86話 見せてもらおうか!防具の性能とやらを
まずは旅の仲間が増えた際には、RPG恒例の装備品の振り分けだ。
そのためにも、早めに性能確認をしておきたい。
さすがに町中で試すのは騒ぎになりそうだし、とりあえず、町の外へ出る準備をしよう。
装備品の性能次第では、そっくりそのままスプライトに使用してもらう感じになるな。
うん、その方がいいだろう。
こんなきれいな身体を1ミリたりとも傷つけられたくはないもの。
俺の身体なんて、どうでもいいしな。
後は、ユタンちゃんの守りをどうするかだが……。
こんな小さな子どもを連れて、魔物がはびこる地を旅するとなると、なんとも心配な限りだ。
それに防具の性能調査をするにしても、万が一があってはかなわん。
当然のことながら、まずは俺が着て、性能を試すしかないな。
「見せてもらおうか! 防具類の性能とやらを」
「えっ!? なに?」
「いや、ごめん。ただの独り言」
いやぁ、それにしても懐かしいフレーズだなぁ。
はあ、ガ▽ダム、もう見れないのかぁ。異世界でそれだけはちょっと寂しい気がする。
武器屋の親爺さんが言ってたとおり、俺を標的にして、スプライトに魔法を放ってもらうわけだが……やっぱ、これも付けなきゃ、駄目だよな……。
普段は恥ずかしくて、リュックの中に仕舞いっ放しだった花のコサージュも、一応装着していくことにする。
結局は俺が全ての装備品を身につけ、スプライトとユタンちゃんにも旅装に着替えてもらった。
今回はスプライトにユタンちゃんを抱えてもらい、三人揃って町の外へと出ていく。
ふふふ、スプライトのやつ、やっとユタンちゃんの触り心地の良さに気が付いたらしい。分かる、分かるぞ、それはいいものだぁぁ……ん! あれ!? なんか嫌な予感がする……。
あっ! そうだった。
そういえば、スプライトのやつ、今朝からちょくちょくいろいろとやらかして、小さな失敗を繰り返していたな。
初めて肉体を得たことで、身体感覚が掴めていないのは、当然のこととして、もしかすると、魔法の照準なんかにも影響しているかもしれない。
もっと広くて安全な場所で、試し撃ちさせた方がいいんじゃないか?
そう思って、できるだけ人気のないところにやってきた。
……いやぁ、危なかったぁ。結果的には大正解。助かった。
「なにが?」って……そらもう、びっくり! どうやら俺との契約のせいで、どうにもスプライトの魔力が随分と上がってしまっていたようなのだ。
あぁ~あ、ほんとに……本当に試し撃ちさせておいて良かったぁ。
かなり見晴らしが良くなっちゃったけど……これって、防風林的な重要な役割を担った林とかじゃねえだろうな!?
南国の方の林だと、そこんところ、どうなんだろ?! 全然分かんねえ。
誰かに難癖つけられても嫌だし、この事件現場……いや、この事故現場から少し離れておこう、っと。
それよりなにより、今は装備の実験をする方が先決だからね。
そうだそうだ、そうしよう……わぁーい!
おっ、幼稚園のお遊戯だか、小学校の劇かなんかで、こんな台詞を言わされた気がする……よく覚えてるもんだな。人の記憶って、不思議。昨日のことですら、すぐ忘れちゃうことだってあるってのに。
結局のところ、結構な距離を移動した……うん、びびりなもんで。
よしっ! ここからは気持ちを切り替えて、やるぞ。
とはいえ、まだあの程度の威力であれば、俺の身体的には問題なさそうな気がするけど……。
いや、そうであったとしても、シーリーコートがどうなるかまでは分からないからな。慎重にやらないと。
せっかく頂いた貴重な装備品なだけに、実戦で傷がつくのはしょうがないとしても、不用意な練習で壊しちまうのは惜しい。
そうだよ。まだ今なら俺の方が魔法の加減ができてるはずだ。
だったら、俺が撃ち出した弱めの魔法をスプライトの防御結界で跳ね返してもらえば、いんじゃね? その方が無難じゃね?
そう思って、スプライトに相談してみると、本来なら風魔法・魔術の類は、魔力反射系の効果は弱くて、苦手らしいのだが、「今なら、なんかできそう!」と、魔素過剰充填気味のスプライトさんが興奮気味に宣っている。
こいつ、肉体を得て、なんかいい感じの大人の女の色香を放ちつつ、言葉遣いも大人っぽくなったと思ってたけど……ふふふ、気持ちが高ぶると、元の羽妖精っぽくなって、かわいいな。見た目とのギャップがまたいい。
「それじゃあ、いくぞ!」
「ばっちこいっ!」
おまえ、どこでそんな言葉覚えてくるの? 違うか!? あれ、俺の言語翻訳のせいなのかなぁ?!
