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85話 クーパー靱帯が切れちゃうから

 さて、一旦、宿の部屋に戻って、それぞれの装備を変更するとしよう。


 だって、スプライトのやつ、服は買ったのに、未だに宿を出る前に貸してやったシャツ一枚で歩いているのだ。


 俺としては、周りの男共の視線がスプライトに向かっていないか気になって気になって、ほんと気が気ではない。


 こんなことなら、ジェミニブサイク……いやいや、ジェミニブティックで、ちゃんと着替えさせてから、出てくれば良かった。


 自分の身かわいさに、連れ合いを危険にさらすとは。とりあえず、早く戻って、着替えさせないと……。


「あぁ、こらこら、だめだめ……そんなにお胸を揺らして走ると、クーパー靱帯じんたいが切れちゃうから。世界的損失になるから。いや、俺が悪かった。ごめんよ。もっとゆっくり歩いて」


 気が急いて、早足になった俺のすぐ横に小走りでついてきたスプライトに注意を促す。


 しっかし、なんちゅうおっぱいしてんのや。まるで重力に逆らうかのような張り……ブラジャーなんて要らないんじゃね? 下から支える必要ないんじゃね? 下から支えるのは俺の手だけで。いやいや、いかん、そうじゃない。貴重品の保存維持の観点から必要なんだ。


 俺の不用意な行動や判断のせいで、むにっとした無二むにな美乳様をでろんとした垂れ乳にするわけにはいかんもの。


 それにしても、あいつ、なんか身体を得ても、相変わらず俺の心が読めてるような感じがするんだけど……。


 この世界の人族の場合には、魔法契約するまで妖精と話したりできず、契約後に初めて魔法線を介して、話すことができるようになるんだったよな。


 俺の場合、契約前から妖精と普通に話せていたし、契約した今となっては、魔法線で繋がったわけだから、これまで以上に俺の心が読まれやすくなったとしても、まあ、不思議じゃないのかもな。


 元々、念話にしてもダダ漏れだったわけだし、むしろ、今後、魔物なんかとの戦闘に際して、これは都合が良い。だって、連携アイテムなんかを全く必要としないわけだから。


 こんな超絶美人を危険に晒さずに済む。


 【共鳴鈴】のような連携アイテムがいくらするのか知らんけど、あんな曖昧あいまいな意思の伝達よりもずっと明確な意思疎通がただでできるのはありがたい。


 それにしても、頭数あたまかずが増えた以上、出費が増えるのはともかくとして、やはり安定した収入が無いのが心許ない。なんとかしないと、今後が不安すぎる。


 今にして思えば、あのとき、アリエルが謝礼の受け取りを固辞こじしてくれて助かったとさえ感じているくらいだもんな。


 これじゃあ、孤児院への寄付どころではなくなってしまっている。


 ……なんか、あのときの自分を思い出すと、途端に恥ずかしさが湧き出してくるよ。


 はあ、俺は相変わらず、先を見通せないやつだ。


 うぅ、それにやっぱり、こっちの方も気になる……。


 とにかく帰ったら、ブラジャー代わりに晒しでも巻かせとくか?!


 雑念渦巻く頭の中に悩まされながらも、ようやく宿へ戻ってこれた。


 受付にいる主人に……ん!? それにしても、この人って、いつもここに居るな。


「ご主人、ちゃんと休んでます? 働きすぎだと、身体壊しますよ。『大丈夫』って、えっ、ほんとに?」


 おっと、そうだった、そうだった。スプライトの事も話しておかないと……。


「──ええ、そんな事情なわけでして、部屋が空いているのであれば、二人部屋に移りたいわけなんですけど」


「誠に申し訳ございません。あいにく当宿には一人部屋しかないものでして。しかも、昨日さくじつから満室なため、追加でお部屋をご用意することもできません。ご不便をお掛けしますが、お布団や毛布を追加でご用意することくらいしか……。妖精様のご宿泊ですので、もちろん、追加料金は不要です」


「そうですか。では仕方ないかな。それじゃあ、別の宿を探すしかないか?」


 俺はスプライトに向き直って、話しかけた。


「えっ、なんで?! そんなのいいわよぅ。あたし、ここ好きよ。ごはんも美味しいし、別にこのままでいいじゃない」


「いや、良くはないだろう……」


 おいおい、一つのベッドの中で、おっさんと二人になるんだぞ。分かってるのかな? この子は。


 いくらおじさんのあそこがたないからといって、なめてもらっちゃ困るよ……なんなら困らせるくらい、いろいろなところをめちゃうぞ。


 まあ、ここでとやかく言ってても、らちが明かない。ひとまず部屋に戻ることにした。


 部屋に入った後、クローゼットを開けた瞬間、内鍵がきちんと掛かっているか、扉に隙間すきまはないかと急に心配になってきた。


 よく考えてみたら、スプライトのこの美しい容姿を一度でも目にしたことがあるやつだったら、覗きにこないとも限らないからだ。


 そう思うと、居ても立ってもいられずに、内鍵を確認して、鍵穴の辺りにタオルでも掛けようと思って、扉に近づいた。


 中が覗かれないように……って、あれ!? おぉっ! ここを下ろすと、外から覗けない仕組みになってたのか……知らんかった。でも、これはありがたい。他には隙間がないようだし、扉はこれでよし、っと。


 後は窓の方が問題かぁ……。


 向かいの建物とは、視線を考慮して、窓の位置を互いにずらした設計になってはいるけど……う~ん、それでも、今となっては、ちょっと気になるな。


 あぁ、そうか! そうだった。まったく俺ってやつは、焦るなって。


 結局のところ、窓の外扉をしっかりと閉めてから、スプライトに着替えさせることにした。


 日中であれば、窓のわずかな隙間から、どうしたって光が入り込んでくる。最初の内は多少暗く感じていても、すぐに目が慣れてくるはずだ。


 あれだけ精霊を確保した今であれば、なんなら光魔法を使って、室内を明るく照らしてもいいのだったよ。


 はあ、なんか色々、ばたばたしてきて、俺のにぶい頭ではちょっと処理能力を超えてきているのかも……。


 でも、これで安心、安全だ。


 ふぅ、やっとこれで、服を着替えてもらえる。


 ……なんだか一苦労だな。


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