81話 絶対に近寄っちゃいけません!
誰もが視界に入った瞬間に足を止め、思考まで止めてしまうような容姿になったスプライトを連れているからか、どうにもこうにも、気もそぞろ気味になってしまう。
いろいろと周りの男共の動向を注視していなければならなかったり、危なっかしいスプライトにも注意を払って声掛けしてやらなきゃならないことがあったり、そんなスプライトが愛おしくて思わずチューしたくなっちゃったりと。
なにやら今日は一際、日差しが強く感じる──どうやら太陽までもがスプライトに注目し、彼女の動作一つ一つを南国のスポットライトで輝かせているみたい。
我ながら、ちょっと浮つきすぎなんじゃないかって、どこかで感じつつも、彼女たちの婦人服を探しながら、いつものメインストリートを流していく。
おっ! なんかいい感じ。
突然、目に訴えかけてくるものが……うん、遠目に見ても、あそこの店には良さげな服が飾られている。
あれなら、スプライトにも似合いそうだ。
さっき俺がスプライトの服の着こなしを見て、美人は何を着ても映えるって言ったから、それとは矛盾するように聞こえるかもしれないけど……えっと、こいつの良さを更に引き立ててくれる服とでも言ったらいいのかな?
こいつは顔だけじゃなく、スタイルだって何から何まで超抜群なものだから、サイズとデザインの両方がマッチする服って、この辺ではなかなか見つからなかったんだよ。
どうやらスプライトも気に入ったのか、気持ち小走り気味に、その店の中へ入っていったし。
やっと見つかったという思いで、俺も後に続く。
……へえーっ、これは見事なもんだぁ。
この辺りの店のほとんどが布だけの販売とか、オーダーメイドの服飾店が多くて、見本程度しか飾ってなかったけど、ここのお店は既製品が整然と陳列されている。
ユタンちゃんほどではないにしろ、色合いの配置が繊細かつ壮観な印象を与える店内だ。
いや、壮観なのは、店内ではなく、店員──なんじゃぁ、ありゃあ! あ、あの厳ついゴリラみたいな獣は?! 獣人族か? いや、ケモミミなんて、どこにも付いてないし、違うか?!
つうか、耳が……普通の耳が歪に潰れて……いや、妙に中も膨れて……あ、耳がわく、っていう状態か! 格闘家とかの。
あんなのを押さえ込める連中が他にもいるってことかよ!? んなバカな。
いや、だって、腕なんか、俺の胴周りくらいあるんじゃないのか!?
ぷっくりと浮き出た血管が、はち切れんばかりの重厚な筋肉ダルマ……。
なんでマッチョ系の人って、みんな誰も彼も、あんなにも身体のサイズに全然合ってない、あんなちっこいシャツ着てるわけ? バカなの? 目とか脳に栄養届いてないの? みんな筋肉に持っていかれちゃってるの? いかれてるよ。脳細胞、ぜってえ逝かれてるよ。お労しや。
おいおい、そんな場合じゃねえよ。やべえよ。あんなのをスプライトに近づけるわけにはいかん! 目をつけられる前に早くこの店を出なきゃっ!!
「あぁらぁ、いらっじゃい。もう帰っちゃうのぉ! 坊やぁ」
し、しまったぁ! 後ろに回り込まれた!? いったい、いつの間に?!
あ……いや、もう一匹、同じ顔のがいた。ぶ、分身もできるのか?!
「「ぞんなに怯えなくても、だ、い、じょ、う、ぶぅ。取って食べたりじないがらぁ!」」
いや、喰うね。喰らいつくね。むしろ、貪り喰らい尽くされる未来しか見えてこないね。
ん!? なんか、凄まじい圧の視線を尻の辺りに感じるんだけど……こりわ!? やばくないっ? ……俺か! スプライトではなく、これは俺の危機なのでは?
「あなだぁ、見かけほどぉ柔じゃないわねぇ……結構、丈夫そうぉ」
「やぁだぁ、ほんどぉ! うふふぅ」
いや、なにが丈夫そうなの? いやいや、俺の尻の穴は結構弱いからね……すぐ切れ痔とかになるし。
「あっ! このお洋服素敵!!」
い、今はそんな場合じゃないっ! スプライトよ、援護を……援護射撃の妖精魔法を。こいつらに……でないと……でないと、おまえのご主人様が契約早々、ホモサピエンスからホモセクシュアルにクラスチェンジしちゃうからぁ!! いいのか?! それでも。
俺の心配をよそに三人の中では話が進んでいく様子。
「「あらあらぁ、お目が高いぃ。ぞちらは今年の流行りのカラーだじぃ、お勧めよぉぅ」」
こえぇーっ、なんかハモると、やべえ呪いをかけられてる気がしてきた。
「着てみてもいいのかな?」
「「いいわよぉん!」」
スプライトは平気なのか? こっちは精神の何かがガリガリ削られてる音が聞こえてるというのに!
