シズをヨミの方から勧誘してギルドに加入させた。

 そこからクインディアに飛んで美琴たちと合流し、シズのステータスでは一緒に行動するのは難しいからと先にフリーデンに飛んでもらった。


「中々に愉快な妹さんだね?」

「こっちでなら、ボクを好きに着飾ってもいいって言っちゃったんです」

「あー……。私もそれ言われたら多分あんなふうになるかも」

「美琴さんって無類の可愛いもの好きですもんね」

「美琴先輩、私も好きに着飾ってもいいんですよ?」

「やめておいたほうがよいぞ、ルナ。そう言われたら美琴は本気でやる」

「そんなに節操なしじゃありませんー。でもルナちゃんもトーチちゃんも可愛いし、リアルの方でジュニアモデルやってもいいんじゃないかな」

「私そこまで身長高くないですよう……」


 控えめな性格らしいトーチは、ぽっと頬に朱を咲かせて俯きがちに言う。

 まだ中学生でヨミよりも背が低く、しかしアリアと同じで将来はすごい美人になるのが確定しているほど整っている。

 ルナもヨミと同じ銀髪をしており、トーチとは対照的で溌溂としていて明るい。いわゆる後輩キャラっぽく、美琴のことを先輩と呼んでいるのに違和感がない。


「トーチ嬢とルナ嬢はどちらも優秀な魔術師、しかもトーチ嬢の姉君は七人目の魔法使いである炎姫グレイス・セブンスウィザードだとはね」

「なんかすごい二つ名付いてる」

「魔法使いは七人全員に二つ名が付いているのよ。第一魔法使いのカルロス・ファーストウィザードなんか魔弾の射手なんて異名付けられてるし」

「なんですか、その七発目に自滅しそうな人」

「FDOぶっちぎりのぶっ壊れ魔法使いよ。狙った場所に絶対に弾丸が当たるの。魔法だから魔術師じゃ絶対に防御できないし、逃げても弾丸がずっと追いかけてくるの」

「オートエイムか何かですか?」

「魔法自体が公式チートだしね。だから魔法使いはPvPは申請することも受けることもできないし、対抗戦みたいな対人戦がメインコンテンツのイベントにも参加できないの。特にカルロスさんは絶対にクリティカル叩き出すからね」


 それが妥当だろう。

 しかしまさか、公式チートと言うものが本当にあるとは思いもしなかった。銃器限定とはいえ防御を無視して絶対にクリティカルしてくるとか、理不尽そのものすぎる。

 普段その人が何をしているのかを聞くと、トーチの姉のグレイス同様自由気ままにFDOの世界をぶらり旅しているらしい。


 魔法使いはそういうぶらり旅をするしかないのだろうかと思う反面、防御も回避もできない魔法を使うのに竜王は倒せないのかと疑問に思う。

 魔法が通じない相手は同じ魔法使いだけ。そもそも挑んですらいないのならともかく、もし挑んでいてなお負けているのであれば竜王は魔法を使っているということになる。

 魔法は魔術よりも優先され、魔法でかけられた防御は魔術じゃ突破できないし、魔法で行われた攻撃は魔術の防御じゃ防げない。

 だが唯一討伐されたアンボルトと、ヨミだけが戦闘経験のある(ヒト)形態のバーンロットはダメージを入れることもできたし、攻撃を防ぐこともできた。

 この時点で魔法ではないのは確定するのに、もし魔法使いが挑んでも勝てないような相手なら相手は魔法が使えると言う矛盾が生じる。


「……いや、魔術で倒せないんじゃマジで攻略させる気ないだろ」


 色々考えるが、このゲームの根幹というかメインコンテンツはプレイヤーが竜王と竜神を倒すことで、魔術が一切通用しないんじゃクリアのしようがないクソゲーに成り果ててしまうから、それはないだろうと否定する。

 ちゃんと防げるんだし攻撃も一応は通るのだから、魔法という魔術全否定ぶっ壊れ能力は使っていない。


 しかしだ。

 チュートリアル時点で、黒の竜神はあらゆる物理的干渉を退け全てを燃やし、白の竜神はあらゆる魔術的干渉を退け雷を操って全てを破壊したとあった。

 もしこれらが竜神が操る魔法によるものであった場合、魔法を使えない竜王の素材で作られたグランドウェポンで通用するのだろうか、という疑問が生じてしまう。

 もしや、ただ竜王を攻略するだけでは竜神を倒せないのではないだろうか。そんな不安が一瞬だけ胸裏にくすぶるが、大型の熊型エネミーが現れたので戦闘態勢に入り、終わる頃にはその不安もなくなっていた。



