インダス文字(3.ヨガ行者ほか)
6月26日、「男を挟む、2頭のトラ」の印章につき、解読した内容を大幅に手直しました。
以下の印章は、菊池徹夫編「文字の考古学 I」(同成社。2003年)に掲載されたものである。(179頁の印章3「北のタコ」は、インダス文字(2)に掲載した)
(178頁、図60)
(印章2)「双子誕生」
印章の上下及び左側に、回転させながら読む様に文字が刻んである。A.パルポラ(第1巻:インド)の、H-103a 。
(ア)上部
左端は、U/USENI。その右隣は、中央の縞も数え、MI-NI。右から2番目の熊手記号は、6本の指を、3×2あるいは3+3と数え、SANNISITE/ TESANZANI。
(左から右へ)U MINI TA SANNISITE MISE
う みに た さんに して みせ
(右から左へ)SEME TESANZANI TA MINI USENI
せめで さんざん いた みに うせに。
繋げれば「お産で、多産したら、攻められて、さんざん痛みましたが、それも消えたので」。
(イ)下部
印章の写真を上下逆にして読む。人型の記号は、TO。
(左から右へ)RYO I TO SI (りょ いとし) (折り返して、右から左へ)TO SI RYO (としりょ)
繋げれば「良い年、と思慮」。あるいは「りょいとし」を「両方愛しい」とすれば、双子誕生の表現となり、この文字列は、母親の両脇に赤子の寝る姿を描いた漫画に見える。
(ウ)左側
印章の写真の左側を上にする。左端の記号KOには、左側に2~3、曖昧な本数の横棒があるので、適宜読み加える。その右隣の、縦棒3本の記号は、SU-DI。
(左から右へ)NISAN-KODI TIMI (にいさん、ことじちみ)
(折り返して、右から左へ) SAN/NII KO (さんこ/ にいこ)」。
繋げれば「兄さん、コート・ディジーを見に行こう、産後/三呼」。
(エ)まとめ
以上、合わせれば「お産で、多産したら、攻められて、さんざん痛みましたが、それも消えたので、愛しい双子誕生の、良い年です。兄さん、産後、コート・ディジー見物へ行きましょう」。
コート・ディジーは、古都。礼拝の施設があり、安産後のお礼参りの意味があったのかも知れない。下部のRYOの記号が、両脇に双子を寝かせた母親の漫画になっている。
(印章3)「舞うトラ」
A.パルポラ(第1巻:インド)から、H-94A。左向くトラが登場するが、足が5本あり、足の位置が定まらない様子を表す漫画と見られる。
文字記号は、2つ。右側の「男」の記号は、OTO。左側の「目」の記号は、左半分と右半分の輪郭が、微妙にずれているので、2つに分離し、また右肩に隣の「男」記号まで伸びる斜め棒があるので、MEMA-Iと合わせ読む。すると次の通り。
(右から左へ)OTO MEMAI (おと めまい)。
これを3回繰り返して繋げ、解釈すれば、トラの様子から「乙女、舞い。おっと、めまい。(しかし)これを止めまい」。
すると足の定まらない「トラ」を「酔っ払い」と捉える事が可能であり、他の印章のトラにも「酔っ払い」の意味があるので、一貫性があろう。
古代ローマでは、円形劇場のイベントで使う豹などの動物を捕獲し、扱いやすくするため、ワインを飲ませたとの記述があり(大プリニウス「博物誌」)、酔っぱらいのトラが本当にいたのかも知れない。文字列を漫画と捉えると、猛獣使いがトラを操り、的に向かわせている姿に見えるので、猛獣使いの印章か。
なお古代インドのヴェーダ教の儀式で吟ずる言葉は、マントラと呼ばれる。
(179頁、図61)
(印章1)「ヨガ行者」(大きな賭けと大きな錯覚)
「Indus Seals and Glyptic Studies: An Overview, Harappa」で検索可能。 A.パルポラ(第1巻:インド)から、M-304A。右下の角が大きく三角形に破損。
