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71話 いつでもそんなに近くに居るの?

 海上で精霊さん達を確保し、地上まで戻ってきた頃には、今日最初に出逢であった風の精霊さんの魔力がだいぶ減っている感じがした。


 最初のうちは飛べるということにはしゃいでしまったせいで、無茶をさせてしまったのだろう。


 それにしても、飛翔ひしょうには相当な魔力を消費するみたいだな。


 これは長距離移動向きではなく、あくまでも緊急回避用と考えておいた方が良いかもしれない。


 上空を飛んでいるときに墜落ついらくとか勘弁してほしいもの。


 たとえ海上であったとしても、上空から落下すれば、水面だって、コンクリートと変わらないという話だからね。


 今の俺なら、どこへ落下したとしても、問題なく生きていられそうだけど、ここでたがを外すのはよろしくない。


 どうにも、リスクを際限なく無視するようになってしまう気がしてならないから。


 この飛翔魔法【ブラスト・エイヴィエーション】は、緊急避難として使用する程度に留めよう。


 まあ、どちらにしても、今回は町の中まで空を飛んで帰るわけにもいかないわけだから、のんびり歩いて帰るしかないけどね。


『今日はありがとな! 貴重な体験させてもらって』


『うん! ふふ。喜んでもらえると思ってた。空は気持ちいいからねぇ』


 そうだった。空は風妖精の支配領域だもんな。


『ところで、風妖精シルフ様を連れて歩いていると目立ちすぎるんじゃない?』


『人族の町で、って、こと? そりゃあ、目立つんじゃない。まあ、あたしが見せようとしない限り、姿が見えたりはしないんだけど。それでも、一応、目で追っかけてくる気配はあるから、朧気おぼろげくらいには見えてるのかもね。あたしの声はどうも聞こえてないみたいだったけど』


 声は聞こえないのかぁ……だとすると、町中ではスプライトにはあまり口では話しかけたりしないように注意した方がいいかもな。


 スプライトに心を読まれるぐらいなら、なんてことはないけど、世間様に不審者扱いされるのはちょっと避けたい。なにせ勇者と離れた今となっては、庇ってくれそうな人もいないわけだし。


 それでなくとも、なにかと不審なうわさが立って、もしも異世界人だと知られれば、犯人に仕立て上げられて吊るし上げにうのは目に見えてるから……人なんて、大抵そんなもんだから。


 町の人にとっては、とにかく犯人さえ捕まれば、それで安心して日常生活に戻れる──そういう心理が働くはずだものな。


 敵対するとしても、今なら勇者の一人や二人なんてどうということはないけど、さすがに仲良くなったアリエルとは戦いたくはないから。


 第一、魔王路線なんて、俺のがらじゃない。


 それよりも、気になってるのは、こっちだ。


『ちょっと確認させて! いつでもそんなに近くに居るの? 着替えとか、トイレのときとかも』


『ば、ばか! そんな趣味ないもん。変態、ふんっ!!』


 ははは、まあ、これで一安心だ。これで安心して過ごせる。


 なにせスプライトも背丈こそちっこいものの、スタイルは良さそうだから、気にもなるんだよ。


 小さいせいなのか、妖精だからなのかはわからないけど、肌感はだかんのきめの細かさなんか、聖樹様とためを張ると言っても、過言ではないくらいに。


 目の前を美しいフォルムのフィギュアが飛んで、話しかけてくるわけだから、こちらとしても内心落ち着かない。


 こういうことだけはあんまりスプライトにさとられると、面倒くさいことになりそうだから、今は全力で心を防御してるつもりなんだけど……なんか無駄だったみたいだな。


『ふふふの、ふ』


 ほんと俺のITフィー▽ド、しっかり仕事しろよな!


