76話 ごめん、スプライト!騙すつもりじゃ
やはり、裸で堂々とされるより、こうして恥じらいがある方が断然かわいい。
「これ借りるね」
おぉぅ! それは……まぼろしの……素肌に直接の、借りた男物シャツ……見えそうで見えない……ぎりぎりの太股のラインが……また絶妙……股だけに。
しかし、こいつの服、どうしような?
そうだ! いいこと思いついた。
「スプライト、おまえの服、買ってきてやるから、ちょっくらサイズを測らせろ! 3サイズ」
「えっ?! なに? 3サイズって」
「えっとな。自分の身体に合う服の大きさを選ぶための目安なんだよ」
「へえ、そんなのがあるんだぁ!? ありがと」
「じゃあ、正確に測定するために、シャツは一旦脱いで……恥ずかしいだろうから、後ろ向いてていいぞ……後ろからこのベルトで長さを測るから」
俺は真面目な顔を保ったまま、クローゼットから外していたベルトを取り出して、スプライトに見せて説明を試みた。
うん、なにしてんだろう? 俺。いくら何でも卑猥すぎるだろう。
「分かった! おねがい」
なにも疑わずに信じきっている様子のピュアなスプライトを凝視できん。
あぁ、俺は穢れている。汚されている。
えっ、ほんとにいいの? これ……またぁ騙そうとして! あれっ!? 大丈夫なやつ? ……まじかよぉぅ、まじですか?
美人のまっぱに、ちょくベルトで測るなんて、どんなプレイ?
ごめん、スプライト! 騙すつもりじゃ……そんなつもりじゃなかったけど……せっかくなので。
おっほぉぅっ……すげえ……こうふん、興奮する……ベルトの長さぎりぎりじゃん! ……えっ、どんだけぇ……いやこれは……たまらん……ちょっと触れただけでも余りの柔らかさに……ギョクリと唾を呑み込む迷い人さんであった……ほんとに迷走してんな、俺って。
ウエストほっせぇっ。ヒップもたまらん。
これ以上は……いくらすけべな俺でも良心の呵責に耐えきれない。
ごめん! スプライト。そして、ありがとう!!
んっ! ……ありぃ……あれあれ……どうした……おいっ! ……なんで……どうして?
うんとも、すんとも、言わねえ。いや、なにがって、アレが……うそ~ん! 本物……これ、ものほんのやつか……嘘だろうぉぉーーっ……。
まじか?! ばちか!? 罰が当たったのか? 調子に乗りすぎた罰なのか?
けっ、そんなこったろうと思ったぜぇ。なにせ、俺だもんな……俺のことだもんな……やっぱりな……はははは……なんか力が……ちからがはいらねぇ──なんという無力感。
正直、起たないことを少し軽く見すぎていたかも……男にとって、こんな……こんなにも……重要なことだったの!?
なんだか……冷や水浴びせられて、一気に目が覚めた感じだ。
ふぅ──
「服屋が開くまで、まだまだ時間かかるから、とりあえず、そのシャツと……あと、こっちのズボンでも穿いとけ!」
俺はクローゼットの中から、予備のズボンを出してきて、スプライトに渡した。
「ありがとね」
いや、そんな顔で微笑まれても……さっきやった悪戯の記憶が俺の心を蝕んで……。
それにしても、でっかくなったなぁ……いや、あれだよ……図体の方だよ……もう真面目にしますから。反省してますので。
「どうなってるんだ?! おまえの身体って……元々は霊魂と精神体だけのはずだろ?! どこで、どうして、そうなった?」
「ふふふ、どうしてなんだろうね? 普通は特定の場所でしか肉体を得ることができないと謂われていたんだけど……なんか成功しちゃったみたい」
「特定の場所って?」
「えっと、故郷とか?! 昨日、初めて生の食事を見た後、なんだか眠くなっちゃって、あんたの頭が気持ち良さそうだったから……ついね」
やっぱり、俺の頭に、帰巣本能を発揮してやがったのかよ。
さっぱり、分からねえな。摩訶不思議な妖精の生態だ。
にしても、身体がなんか軽い……ふわついてる感じ……あれっ!? これって、最初の頃に……。
いや、気のせいか? ……少しずつ落ち着いてきている感じもするし。
それにしても、一夜にして二人も娶るとは! 妖精さんだけど……妖精さんなんだよなぁ。
「二人の妖精さんと結婚しました」と言い出す四十五歳のおっさん……客観的に聞いたら、やべえな俺。他人だったら、百パーセント正気を疑う。俺なら絶対に近寄らねえ。
やっぱり、俺、病んでんじゃ……心が壊れているんじゃないのか?!
本当に大丈夫なのでしょうか? 神たま、おせぇーて!