「ほんと? ありがとう!」
「「ぞぉこぉの試着室を使ってねぇ」」
おいおい、この敵を前にして、ただでさえ防御力の低いそのシャツまで脱いじまうつもりなのかよ!?
死ぬ気か? スプライト。
「……ん? あれ!? んもうっ! 着方、分かんない。ねえ、ちょっと手伝ってよ!!」
しばらく試着室で、一人格闘していた様子だったスプライトが、カーテンの隙間から首だけをちょこっと出して、俺に催促してきた。
俺も最速でスプライトの元に向かう……うん、一緒にいた方が少しは安全そうだから。俺の尻の穴が。
「「あぁらぁ、仲良じさんねぇ! 妬けちゃうわぁ」」
背後でなんか呪いの言葉を発しているが、とりあえず無視だ。
ああ、なるほど! 背中で留めるタイプの服だったか。初めてなら、この手の服着るのは、確かに大変かもな。
それにしても、試着室に男を連れ込んでる時点で、マナー的にもそうなんだけど……地肌にシャツとか、反則じゃないですか? 淫靡すぎるだろって話ですよ。
こりゃぁ、やっぱブラジャーとかも必要になるんじゃね? ここで買うのか?!
いやむしろ、スプライトにとっては、ここの方が安全なのか!? 他の服屋でも、全くといっていいほど、女性店員の姿を見かけなかったし……。
いやあ、でもな。やだなぁ……なんかやだ。ゲイとはいえ、他のオスにこの極上のマシュマロを触らせるのは。
そうだ! ユタンちゃんに作ってもらおう。
正直、ブラジャーなんて、ざっくりとした形しか分からんけど、布地やワイヤーの素材とか、ラフなデザイン画を見せて、なんとかやってもらうしかない。
たとえ失敗したとしても、その都度、何回もスプライトの胸にあてがったりできるわけだから、それはそれで夢が膨らむ。
うん、そうと決まれば、とりあえず、スプライトの欲しいものだけ全部買ってやって、可及的速やかにここを出るぞ!
──はあ、やっぱりというか……なんというか……女の買い物……なげぇーよぅ。一体いつまでかかるんだよ?
う~ん、なんか意気投合してんのな、あの四人で……スプライトとユタンちゃん二人で服を選び出した頃は「ユタンちゃん、あの二人には絶対に近寄っちゃいけません!」って、あんなにも注意しといたのに。
でも、ユタンちゃんに認められてるところを見ると、あの豪傑共、美的センスの方は相当良いらしい。
まあ、安全ならば、ゆっくり選ばせてやるか。
最初、奴らが身につけている、かわいめの服を見たときには、女の子を丸飲みにでもした後に……なんか、剥いだ獲物の戦利品を身につけているのかと勘違いしてたけど……ひぃっ、ごめんなさい。
──結局、ユタンちゃんが選んだ質感の違う上質な布を数種類、枚数は多めに購入しておく。
スプライトには益荒男二人が……ひぃっ……いや、なんだ!? う~んと……そう! ニューハーフのようにお美しい娘さん二人にお勧めされた街着、それと普段着数着、旅装束用の服などを買っておいた。
つうか、なんで!? こいつら、俺の心読めるんだ? やっぱ妖怪の類か……ひぃっ。
俺は特に何もしていないのに……ナニなんかされてないはずなのに……はぁ~っ、なんだか精神的にすげぇーっ疲れた気がする。ごっそり持っていかれた。
肉体的に……ではないからね。本当に! いやいや、本当なんですぅ!! 信じてくさい。
はあ、しっかし、危なかったぁ。
さて、次は防具屋に行きたいんだけど……。
でも、この大通り沿い近辺を何回か行き来しているけど、どうにもそうした類の商品を取り扱っている店なんて見かけた覚えがないんだ。
借りをつくるのは、なんか嫌なんだけど、偉丈夫としか言いようがないお二方なら防具屋の場所も知ってそうだし。
いや、もしかすると、「「防具なんて、物ともしないこの筋肉が見えねえのか? おらぁ」」とか言って、怒られるかもしれないけど。
それでも仕方なく、場所を尋ねてみると、裏通りでひっそりと営む一件の武器屋だけが防具を扱っているとか。なんでも、この町の周辺には魔物が少ないため、商売柄、経営が難しいようで。
「一応、腕の良い職人気質の親爺が武器も防具も扱っているらしいから、お勧めって話よ。うっふん!」と最後に強烈な精神魔法を放ちやがった……うっ、トラウマになりそうなんだけど……。
とりあえず、その場所を詳しく聞いて、この【ジェミニブティック~ドルン・ゲルン】を後にした。




