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97話 だからアイテムボックス欲しいんだって

「スプライト、待たせたな。ユタンちゃんも。さあ、出ようか」


 もらったばかりの報酬──二百枚近くある金貨の重みが、リュックのひもを介して、肩にズシリときた。


 やっぱおめーよ。重いんだってよ。


 だからアイテムボックス欲しいんだって!


 くっ、うちには【歩いてくボックス】君があるけど、あれはただの食料庫だしな……。


 あっ! そういえば、保冷庫の状態を確認するつもりで、あそこに行ってたんだった……くそっ、盗賊たちのせいで、二度手間になっちまったよ。


 まあ、金貨をドロップしてくれたから、許してやるか。こういった世界で捕まった盗賊なんて、どうせ死刑なんだろうし。


 さて、もう一度町の外に出て……おっ、戻ってる、戻ってる。門もいつもどおり、ほぼ素通り状態だ。


 けっこう結構……平和が一番、電話が二番、惨事さんじ捕縛ほばくは郡刑法、ってな感じやね。若い子は知らんわな。おやつの文明堂のコマーシャル。


 そういや、田舎いなかで爺ちゃんと母ちゃんが畑仕事のとき、「さんじのおやつはうんめいぞう!」って、二人してよく歌ってたなぁ。


 今思えば、さんじの三事さんじって、農業のことだったのかよ?! 気がつかなかったぁ。午前中の休憩なのに、なんで三時かとは思ってたけど……。


 いやいや、ガキの頃の、しかも都会っ子の俺に、そんな農家の専門用語みたいな駄洒落なんて、分かるわけないだろうによ。


 はあ、やっぱり……俺って、爺ちゃん、母ちゃん似だったのかな?


 それにしても、こんな人気ひとけのない茂みとかでも、人は来るのかぁ……いや、でも、そんなのって、悪事を働こうとするときくらいか?


 今回は悪人だったから良かったけど、もしもこれが薬草取りに……は来ねえよな。こんなところには。


 そもそも、薬草なんて生えてないだろう? ……いや、分かんないか!? この世界のことは、あまりにも知らないことが多すぎるしな。そもそも、草の見分けなんかつかねえもの。


 まあ、なんかあったとしても、死んでさえなければつぐなうことだってできるわけだし、そんときに謝ればいい。それに大抵は人でなしのたぐいだろうし。


 盗賊ホイホイ、丁度いいかも。


 さてと、やっと振り出しに戻ったぞ。


 さあ、中の氷は、どうなってるかな?


 どこだ?! えっと、あれっ!? あの辺だったよな? ほほう、隠蔽魔法の【光学迷彩】って、凄いなぁ……光の精霊さんたら、お見事っ!


 ……あぁ、そうかぁ。それでも少しだけ魔力を感じるな。その辺も闇魔法とかで、なんとかならんかな?


 それにしても、こうやって、隠蔽を解いちゃうと、食料を出し入れするときに、どうにも人目を引きすぎる。


 やっぱ金属色は目立つんだよな。もろに光を反射するし……迷彩色にでもするのが、いいか?


 地味め……いや、パステルカラーのアースカラー系なら、ユタン画伯の得意分野か。


 俺がとやかく言うよりも、色のセンスとかはユタンちゃんに任せた方が圧倒的に良いのだろうけど……素晴らしすぎて、異彩を放たれても、それはそれで目立ってしまう。本末転倒だな。


 でも、まあ、隠蔽魔法を解いた際の気休めみたいなもんだから、できる限りお任せにしよう。


「ユタンちゃん! この歩いてくボックスに色塗ってほしいんだけど。えっと……下の方がこんな風な系統の色合いで、上の方はあんな感じにできるだけ目立たない方向で、お願いできるかな? ……うんうん。後でいいから、よろしくね」


 これでよしっ!


 さて、やっとですよ。保冷庫の性能確認……ん!? せっかくの球体なのに、外蓋を開けるとき、なんか無音だと、雰囲気出ねえなぁ。


 プッシューッとかの開閉音って、やっぱ圧縮空気が抜ける音か? エアコンプレッサーでも積んでみるか。


 いや、今更、機械にするのもなんだしな。


 かといって、音だけ風の精霊さんに雰囲気で出してもらうのも申し訳ない。


 まあ、将来的にユタンちゃんが動かすのに飽きたら、圧縮空気を利用した動力に変更するとしよう。そのときに効果音を調整すればいいや。そうだそうだ、そうしよう。わあ~い。


 そんだば、保冷庫の中身は、っと……おっ! 意外にいい感じじゃないですか。これなら十分使えそうだな。よしよし。


 はあ、それにしても、盗賊ホイホイセットをしておいて良かったぁ。


 まさかゴキブリが金に化けるなんて!? おじさん、全く知らなかったよ。うっかりうっかり。


 さて、ふところも温かくなったことだし、運ぶ手立ても整えたし、食料を買いだめすっかぁ。


 いよいよ次の町に向けて出発してもよい頃合いだってぇの。



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