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83話 そもそも、なんで地球の神なん?

 あらかた店の商品を見尽くした頃、大きな溜息ためいきが聞こえてきた。


 どうやら、防具の鑑定が終了したようだ。


 結果を聞きにカウンターの前まで戻ると、立派な髭を顔中いっぱいにたくわえた温厚そうな顔がにんまりとほころんでいる──かなり満足のいく品だったらしい。


「聞いて驚け! お前さんからあずかった六つの防具とこの杖、その全てがやはりシーリーコートじゃった」


 なんでも、武器屋の親爺によれば、シーリーコートの最大の特徴というのが、武器や防具に対して、所有者を設定する機能で、使用できる者が制限されている物らしい。


 所有者本人、もしくはその家族のみが使用可能だそうだ。


「それを変更することはドワーフの儂でも、専用の施設がなければできん。ましてや人族の武器屋には無理じゃ」と断言された。


 いや、えらそうなこと言ってるけど、結局、ここでは使用者変更できないってことじゃね?


 んっ!? あれ?! 今、ドワーフって言った!


 あぁ、カウンターの向こう側って、全体が小上がりになってたのか?


 なんだよ。俺と同じくらいの背丈かと思ってたけど、実際には1mくらいなのか? 確かに、腕が短くて、なんか違和感があったけど。


 このごつい髭面ひげづらに、この低い背丈せたけの武器職人って、やっぱ、ドワーフのイメージのまんまだ。


 錬金術的れんきんじゅつてきなものまで駆使くししていたようだし、ファンタジーのお約束がここでもか。


 よくよく見ると、身体のぶ厚さといい、その割に身長とのバランスがなんか絶妙に取れてるところといい、ちっせえくせに、なんか格好いい。


 それに、武器・防具職人らしき無骨ぶこつな雰囲気がまた。


 いやいや、そんなことよりも話の続きだ。


「落ち着いたようじゃな。気持ちはわかる。では、話を続けるぞ。まずはこちらの頭の防具からじゃ。その月桂樹でできとるかんむりは、【ニケの冠】と名付けられとった。ニケとは勝利の女神様の名じゃな。それにあやかってつけられたようじゃのう」


 えっ、ニケって、あの?! しかも、勝利の女神って……いや、偶々たまたまか?


「次は、体防具と腕具のセット品じゃ。アマルテイア種の山羊革やぎがわを使っちょる逸品いっぴんで、めいが【アイギス】の胴鎧どうよろいとガントレット。うむ、こっちは最高神マルドゥク様の持ち物にちなんで命名された品のようじゃな」


 おいおい、アイギスって! えっ?! ギリシャ神話のゼウスとアテナの持ち物じゃなかったっけか?


 それに、マルドゥクはメソポタミア神話の最高神だろ?


 確かにギリシャ神話の元になったのは、メソポタミアのシュメール神話から始まる、アッカド神話とか、バビロニア神話への流れだろうけどよ。


 世界創世の神話やら、子や孫の神に打倒される話からして、どう考えてもマルドゥクがゼウスの元になった神だろうと考えたことはあったけど……。


 いやいや、そもそも、なんで地球の神なん?


「その次の翼が付いとる足具が【イリスの翼靴よっか】。イリスはにじの女神様で、へルメス様と同じ使者の神とわれとったのぉ」


 おいおい、イリスにヘルメスって、もろギリシャの神々そのままじゃねえかよ。どうなってんだ? こりゃ。


 まあどうせ、単なる言語変換のせいだろうけど。


「マントの方は、噂になっとったやつじゃな。【妖精女王の森】周辺の平原で討伐された獅子王ししおう──百頭以上のめす獅子を率いていたおすの皮をなめした【獣王革のマント】じゃ」


 おっ! これだけは、ご当地ものか?


「この花のアクセサリーは正直よくわからん。花はアヤメかのぉ。銘だけは【セーフティービット】となっとった」


 名前だけはどうしてわかるんだ?


「そして、最後がこの短杖たんじょうじゃ──ワンドと呼ばれるタイプのつえで、先端に松笠まつかさをあしらって葡萄ぶとうつたを巻き付けた意匠いしょうになっとる。【テュルソス】──酒の神ニンカシ様が使っていたとされる杖と同じ銘じゃの。以上で全部かのぉ」


 あれっ!? テュルソスって、ディオニュソスが信者にも持たせていたっていうあの杖か!?


 これもおかしい……ディオニュソスは確かにローマ神話の酒の神バッカスの元になったギリシャ神話の神だけど。


 ニンカシも確かにそれよりも古いシュメール神話か、アッカド神話辺りの酒の神だったはず……でも、そんな杖が描かれた石版の解読ってされてたかな?


 それにしても、これって、俺がラノベ好きで、小説に出てきたギリシャ神話とかメソポタミア神話関連の用語をいもづる式にかたぱしから調べてなかったとしたら、一体どんなふうに翻訳ほんやくされてたんだろうな?


 ティアマトとか、イシュタル、ガイア、クロノス……どれもゲームとかにも出てくる超かっけー名前だから、誰でも何かしら気になって一度くらいは調べはするだろうけど。


 まあ、それは今はいいか……。


「えっと、それでそれぞれの機能の方はどんな感じなんですか?」


「わからん」


「えっ?! 今、なんて?」


「シーリーコートはのぉ……使用者制限がかかっとるから、試そうにもわしじゃ試せんのじゃ! 残念ながら、いろいろやってはみたものの、全く手が出んかったぁ。すまんのぉ」


 なんだよ!? 結構待たされて、結局わかったのって、名前だけ?


「はあ、使用者変更もできないんですよねぇ……」


「そんな顔するな。いや、すまんかった。ところで、そっちの嬢ちゃんたちはあんたのこれか?」


「えっと……まあ、確かに二人とも俺の契約妖精ですけど、それが何か?」


「それなら、嬢ちゃんたちもシーリーコートを使えるぞ。そっちの小妖精にはアクセサリーぐらいしか無理じゃろうが、美人さんの方ならサイズの自動調節機能の範囲内のはずじゃから、そのまま使えるぞい」


「まじですか?」


「本当じゃ……機能の方は自分で装備して試してみるしか方法はないがのぉ。美人さんは風妖精の耳族じゃろ? 嬢ちゃんに弱めの風魔法を放ってもらって試すといい。すまんが、儂にはそれくらいしか……」


 まあ、無料の鑑定だしな……文句言う方が悪いやな、そりゃ。


 ただ働きさせちゃ悪いし、なんか買ってくか?


「いえ、どうもありがとうございました。それだけわかれば、とりあえずは……それと、この子に合うくつとマントを一枚見繕みつくろってもらえませんか?」


「おお、気を使わせて悪いのぉ。少し待っておれ。奥からおびに……といっても、シーリーコートのような大層なもんじゃないから、期待せんといてくれ」


 親爺さんは、奥にある扉を開けて、倉庫らしき部屋に入ってしまった。


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