(1)漫画
中央の台でヨガ座りする高齢の人物。周囲を多様な動物がとり囲んでいる。彼は毛のマントをまとい、頭に牛の角の様な装飾がある。写真で確認すると、顔が左右、真正面と同時に3方向を向いている。また左右の肩、肘、手首からトゲ状の物が上下に突き出ており、腕輪と見られる。この様な座り方、マント、腕輪及び頭の装飾は、2000~2001年の「世界4大文明 インダス文明展」図録の印章(336)と共通性があり、首長や国王あるいは神だろう。(牛の角の「冠」はミノア文明の奉献の角か)彼は酩酊状態とも見られ、トラが飛びかかろうとし、他の動物も彼に向っている。
(2)文字列
上部左端の「男」の記号はOTO/TO + NO/SI/E。右隣の記号はSAMA/SAMU。そのまた右隣はSAMARU/SAMURYU。中央で、座る人物の頭上の記号Uの、上部中央の短い縦2本線は、NI/RA。
(左から右へ)OTONO/OTOSI SAMA MASARYU/SARYUMA NIU TA U
おとの/おとし さま まさる/さるま にう たう
お殿様/お年様の、優るゆえに/去る間に 歌う
右端の象をZOと読めば「年配の殿様の優るゆえ、去る間に歌うぞ」。中央の人物が年配の殿様であり、周囲の動物たちが、彼を讃えて歌う姿だろう。
(右から左へ)U TA URA SAMURYU SAMA TOE
うた うら さむる さま とえ
歌の裏で、寒い/迫る様 を問え/とその絵
合わせて解釈すれば「年配の殿様の優るゆえ、去る間に、賛美して歌うが、裏に迫る、寒い実態を問え/の絵」。周囲の動物たちは、高齢の殿様を称賛する中で、隙を窺い、彼を襲って食うつもりであり、首謀者はトラ。左端の「男」の記号に対し、右隣の記号「さま」の底部から、鋭い突端が伸び、「男」を刺そうとしている様にも見える。
なお印章の右下の三角形の大きな破損につき、仮に意図的とすれば「大きなかけ/さんかく」なので「大きな賭け/駆け」か「大きな錯覚」と解釈できよう。
(3)星座の神話
(ア)「殿様」を中心とする動物の配置に関し、下のウサギ、左手のサイ(一角獣)等に着目すれば、冬の南の夜空の、オリオン座周辺の星座と酷似する。「殿様」をオリオン座とすれば、すぐ下にウサギ座、左手に一角獣座があるからである。ウサギ座の左の「台」は、大イヌ座だろう。
(注1)12支は、元々、星座から考案されたと考えられるが「ヨガ行者」の印章も、その由来と関係があろう。ヨガ行者の頭上の記号は、北極星を中心に天空を旋回させる、逆さの「北のタコ」の漫画を兼ねており、「子」。「殿様」を牛とすれば、丑、寅、卯の連なりとなり、12支の動物と一致しよう。
更に、下剋上の神話を実現させ、トラをオリオン座の位置に入れ、その右手に牛を置けば、冬の南の星座とも一致する。
(イ)酔っ払いの振りをしたトラが「殿様」を倒し、換わって中央に座るとの下剋上神話であり、冬の南の星座が根拠だろう。この殿様は、オリオン座の位置にいたが、トラに襲われ、場所を交換して、おうし座となる。あるいは殿様は消えてしまい、左手の水牛が、トラのいた場所に移り、おうし座となる。トラは中央の、オリオン座の位置にて女神に変身するのだろう。
(ウ)この神話の顛末は、インダス文明展(図録)の印章(333)に、男神が征服され、おうし座に変身する場面として描写されている。なおインドのカリバンガン遺跡の印章(K-65)には、上半身が人間、下半身がトラの女神が描かれており、同じ神話に由来するだろう。
(注2)クレタ島で文明を築いたミノア人は、日本語の祖語を使ったので、インダス文明を築いた民族との間に、文化的な共通性があっただろう。然るにミノア人も、オリオン座に関し、女性(愛称:トラ)/人間と見做し、オリオン座から線文字Aの「人」の記号(A100/102)を考案したと推定される。
