75話 桃も素腿も……モモのうち
翌朝、窓の外で海鳥が普段よりも喧しく騒ぎたてている。
鳴き声が気になって目が覚めると、もうびっくり! 目の前に広がるのは夢のような景色──ぜ、全裸の天使がそこに。
くそっ! 後もう少し。見えそうで肝心なところが見えない……でも、これがあの……チラリズムってやつかぁ……うんうん……このもどかしさが逆にいい感じ……。
あっ、動いた……寝返りか? やったぁ! おっほぉぉおぅ、きょれぇわぁ!!
な、なんという質感に量感! 超やわらけ~感触……しかも、ほどよい弾力……ああ、そんなにぎゅっとしたら……つぶれちゃうよぅ……えっ、こんなにも変形するものなの?! ……戻るの? ……ダイジョウブナノ?
抱え込まれた俺の幸せな左腕を、反対側の右腕が嫉妬で……気が狂いそうにプルプルと震えている。
いや、ぷるぷる震えているもっといいものから目が離せないのだけど。
あっ、起きちゃった?! ……目が覚めちゃったか?! おぉう! これもまた!!
なんて素晴らしい光景……夢だけど、夢じゃなかった。夢だけど──これ絶対夢だよな。
だって、俺が横になってる横で、って、駄洒落言っとるばわいかぁ! ……いや、こんなの駄洒落でもねえよ。
もうダメだ……俺の精神が崩壊しかかっている。落ち着け! 俺。
だって、俺が寝ている横で、一糸纏わぬ妖艶な美女が……身体を弄り出したんだから、これを興奮するなって言う方が無理でしょうがっ!
ありっ!? でも、えっちな感じで一人で、ナニしてるわけじゃないの?
なんだか、愛おしそうに撫でてる……だけなのかな?!
リンパマッサージか!? えげつないほど美麗なねえちゃんだからなぁ。毎朝の美容のために、とか?
いやいや、これはこれで……よろしいんじゃないですか? ……素晴らしいんじゃないでしょうか?
うぅ、俺の左手の指先──そのほんのちょっと先のところで繰り広げられる夢のような饗宴だ。
輝くような透明感と、つるんとした張りのある肌──中の果汁が溢れ出てきたようなしっとりと汗ばんだ、ちょっとだけ淫靡で……なんとも男心をそそる情景が……そこに。
あぁ~、触れてしまいたい……でも、触ったが最後。この宴は確実に終了してしまう──なんというジレンマ。
おぉ、神よ! なんと惨い、酷い仕打ちを。
いぃ~わ、これっすげぇーいいわぁ! 俺の夢も、たまにはいい仕事するもんだ。褒めて遣わす!!
えぇ~っ、そんな風に身体を捻ったら……やったぁ……俺が理想とする究極の下乳が描くライン……完璧だっ!
しかし、なんちゅう、えっちな腰の反り返り具合なんだ。バレリーナさんなの? それとも、フィギュアスケーターさん?
弓なりになった細い腰のくびれと、輝くほど艶やかなお尻との間で、腰肉のかさなりが相まって、超絶にエロい。
常々、柔軟性の高い女性と致したら、相当えっちな絵になるとは想像していたけど、想像以上だ。いや、想像を絶するほどだ。震えがくるほどに。
動画を見てるのとは全く違った生の……なまの……臨場感?! まさか、これほどとは? 唾が止め処なく溢れてくる。
俺はこの子と出逢うために生まれてきた──そう確信した。もうそうとしか思えない。
あれっ!? やっぱ俺って、あっちの世界で死んだんでねえの?
まっ、いっか! こんな良いものを拝めるのなら、死んで、むしろ正解だ。
ほんじゃま、じっくり最後まで楽しむとしよう。
「なにをそんなに楽しもうって言うの?」
「……」
「今更、寝たふりしたって、む、だ、よ! えいっ!!」
そ……そんな……そんな格好で、はしゃぐと……ぱいおつが……ふるえるぱいおつが……ぷるるんって……大変なことに。
はぁん、またしても桃源郷を見た、観た、視たっ! あぁ、もう死んでもいいかもぉ~っ!
やっぱ、桃源郷は桃だったぁぁ……ほんのり先っちょがピンク色の……。
でも、本当は診てみてぇ。触診してぇぇ。
「ばぁか!」
いや、そうやって後ろを向いたって、剥いたままだから……ほら……そこにも大きな桃がふたつ。
きれいな肌……透き通るような……シミ一つ無い……生まれたてみたいなのに……これでもかと言わんばかりの神懸かったほど見事な、大人の曲線美だ!
あれっ!? 背中に……ちっちゃな羽……薄羽蜉蝣のような……透明な薄緑色の羽……あぁ、あれはスプライトの……。
「あぁ、なんてことだ……スプライトのやつ、この超絶美天使さまに押しつぶされて、お亡くなりになっていたなんて!」
「はぁ~ん?! あんた、なに言ってんの?!」
「あれっ!? なんか、まだスプライトの声が聞こえる! あぁ、まだ霊が近くにいるんだね、成仏しろよ。なんまいだぶ、なんまいだぶ……」
「あんたの目、腐ってんの?」
「ありっ?! どなた様ですか? 真っ裸で恥じらいもなく、人様のベッドの上で身体を弄ってた痴女さんは?」
「あんたぁ、分かってて言ってるんでしょ!」
うん、そうなんです。この痴女さんは、スプライトを背中で潰した張本人……ではなく、正にそのスプライト、ご本人様のようなんです。でも、なんで?!
「おまっ、どした、それ?」
「言語中枢まで逝かれたの? ……まあ、あれよ」
「あれって、なんだよ?」
「うふふ……分からないの?」
「食べ過……ごめんなさい! えっと、手品……でっかくなっちゃった、ってやつじゃないから……う~ん……おおきくなあれ、おおきくなあれ……勃起……ごふっ」
「真面目に……ねっ!」
分かんねえよ。まったく……でも、ラッキー! 桃も素腿も……モモのうち。
「ヒントはこれこれ」
頭を両手の指先で、かわいらしく指し示す大きな大きなスプライト姉さん。うはっ、もろ見え。見るべきとこありすぎて、目が足らん。あぁ、そっちか!
姉さん、事件です。
ぴんっときました! ケモミミ。
はぁ~、そうですかぁ。やっと分かりました。
「ずばり、コスプレ痴女……ぶふぅっ」
渾身の蹴りが俺の腹に炸裂したのよりも、気になるものが丸見え……になる瞬間……激しくぶれた視界……くそっ! もうちょっとだったのに。惜しかった。
「いやぁ、いろいろ堪能させてくれてありがとう! 同伴契約成立かよ」
「『ありがとう! 同伴契約』だなんて……いいわよ、そんなの! もう夫婦(?)みたいなもんじゃない……えへへ」
ありっ!? そっち? そっち喜んでるの? 俺は良いもの見せてくれて、魅せてくれてありがとうって言ったつもりだったんだけど……まっ、いっか! 喜んでるなら。
「ところで、目のやり場に困るんですけど……さすがに」
「きゃっ!」
遅い! 遅すぎるよ。スプライトさん!!