「もうっ、早くぅ~っ!」
おっほっ。以前からスプライトは悪戯気味な口調になることはあったけど……今のその身体だと、俺にはご褒美にしかならんぞ。
「ほんとに早くしなさいよっ!」
スプライトも自分の魔法を試したくて、うずうずしている感じだな。さあ、妄想を切り上げて、始めますか。
「いくぞっ! くれぐれもそのままの勢いで返してくれよな」
「了解、了解! ばっちこいや」
大丈夫かいな? ほんま。
魔法の射出が分かりやすいように、以前にやったアリエルとの連携演習を参考に、魔力の出力だけは軽めに抑えつつ、敢えて大きめな発声を心がけて、言霊を唱える。
「【ブリーズ】!」
ありゃ?! どうなった?
「だめよぉ。あたしの風の結界に対して、その程度の弱っちい風魔法じゃぁ。今はあたしったら絶好調なんだからね。この結界が吸収しちゃってるもの。ふふんっ!」
へえ、そうなのか。四属性の相克関係があるというから、反射された魔法が下手に減衰しても、強化されても困ると考えて、同属性の魔法にしたんだけど……。
相手の方が圧倒的に強いと、かえって魔力を吸収されて、相手を強化してしまうことになるのかよ。
それに、今試した感じだと、普通の人が大怪我しない程度に抑えた風魔法にする限り、発動の効果すら見えにくい感じだ。
これでは、たとえ風魔法が跳ね返ってきたとしても、視認できずに、上手く受けられない可能性も高いか。
さてと、どうすっかな? 風に強い火属性か、風に弱い土属性のどちらが正解なのか。
まあ、魔素や魔力の量的にもスタミナに問題はないし、いろいろ試してみるか。んじゃ、とりあえず……。
「次、土魔法いくぞ!」
「はい、はぁ~い」
えっと?! 初級土魔術の言霊ってなんだっけ? ああ、そうそう。
「【ストーン】!」
ヒュイーンという風切り音を奏でた石礫が、スプライト目がけて発射される──当たると思った瞬間、パシンという軽快な音を響かせて、石礫が跳ね返された。おっ! いい感じじゃん。
近くに居すぎたせいか、のんびり眺めていたせいか、手を出すのが少し遅れ、鼻先に礫の接近を許したと思ったその瞬間──俺の首筋の辺りから何かが飛び出して、石礫を弾いてくれた。
なんじゃ、今の!?
「なあ、今のって、おまえの方から、どうなったのか見えたか?」
「全然。なんか、パシン、カキーンって、いい音が響いてたよねぇ」
いや、まあ、そうなんだけど、見えなかったか?
「んっ! ユタンちゃん、なにかな?」
「きれい」
ユタンちゃんはそう呟いた後、俺の頭上、右上、右下、下、左下、左上へと、ゆっくりと六角形を描くように順繰りに指差して、にこにこと微笑んでいる。
その指先を追って、視線をやると、俺のやや背後で、青紫色の花びらが宙に舞っていた。
そう、まさに花びらがひらひらと揺れているかのようで、それなのに宙に浮いたままその場に留まっているのだ。大小それぞれ三枚ずつの花びらが。
あれっ!? この花、どこかで? ……おぉ、これかっ!
俺は自分のシャツの襟元を引っ張って、コサージュを確認した。
やっぱりな……そこには、花びらが散った細い葉だけのコサージュが。
俺を守ってくれた正体は、アヤメのような花の形を模したコサージュ型のアクセサリー、【セーフティービット】だった。
ははは、まさか、ほんとにエル×スのビットのようなサイコミュ連動兵器を手にする日がやってくるとは! それも宇宙ではなく、重力が働くこの地上で。
いや、待てよ……石礫を撃ち落とそうとなんて意識してなかったはずなんだけど!? もしかして、自動防御?!
おぉっ! 戻ってきた。
これは、めっけものだ。
この大きさと軽さなら、ユタンちゃんだって、装備できそうだし、自動で守ってくれるなんて。
はあ、これでまずは一安心か。
あれ!? でも、ユタンちゃんって回避は超得意か?
いやいや、万が一って、こともあるし、これは念には念を入れておくべきところだろう。
じゃあ、次だな。
その前に、これは外して、まずは早速ユタンちゃんに装備させておこう。
ユタンちゃんに近寄って、青紫色の花のコサージュを服につけてあげると……。
やはり女の子だね。花が好きなのか、相好を崩して喜んでくれているみたい。
ユタンちゃんを羨ましそうに見ているスプライトの方は、見なかったことにする。
うん、女の子の扱いって、難しいのな。