〇オリオンの胴体部分をトラの頭と見做せば、口を大きく開けて吠える姿で、喉の奥にベルトの3連星が見える。
〇子、丑、寅に関しては、字源となる線文字A/ キプロス音節文字の発音が、次の通り古典ギリシャ語、ラテン語あるいは仏語の1,2,3と符合する。
12支 古代文字 古典ギリシャ語 ラテン語 仏語
子 NE(線文字A) εϊς(ヘイス) UNUS UN
丑 DU(線文字A) ςΰο(デュオ) DUO DEUX
寅 TO+RA(キプロス音節文字) τρείς(トレイス) TRES TROIS
「子」は北極星なので固有性があり、「丑」には角が2本。「寅」をオリオン座と解釈すれば、ベルトの3連星から、3との繋がりが明白である。(中国の28宿ではオリオン座を3の意味で「参」と称していた由)
(印章4)「男を挟む、二頭のトラ」
A.パルポラ(第1巻:インド)、M-308a。これは印影であり「Deity Fighting off Two Tigers on Seal」で検索すると「Harappa.com」のサイトに、印章M-308Aが登場する。
中央に男が一人、その左右にトラが一頭ずつ彫られている。二匹のトラは後ろ足で立ち、男は、左側のトラを見ながら、両者の頭を撫でている。テンション低く、一見、和やかな場面。以下では、印影M-308aを基準とする。
(ア)音価
上部の記号に、左から右へ、①から⑤までの番号を付せば、次の通り。
① 左端の「木」の記号:KI/KO。上部の⊿をYAMAとすれば、YAMA-(I/YA/SI/NO)。
② 「魚」の記号:TA。あるいは(ME/MA)-4(I/YA/SI/NO)。更に、SAKANA。
③ 縦棒2本:2(I/YA/SI/NO)/RA。あるいは右側の1本を、記号④の一部と見做せば、左側1本だけとなり、I/YA/SI/NO。
④ 「Y」の字の上部左右の「枝」から、短い支線:
〇「猫の頭」記号の省略形と見做せば、MA。
〇上部の「U」型をWA、下部の支えをI/YA/SI/NO。左右の「枝」から突き出た支線をNI/RAとすれば、WA- (I/YA/SI/NO)-(NI/RA)。
〇記号③の右側の縦棒と合体させれば、MU。
⑤右端。3段の梯子:NU/ NISAN。「橋」記号に、横棒3本とすれば、HASI-(SA/MI)。 更に、3本歯の櫛記号+縦棒とすれば、KU-(SA/MI)-(I/YA/SI/NO)。
(イ)解読
(右⇒左)
NU/ NISAN/ [HASI-(SA/MI)] / [KU-(SA/MI)-(I/YA/SI/NO)]
MA/MU/[WA- (I/YA/SI/NO)-(NI/RA)] 2(I/YA/SI/NO)/RA
TA/ SAKANA /[(ME/MA)-4(I/YA/SI/NO)] KI/KO/ [YAMA-(I/YA/SI/NO)]
〇 NISAN WASIRA NI TA YAMAI
兄さん ワシら、似た病。
〇 NISAN WASIRA II NAKASA/(ME-ISIYANO) IMAYA
兄さん ワシら、良い仲さ。名士やの/飯やの、今や。
〇 SAMI-SIHA WASIRA YAI YASINO-ME/MA-NO YAMA-SI
「寂しいは」。ワシらや、癒しの目の、山師。
(左⇒右)
KI/KO/ [YAMA-(I/YA/SI/NO)] TA/ SAKANA /[(ME/MA)-4(I/YA/SI/NO)]
2(I/YA/SI/NO)/RA MA/MU/[WA- (I/YA/SI/NO)-(NI/RA)]
NU/ NISAN/ [HASI-(SA/MI)] / [KU-(SA/MI)-(I/YA/SI/NO)]
〇 YAMASI IYASINOME IYA WASIRA NISAN/(SAMI-SIHA)
