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95話 俺たちの人相書きでも出回ってるの?

 大八車でも作って、きったねえまま載せて運んじまおう。


 こんなもん、有り合わせでいいやな。そらよっと! どうよ?


 朽ち果てそうな老木の中から、比較的真っ直ぐな木を選んで、水魔法による高圧水カッターを使って、伐採した。


 水圧を少し落とし、皮をいだ後、水圧を戻して、丸太を削って、部品の形を整えていく。


 最後に車輪状にした部品を取り付けて、大八車の完成だ。


 さすがに、でかいなぁ……。


 この数の生ゴミを一度に載せられる大きさとなると、しょうがないんだが。


 二十人くらいのくさメンを風魔法で浮かせて、大八車に積んでいく……なんかもう、どうでもよくなってきたな。


 車輪がギシギシきしんでるし、早く運んじまった方がよさそうだ。


「いいよ、いいよぉ。なにもスプライトが引かなくとも……えっ!? もしかして、一緒にやりたいの?」


「うん、それ面白そうじゃない。引きたい!」


「ユタンも」


 そうなの!? 大八車って、目新しいの? 違うか、違うよな?


「まあ、そこまで言うなら、どうぞどうぞ……でも、ハンドル……そう、その取っ手以外のところは、絶対に触るなよ。ばっちいから!」


 さて、どこへ連れてけばいいんだ? とりあえず、門衛にでも訊いてみるか──そう思った矢先、左手の指輪が赤く点滅しているのに気付いた。


 あれ?! これって、いつからだ?


 魔防士登録のときに貸与された【呼び出しリング】──魔物が発生した際にギルドからかかる呼び出しだ。


 魔物が出たのかよ!? こんなタイミングの悪いときに。


 くそったれが! はあ、ギルドへ行って、番号札を受け取って、広間で待たなきゃならん。


 いや、強制召集じゃないって、ギルドのお姉さんが言ってたか……今回は、ぶっちしちまうか?


 自分の判断でいいらしいから、まずは町に戻るとしよう。すぐそこだけど、道すがら考えようっと。


「それじゃあ、お願いしま~す。飽きたら代わるから言ってくれ。出発進行~っ!」


「よいしょっ! あれ!? 全然動かないわよぉう……くっ、はあ、ユタン、やるの?」


「ひく」


 あっという間にあきらめた様子だったスプライトが、ユタンちゃんと交代した。


「おっ、おぉおうっ! なに、これ?!」


 うっひゃあ、この絵面えづら凄くねえ……こんなちっちぇえ子が……ぶっといハンドルをつかむことすらできてないのに、どうなってんの?


 ……いやいや、これはまずいでしょ!? 俺が幼気いたいけな児童に過酷な労働を強いてる図になってるじゃんか! 俺が悪党に見えるじゃん。


「待った待った! それ待った……いや、そんな残念そうな顔しないでぇぇ、ユタンちゃん……おじさんの心がえぐられちゃうから……うん、しょうがない。あとちょっとだけだよぉ」


 仕方ないから、引かせてあげるって、言っちゃったけど、結構、すぐ門だしなぁ。


「ちょっとちょっと、速すぎるよ、ユタンちゃん。ゆっくりゆっくりね」


 あっ、一人で引かせてるから、悪いのか! じゃあ一緒にやろう。って、低すぎ……ハンドルが……しかも、引きすぎ……速いっての、この体勢じゃあ。


 意地でも離しちゃいけないと思って、がんばった……俺、がんばりましたよ。


 まあ、町の門まですぐ近くではあるんだけどね。


「おいおい、ちょっと待て! そこの怪しいやつ……ちょっと、ちょっとぉおっ?!」


「なに騒いでやがんだっ!? 見つかったのか? てっ、なんだこりゃあ」


「おい、お前! こいつら、どうしたんだ? 正直に言え!!」


 えぇ、正直にはちょっとぉぅ……言えないけど……あれ!? 悪党じゃなかったのぉ?


「黙ってないで、なんとか言え!」


「なんとか……じゃなかった……えっとぉ……」


「あっ、やっぱり、こいつらです! こいつらに間違いありません!!」


 うそん! えっ!? 俺たちの人相書きでも出回ってるの? あれ?! なんか悪いことした?


 そりゃまあ、ユタンちゃんみたいな幼女を連れ回してるわけだけど……これって、やっぱり捕まるやつでした?


 いや、なんか違うみたいだ……大八車に載せた奴らと調書みたいなものを見比べてるもの。顔の傷を確認してるの?! そんな曖昧あいまいなもんで、ほんとに大丈夫なのかよ?


 いやいや、こんな奴ら擁護してる場合じゃなかった。これなら、少しくらいごまかしても許されそうだな。


「えっとですね。あっちの茂みの中で、なにやら集まっていたので、とりあえず、門衛殿に確認してもらおうと引っ立ててきたんですけど?」


「おおぅ、そうであったか! すまんな。まるで問い詰めるような形になってしまって。実は、こいつらはな──」


 うん、やっぱり悪党でした。それも相当の。


 昨日からの厳戒態勢は、この連中を警戒してのことだったらしい。


 なんでも、勇者に蹴散けちらされた残党だとか……あれ!? 勇者って、まさかアリエルのことか!? あのアリエルがやったんだよな。たぶん片手間に……あり得る。


 元々は北の大きな街の辺りを根城ねじろにした五十人以上の荒くれ者の集団だったそうだが……。


 それがこの平和な南部へ流れ込んできて、近隣の村で散々悪さを繰り返していたみたい。


 メンバー全員の眉間みけんに十字の傷を刻んだ凄く臭い連中という評判だったそうだ。


 今、臭いのは俺がゲロを吐かせたせいだろうけど、犯人だけにゲロったわけね。


 門衛の偉い人に呼び出しリングの点滅を見せて訊いてみると、なんでも今回の呼び出しは魔物の発生ということではなくて、この盗賊共を見つけるために、魔防ギルドに協力を依頼した件だったそうだ……まあ、俺が捕まえちゃったわけだけれども。


 一応、もう既に魔防ギルドへ依頼を出してしまった件ということもあって、こいつらをここで門衛さん達がしょっぴいていくわけにもいかないらしい。


 それでも、せっかく伸びてる盗賊たちを逃がしては大変だということで、一人一人縛りあげた。


 その上で、魔防ギルドまでそれなりの人数の護送まで付けて、送ってくれることになったというわけだ。


 まあ、すぐそこだけどな……魔防ギルドは。


 それでも、いやぁ、目立つこと目立つこと。


 身体の大きさにそぐわぬ大八車を引くユタンちゃんへ向かう大歓声だ。宿の近くということもあって、元からユタンちゃんファンが詰めかけていたからね。


 どうにも、この町では半妖精が力仕事するのは、ごくごく普通のことなんだってよ……見た目幼女なのになぁ。


 それにしても、結構、凄い人集ひとだかりだ。


 魔防ギルドが、門のすぐ近くで良かったよ。


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