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99話 道理で、いつもいつも

 さあ、次だ。次にやるべきことは、次の町までの情報を集めることだ。


 どうにも酒場で飲みながらだと、酒や料理を楽しみすぎて、訊くべきことをすっかり忘れちまうからな。俺って。


 そういえば、以前聞いた情報も参考になったわけだし、とりあえず、宿屋のご主人にまた相談してみるか。


 今は町の外とはいえ、門からそれほど離れてもいないし、宿屋もすぐ近くだから、丁度いいや。


 そうと決まれば、善は急げ。戻って、聞き込み開始だ。


 そうして、戻ってきた宿屋──その受付には、相変わらず、いつからいつまでそこで立って仕事をしているのかと不思議に思わざるを得ないご主人が……。


 そういえば、以前からいろいろと情報を教えてもらったお礼をまだ言ってもいなかったのを思い出した。


 非常に役に立ったと感謝の気持ちを伝えた際、思わず、相手の手を握りしめてしまった。


 ご主人は少し怪訝けげんそうに、視線をさまよわせたかと思うと、すぐに合点がいった表情に変わって、にこやかに頷いた。


「ああ、そうでしたか。それは良かった。それと失礼いたしました。お客様はもう随分とこちらの宿にお泊まりいただきましたので、そろそろ種明かしをさせていただきます。ふふふ、お気づきになられていないようなのですが、今、お客様が仰られた情報をご提供させていただいたのは、双子の弟の方なのです。弟には後でお礼を頂戴しましたことを伝えておきます。実は、この宿の趣向といたしまして──」


 なんと宿屋のご主人は双子……だった。


 道理で、いつもいつも受付にいると思ったよ。


 どうやら客に見つからないように、裏でこっそり交代していたようで、兄弟ともにしっかり休みは取っているそうだ。


 宿泊者の中には、俺みたいに誤解する人も多く、常に受付にいる宿屋の主人として、近隣の町でもそこそこの噂になって、なかなかにして、客足が順調なのだとか。


 なので、「なにとぞ、その辺はご内密に。できますれば、他の町で噂を広めていただければ。次回、お安くお泊めいたしますので」とお願いされてしまった。


 ふふふ、ちょっとした悪戯心いたずらごころがあって、でも、仕事の方もきちんとできているご主人──こんないい歳の取り方をした、壮年の男性がかもし出す雰囲気がうらやましくなった。


 おっと、肝心なことを忘れとった。


「了解しました。実は俺たち、北方へ旅を続けようと考えていまして。次の大きな町についての情報や町までの経路などがわかれば、教えていただきたいのですけど」

 

「ええ、それでしたら、この町と同程度の規模の町であれば、街道で繋がっております。街道から離れさえしなければ、そうそう道に迷う方はおられないかと。【エピスコ】がこの町のほぼ真北にある大きな街になりますね。馬車で六日。歩いて行かれるのであれば、十日ほどの距離になりますよ」


「へえ、次の街までは結構な距離があるんですね」


「ええ、ここから北の辺りは、大規模な農地を扱っている農家が多い地方なのです。村と呼べる程度の集落も少なく、街道からもかなり離れております。街道自体は隊商が行き来しておりますから、巡回のお陰もあって、比較的安全な旅になると思いますよ。もっともお客様が盗賊の残党を捕まえてくださったお蔭でもありますが」


「あはは、そうでしたか。ありがとうございます。非常に参考になりました」


「いえいえ、またこの町にお越しいただいた際には是非お立ち寄りを」


「もちろんです。そのときには。……では準備が整い次第、早ければ明日にでも出発したいと考えています。今までいろいろとお世話になりました」


「いえいえ、こちらの方こそ、ご利用ありがとうございました。妖精様方もお元気で」


「ええ、世話になったわね」


「ごくろう」


 明日は一日、弟さんとの交代で休みになるそうなので、今日でこのご主人とはお別れとなる。


 さて、街までの情報も得たことだし、今度は買い出しに出かけよう。


 そういえば、食料品を扱ってる店って、表通りでは見かけなかったよな。しまったぁ。店の場所も訊いとくんだった。


 別れの挨拶をした後にまた受付に戻って訊くのは……いくらなんでも、とんぼ返りみたいで、ちょっと格好悪い。


 うぅむっ、なら、表通りにある食堂の入口からしれっと入って、例の食堂のおばちゃんにでも訊くとするか。


 しかし、相変わらず、抜けてんな、俺って。


 まあ、今の時間帯なら、それほど厨房ちゅうぼうも忙しくないだろうから、さして迷惑もかかるまい。やれやれ。


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