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8話 天辺、見えねぇぇぇぇぇーーーっ

 感動に打ち震えつつ、ひたすら森の中を歩く。


 ──かなりの時間を要して、深い森の中を抜け、里らしきところが下に見える開けた丘のような高台に辿り着いた。


「里の奥に見える御神木が──かの有名な【世界樹】だ」


 かなり溜めた上、自慢げに語った隊長さんに対して、こちらも思わず微笑ほほえみがこぼれてしまった。


 またもや、ファンタジー定番としてのお約束の踏襲だ。知識に齟齬そごがなく、共通認識を得られているせいか、なんか嬉しさが込み上げてくる。


 実際のところ、世界樹はいかにも素晴らしかった。


 あり得ないほどの大きさであると、物語やゲームなんかでよく描かれているけど、見ると聞くでは大違い。全く違う。


 いや、そりゃあ、CGとかでなら見たことあるよ。


 子どもの頃はファンタジー系のゲームとか好きでよくやってたし、仕事で時間ないときほど、睡眠時間削ってでも、異世界もののラノベ読んでたし……なにかに没頭してねえとな……いろいろと。


 ふぅ……まあ、それはともかく、本当にこの実物を見てほしいんだ! 絶対驚くから。木の自重とかの物理的な法則を無視しまくってるかのように、天までそびえ立ってるから。


 ほんとに天辺てっぺん、見えねぇぇぇぇぇーーーっ。


 高すぎて、近すぎて……うっ、見上げると、首が、痛っ……。


 そう、さっきまで森の中からでも、ちらほらと見え隠れしてた壁──てっきり崖の壁面だとばかり勘違いしていたあれが、まさか世界樹だったとは!? 全く気がつかなかった自分がちょっと恥ずかしい。


 いや、だって近すぎるから……スカイツリーだって近すぎると、視界に全然入ってこないんだぞ! と誰に言うでもない言い訳をしてみたくなるわ……ははは。


 気を取り直して、丘の上から里の様子をうかがう。


 エルフらしい樹上の家……なんてことはなく、美しい木造建築ではあるものの、普通の人が住んでる村落という雰囲気に少し落胆した。


 だが、実際に暮らすとなると、現実はそんなものだよね。


 はてさて、いよいよ、異世界初の人里訪問だ。


 ウッドエルフの隊長に先導されて、葛折つづらおりの坂道を下っていく。


 門番に隊長が目配せすると、何事もなく里の中に入ることができた。


 服の中、特にわきの下の辺りにじっとりと汗をかいてしまった。ふぅ、なんか気持ち悪い。


 門に近い広場で隠れん坊でもしていたのであろう数人の子どもたちが、好奇心旺盛な目でこちらを窺ってきていた。


 それに比べて、大人たちの目は何とも厳しく、子どもたちに対して隠れているようにと必死にうながしている。家に戻るようにしかりつけている者も。


 まあ、想定内の反応だよね。


 この世界の道徳観がどうなのか知らないけど、見知らぬ男──それも異種族の男を突然見かけたのなら、警戒心が先にきて当然だ……正解は異世界人なわけだしな。


 地球であっても、文化の発達した現代に至るまで人種差別はしつこく残っているわけだし、ウッドエルフと異世界の人間じゃさもありなん。


 物語の中でも、とかくエルフは排他的に描かれているしな……。


 あれっ!? でも、違うか! これはさっきの誤解と原因は一緒だ。


 あのウッドエルフたちも、通常の人族に対する先入観から俺を忌避きひしてるだけかも。


 連れてきてくれたウッドエルフさん達とは、とりあえず和解できたわけだし。


 ここまでもしばられたりしていない。ちゃんと文化的な扱いを受けていたわけだし、仲良くなれるはずだ。


 あれっ!? 今更、牢屋ろうやにぶち込まれたりしないよね? 大丈夫だよね?


 ちょっと不安がぎるも、比較的小さな集落らしく、いつの間にか、木のぬくもりを感じさせる中央の大きな屋敷の前まで連れてこられた。


 屋敷の入口をくぐると、手前の控え室のようなところに通され、用意されていた椅子に腰掛けるように勧められた。しばらく大人しく待つようにと告げられて。


 隊長さんはと言えば、こそこそと使用人らしき人となにか話をしている。


 ──さほど待たされずに、案内の方が現れ、促されるまま、木の香り漂うつややかな長めの回廊を渡っていく。その後、階段を下って地下に降り、奥の広めな部屋に通された。


 御簾みすのかかった奥の間──ぼんやりとしか見えないのに、漂う風格が尋常ではない。


 あれが噂の聖樹様なのだろうか?


 うっひゃあ、すんげえ緊張してきた。おしっこ行きたくなりそ。


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