山師、癒しの目。いや、ワシら、兄さん/寂しいわ/くさい。
〇 IMAYA SAKANA IYA WASIRA NISAN/HASAMISI
今や、魚。いや、ワシら、兄さん、挟みし。
〇 KO TA NOI WAYANI NISAN/HASAMISI
こんたんの岩屋に、兄さん、挟みし。
〇 KI TA RA MU SAMISIHA/KUSAI
来たらん、寂しいわ/くさい。
〇 KI TA IYA MA NU
期待やまぬ。
(ウ)読み換え
記号⑤(右端):「梯子」の形状に従い、HASIGOとする。
記号④:「Y」の字を、同じ形状の線文字Aの記号(AB31)と同様に、SA。左右の「枝」から伸びる支線をKEとし、SAKEと読み換える。
記号②:「魚」記号の中に、余計な支線があると見做し、TA-(I/YA/SI/NO)。
(右から左へ)
HASIGO SAKE NI SITA KI/YAMAI
梯子酒にしたき病。
(エ)まとめ
以上を合わせば、次の通り。
兄さん、ワシら、似た病。「寂しいは」。ワシらや、癒しの目の、山師。兄さん ワシら、良い仲さ。名士やの/飯やの、今や。
山師、癒しの目。いや、兄さん、ワシら、寂しいわ。来たらん。「くさい」。こんたんの岩屋に、兄さん、挟みし。今や、魚。期待やまぬ。梯子酒にしたき病。
2匹のトラは、酔っ払いの山師であり、男に「寂しい」と言って近寄り、酒の二次会に誘い、だまして食おうとしている。男は「酒臭い」との反応。男の顔に向かって、左側のトラの息がかかり、その口から飛んだ粒が、宙に浮いている。
古代メソポタミアから、2頭のライオンの中央に立つ男のデザインが知られており、その風刺と見られる。トラは、酔っ払いの象徴である。
(187頁、図66)「狩りに握り飯」
A.パルポラ(第1巻:インド)、M-314a。これは印影で、印章はM-314A。四角い印章で、文字だけが3行、刻まれている。近藤英夫「インダスの考古学」(同成社。2011年)にも、99頁の図37に掲載。今のところ、最大文字数の印章として知られる。以下、印影M-314aを基準に分析する。
〇上段
(右から左へ)KA LI NI WA/WATA/[MA/ME-4(I/YA/SI/NO)] SITA KI/KO
狩りには、飯の支度/私、炊き/渡したき。
(左から右へ)KI TA-I/SI MESINIWA NILI/LINI MESIKA/ KA
期待の飯には、握り飯か/ 北、示しには、理に勘
右端の記号が、握り飯を象っている。
〇中段
右端の記号は、4方を短い縦棒2本ずつに囲まれた、ZO。左側中央に点がある。
(右から左へ)YONIZOYA MITI URE U/USENI
夜になり、道が心配になり、迷ってしまう
(左から右へ)U REU MITI YOZORAYA
道が心配なのは、夜空で
〇下段
左端の記号は、4本足のモグラ。左端から3つ目は、RE/ MITIYA。右端から3つ目の記号は難解だが、頭頂部が、WA。加えて上部の縦棒2本/3本+ OLE(折れ)+下部の縦棒3本/4本の組み合わせ。
(右から左へ)DI MENI WA-NI-OLE-YO TUKI OTO RE MASUME SIMORAKU
地面に 輪になっていろ。ツキ/月を取れ。弁当も楽
(左から右へ)
MOKURAYO MEMASU MITIYA TO TUKI WA-ORE-RANI-SIMI MENI MIYA
真っ暗だが、読めます道や、と月は 俺らに沁み、目に見や
以上を繋げれば「狩りには、飯の支度。私、炊き、渡したき。北を探すには、理に勘。期待の飯には、握り飯か。夜になり、道が心配になり、迷ってしまう。輪になって地面に座り、ツキ/月を探れ。弁当も楽。真っ暗だが、読めます道だと、月の光が、俺らに沁みる。見てみろ」。印章の右下が、道を心配する目尻の漫画になっている。