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80話 この辺がむずむずするの

 みんなが食べ終わると、さっさと部屋へ戻った。


 今は、出かける準備に取りかかっているところだ。


 今回の目的は、服と防具の充実……と言っても、もちろん俺のじゃない。


 俺は今のところ、その必要性を全く感じていないから、主にスプライト、もしあればだけど、ユタンちゃんの分もだ。


 無ければ、最低でも布だけは購入したい。


 というのも、ユタンちゃんの服はなんとお手製みたいなんだ。


 布があれば、色を染めて、裁断して、縫製ほうせいまで自分独りでできるらしい。だから、ユタンちゃんが気に入る布があれば、即購入するつもりでいる。


 ユタンちゃんは独自の超絶センスがあるから、その方が絶対に似合いそうだもの。


 そろそろ、いいかな? さあ、出掛けるとしよう。


 道すがら、スプライトに身体の調子を尋ねると、「気になることはあるにはあるが、特に問題になりそうな点はない」という、なんとも曖昧あいまいな答えが返ってきた。


「なんだよ? その気になることって」と問いただしてみると、なんとも言いにくそうに「この辺がむずむずするの」と、下っ腹の辺りをやさしくこすり出した。


 なんでも、俺との魔法契約の接続が強すぎるせいで、大量の魔素がスプライト側へ流れ込んでいるのだとか。


 魔晶石が魔物の心臓にできると聞いてたから、契約者の魔素も心臓に流れ込むのかと思いきや、まさかの下腹部……子宮しきゅうにでも流れ込んでいるのか?


 いやはや、俺のは何から何まで魔素すらも、すけべに出来てるのかもな。


 妊娠とかしちゃってるとか!? は、……さすがに無いよな。


 いや、それ以前に、契約妖精側から契約者側へ魔力が流れるのが普通なんだろ?


 だからこそ、ただの人族でしかない契約者が、妖精のような強力な魔法を放てるようになるって話じゃなかったっけ?


 う~む、スプライトの身体にあまり負担をかけたくないから、余計なことを試すわけにもいかないし……ここは、しばらく様子を見るしかないのかな?


 そう思って、じろじろ眺めていると、どうしても目に飛び込んでくるのが、このうるわしいお姿だ。


 ごくごく平凡な男物の服なのに、この着こなし……美人は何を着てもえるってのは、本当なんだね。


 そして、なにより、偶に興味のあるものを見かけては、目を輝かせて走り寄ろうとして、危うく転びそうになったり、興味津々な様子で物をつついてみたり、はたまた鼻を近づけて匂いを嗅いだり、今度はゆっくりと触ってみたり……事ある毎に変化し続けるスプライトの仕草から目が離せない。


 どうしても、昔飼っていた猫を思い出してしまう。


 生まれたばかりの頃に、おふくろが貰い受けてきた子猫の【土左衛門どざえもん】……今思えば、なんて名だよ。


 うちに来て数ヶ月のあいつときたら、でらぁかわいいもんじゃった。とてつもなく。


 成長した後の反応も愛らしい猫だったけど、生後数ヶ月までの子猫のあどけなさは、格別の中の格別だったもの。


『あぁ、いいよ、いいよ。ゆっくりでいいよ。学ぶのなんて、ゆっくりで……』


 そう思わずにはいられない。


 ただ、スプライトの場合、子どもっぽい愛くるしさに加えて、美麗な大人の肉体も持ち合わせている。だからこそ、俺としては目まぐるしくて大変なんだ。


 どっちの目でスプライトを見たらいいのか!? う~ん、どっちも捨てがたい。うん、どっちもですね。


 ユタンちゃんはユタンちゃんで、どこからともなくベーコンを取り出して、間食してるし。いろいろと手に当たる感触を楽しんでいるスプライト……の尻……いや、その様子を眺めているだけが仕事の閑職かんしょくな俺。


 ははは、こんなくだらん駄洒落が出てきてしまうほど、今は長閑のどかなんだ。


 しっかし、ほんと、クリークビルって、平和なぁ。魔物発生の呼び出しなんて、いっこうに来やしねえじゃんか。


 これじゃあ、いくらなんでも駄目だ。ひますぎる。働かなきゃっ!


 俺以外の宿代はかからないにしても、頭数あたまかずも増えたことだし、必要になる物は諸々もろもろと増える。早急に対処せねばなるまい。


 さっさと装備を整えて、次の町に行くしかないぞなもし。


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