94話 ふふんふん、ウォッシュうぉっしゅ
「……シ……カシ……ねえ……どう……だい……よかった! やっと起きたぁ」
はっ、はぁっ、ふぅ、ん!? うっ、あ、朝か……ふぅ、やっと……。
「……うっ、んーーーっ……あ゛ぁ……はぁーーっ」
「大丈夫なの?! 酷くうなされてたけど……息も荒いよ!? 汗だって凄いし」
んっ?! だれ……ああ、アリエ……るぁっ?! スプライトか。
「す、すまん……うん、だいじょうぶ、平気だから……」
「そんなわけ……」
「あぁ、心配掛けて悪かったな。本当に大丈夫だから」
「なら、いいけど……」
くっ、やっぱ……アリエルと名前まちがったの……ばれちまった……かな?!
……他の女と呼び違えるなんて……そんなべたな失敗、って。
「はは、ごめんな。スプライト」
「もういいよ。そんなの」
許してくれたのかなぁ。でも、なんか割り切れてなさそうな顔だけど……このままだと雰囲気悪くなりそうか……。
『ありがとな。エアリエル』
「えぇ……えっ!? あっ! 真名教えるの忘れてたぁ!! ……あれっ!? なんで? 真名……いつ教えたっけ?」
なんだよ、忘れてたのかよぉ……いつ言い出すのかとは思ってたけど……なんかちょっとは色っぽいシーンがあるのかと。
ずっと我慢して残しておいた切り札で、これかよぉ。あ~あ。
でもまあ、そのお陰で変な空気が緩んでくれたな。
「あのなぁ、最初に逢って、名乗ったときに……言い間違って、真名を口走ってたじゃん」
「聞こえてたんだ。あのとき……やっぱりか、はあぁ」
「もしかして、あんときから、もう俺にめろめろだったって、ことか?」
「そ、そんなわけ……あるわけないじゃない。ただの言い間違いに決まってるでしょ!」
「はあ、さいでっか」
そんなむきになって否定しなくても……はいはい、おじさんが調子こいてました。えろう、すんまへん。
さてと、朝飯食いに行くか。
あっと、その後は保冷庫の状態確認をしに行かないとな。
──食堂で相変わらずの、うざったい衆人環視による朝食を済ませ、外出する。
昨日に引き続き、警戒中の門を出て、【歩いてくボックス】を隠した茂みへと向かった。
人気のないところに隠しておいたから……あれ!? ん? 人気の……人気がいっぱい!
どして?! 誰もいないはずの歩いてくボックスの周りに人が倒れていた。ばたばたと、そりゃあもう、いっぱい。
これって、もしかしなくても、俺の張った雷結界【スタンフィールド】のせいだよな……どうしよう!?
結構、威力を弱めにしておいたから、死んではいないはずなんだけど……。
いや、基礎疾患ある人だったら、やばいか!? いやいや、そんな不健康な人たちがこんな鬱蒼とした茂みの中をうろちょろしないっての。
あはは、本当はそんなに、心配なんかしてねえけどな。
だって、こいつら、濃い面なんだもん。
この際、くだらん駄洒落なんていいか……。
いやほんと、この連中、見るからに悪そうな面構えしてるんだもの。絶対に堅気じゃないって感じの。
でも、一応、顔だけ厳つい良い人の可能性もないわけじゃないから、丁重に扱おうっと。後で怒られるの、嫌だからな。
くっさ! 臭すぎる……まずは、このとんでもねえほど、くっさい臭いをどうにかしなくちゃな、っと!
きったねえ汚れがつかないように、風魔法で野郎どもを空中に浮かせたら、水魔法で、まとめて水洗いだ……ふふんふん、ウォッシュうぉっしゅ。
うわっ、きったねえ泥水……どんだけ汚れてんだよ!? まさか、心の中の汚れまで溶け出してきてるんじゃねえだろうな!? これって。
仕方ねえ、もう一度、水を替えて、っと……ウォッシュうぉっしゅ……おっ、だいぶ薄茶色っぽくなってきた……って。おいおい、まだきれいにならねえのかよ。
……まさかこいつら、最終的に溶けて無くなっちゃったりしないだろうな!? とりあえず、この辺で止めとくか。
うっ、まだ汚れた水が滴り落ちてて、触るの、やだなぁ。
しょうがないなぁ。ちっと乾かしてやるか。ほんだば……それっ!
今度は風魔法で、ぐるぐるグルグル……そういえば、さっき水洗いしているときに目を覚ましたやつがいたような気がするけど……「ごぼごぼ」と、なに言ってんだか分からなかったな……まあ、こういうのは、気にしたら負けだと思う……それっ、ぐるぐる、グ~ルグル。
なんか結構めんどくせえ。
乾燥機の要領で、湿っけた空気と乾燥した空気を入れ替えながらやると、結構時間がかかっちまうな……これなら火で炙っちまった方が断然早かったけど……まあ、一応、一般人の線も、まだ……いや、無いな。
あれっ!? なんだよ! こいつらぁ……せっかく俺が洗ってやったのに、今度はゲロまみれになってんじゃんかぁ……あっ、はは、俺のせいか。ごめんゴメンゴ……ちっ、めんどくせえな。
止めた。もう、あきらめた。