「おー! ここが静穏郷フリーデン! ヤバ、結構好みな場所かも」

「そうですね。牧歌的で、とても居心地がよさそうです」

「これで近くに王がいるとは思えんな」

「空気も美味しいですし、私ここに居付いちゃいそうです」

「分かるー! 町の人たちも優しいのはヨミさんの配信で分かってるし、甘えちゃいそう」


 一時間ほどでフリーデンに到着すると、美琴たちは目を輝かせた。

 大きく発展して異世界ファンタジーと現代が混ざり合っている王都と主要の二十個の街と比べると、いかにもファンタジー世界の小さな町といった感じだ。

 もちろんクインディアの近くにあるので、魔術道具やちょっとした現代っぽいものも置いてあるが、溶け込んでいて違和感はない。


「あ、来た来た! 美琴さーん!」


 フリーデンに入って少し進んでいると、ノエルがヨミたちを見つけてぶんぶんと腕を振る。

 隣にはステラも立っており、ちょっぴり緊張している様子だ。そしてステラの左隣に、並んで立つアルマとアリア。


「へー、この女の人たちがヨミ姉ちゃんが連れてくるって言ってた?」

「そうだよ。ていうかこんな時間に外出てていいの?」

「いいんだよ。ノエル姉ちゃんが町中に言って回ってたし、父さんたちが歓迎会を開くって張り切ってる」

「い、今から歓迎会の準備するの?」

「大丈夫だよー。みんなで一緒に準備するから、あっという間にできちゃうもん!」


 ぱっと表情を明るくして花を咲かせながら言うアリア。


「そっかー。じゃあボクも何かお手伝いしたほうがいいかな」

「何もするなってさ。歓迎会がメインだけど、昨日フリーデンの近くに来たゴルドニールを倒してくれたからそのお礼も兼ねてるんだってさ」

「別にお礼が欲しくて戦ったわけじゃないんだけどね」

「いいから、素直に受け取っておけよ。ヨミ姉ちゃんにそのつもりはなくても、俺たちからすれば町を守ってくれた恩人であることに変わりはないんだし」


 ロットヴルムの時もそうだったなと苦笑し、もう既に準備し始めているので素直に受け入れる。


「ふむ、ここは僕は遠慮したほうがいい感じかな」

「マーリンだけ逃がさないよ?」

「おっと、捕まってしまうか」

「マーリンだってこの町を守ったんだし、参加しなよ。結構頻繁にフリーデンに来て馴染んできてるんだしさ」

「僕としては参加したいけど、いいのかい? こんなくたびれた研究者みたいな風貌だけど、こんなでも一応国王だし」

「むしろ参加してくれって父さんが言ってましたよ。あとクロム爺からも、マーリンは引きずってでも連れて来いって言われてます」

「そうか。町長とクロムウェルからそう言われちゃ仕方ないな。ぜひとも、参加させていただくよ」


 最初から参加したくてたまらない顔をしていたので、来てくれと言われて嬉しそうに笑みを浮かべる。

 まずは美琴たちにフリーデンを案内して回ることにして、町人たちと仲よくなってもらう。

 全員ヨミが連れてきた人だからと結構信用してくれて、最初から親密に接してくれる。特に子供なんかは警戒心ほぼゼロでやって来た。


 一番人気だったのは美琴ではなくサクラで、みんなふさふさの狐の尻尾に虜にされていた。

 ちゃんと尻尾にも感覚が通っており、子供たちに群がられてみんなにもふもふされてくすぐったそうに目を細めていた。ヨミもどんな具合なのか気になったので、どさくさに紛れて触ってみたら、本当にふわふわでずっと触っていたいくらいだった。


 一通りフリーデンを案内して回り、FDO内の太陽が沈んで月が出始めた頃、本当にこの短時間で歓迎会の準備が完了したようで、おいしそうな料理がたくさん並んでいた。

 町人たちから改めて守ってくれたことに感謝され、子供たちから懐かれ相手をしてあげながら決して冷めることのない熱々で美味しい料理に舌鼓を打った。








「ヨミよ、先ほど子供たちと共にどさくさに紛れて妾の尻尾を触っておったの、気付いておるぞ」

「へ」

「子供たちならまだ良いが、ぬしは妾の一個下じゃろう? 勝手に触れて来たからのう……どんな対価を払ってもらおうか」

「え、いや、あの」

「サクラさんサクラさん。お姉ちゃんはこういうのがすごく似合うと思うんですけど、どうですか?」

「ほほう? よいではないか。あぁ、それなら妾も和服ドレスを持っておるから、それを着せてみようかのう」

「サクラさん……あなた、天才ですか……!?」

「み、美琴さん助けて……!?」

「ごめん、私も和服ロリータ着たヨミちゃんが気になる」

「薄情者-!?」


 美琴に助けを求めるが、にっこりとサクラたちの方に送り出されて捕獲され、ギルドハウスに二人係で連行された。

 遂に、ゲームの中でもファッションショーが開催されてしまい、次々と着せ替えさせられながらなぜかざわざわ全員の前でお披露目させられて、羞恥プレイと公開処刑が行われた。

 なお、しっかりと美琴たちに撮影されており、もうこの際どうでもいいやと公開(後悔)していいと許可を出してしまい、次の配信にまた大量の新規リスナー(変態共)が集まったのは別の話。

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