 びびりなんだから、いくら不死身であっても、精神的に死んじゃうぞ。


 ダダ漏れ感を悲観して歩いていると、門前にもう辿たどり着いてしまった。


 メダリオンを見やすい位置に取り出して、何気なく門を通過したのだが、やはり今回も出るときと同様、簡単に町の中に入ることができた。


 ちょっと緊張してたのに、なんか拍子抜けだ。


 あっと、そういえば、リュタンちゃんにお礼を言いに行かなきゃな。


 アリエルに渡した袋があんなにも喜ばれるとは思ってなかったし、なんだかんだで、あの雑貨屋のおやじが仕入れたプラスチック製容器だって、役に立ったわけだから、ついでに礼の一つでも言ってやるかな。


 リュタンちゃんのかわゆい顔を見ていやされようと思い立って、雑貨屋方面に足を向ける。


 しばらくすると、なんかの行列ができているのが目に入ってきた。


 へえ、こっちの世界でも行列なんてあるんだな。初めて見た。


 それにしても、なんの大行列だ?


 あれっ!? 交差点の角の先まで続いてるのか!?


 いったい、どこまで……って、ありゃ、あの雑貨屋か?! はて? なんか話題の新製品でも発売されたのか?


 うっ、なんか嫌だなぁ。こんな異世界に来てまで、並ぶの……帰ろっかな?


 いや、まあ、店の中をちょっくらのぞいて、リュタンちゃんと目が合ったら、手ぐらい振ってから帰るとするか! うん、そうしよう。


 しかし、なんの行列なんだろうね? こりゃ。


「なあ、なあ、この行列って、なに?」


 おっ! おにいさん、いいタイミングで、いい事訊いてくれた。うん、そうだよね。みんなもそう思うよね。だって、これほどの行列だもの。


「この店にいる半妖精に昨日触ったやつがいるんだってよ」


「ま、まじかよ!? あのリュタンだろ。いいなぁ」


「でな、逃げない小妖精という噂を聞いて、皆並んでんだよ」


「俺も並ぼう」


「今から並んだんじゃ、今日中には無理だろうけどな、へへへ……もうすぐ俺の番だ」


 ありゃあ、まじか! 原因は俺か!? 俺なのか?


 これはどっちだ? 怒られるやつか? それとも喜ばれるやつか?


「お前、そこのお前だよ! ちょっと中に入ってこいや」


 あ、やっべぇ! みつかっちまった。店主のやつに……どうする? 逃げるか。


 いや、なんかここで逃げると、並んでるやつらに目をつけられそう。


 訳も分からず、悪人認定されるのはまずい。


 とりあえず、店先まで出てきた店主の前まで、素知らぬ顔して近づいていくことにした。


「はっはっは、商売繁盛はんじょうで結構、結構」


「ああ、お前のお蔭だよ。ありがとな。あれから噂を聞きつけた奴らが来ること来ること。最初は何も買わずに帰ろうとした奴とか、混雑さばくのにも苦労したけどな。ほらっ! 今はこんな感じだ」


「ふーん。それで、リュタンちゃんにさわれるようになったの?」


「……誰も……」


「意味ねえじゃん! ふ~ん、それじゃ、この行列もいずれけちまうな」


 そこで店主が小声になって、相談があると耳打ちしてきた。


 店主に引っ張られて、行列からちょっと距離を置く。


 俺に「定期的に店に顔を出して、リュタンと触れ合っているところを見せつけてほしい」のだとか。


「できれば、毎回変装して、同一人物だとわからないようにしてくれ」だとよ。


「おまえ、それって詐欺さぎじゃねえのか?」


「ば、馬鹿! しーっ、しーっ。商売人相手に冗談でもそんなこと口にすんじゃねえよっ!!」


 いや、結局、おめえが一番騒いで注目集めてんじゃんか……それに、やっぱ内容も詐欺くせえし。


「じゃあ、今回だけ……一回だけでもいいから、一生のお願い!」


 要らねえよ! おっさんの「一生のお願い」なんて。


 でも、リュタンちゃんに会いに来たわけだし、今回だけはいいか? 詐欺の片棒かつぐみたいでしっくりこねえが。


「仕方ねえな。今回だけだぞ!」


「ありがてえ! 恩に着るよ」


 ささ、どうぞと、店主に中へ入るよう、丁重に勧められた。


 当然、順番を飛ばされたと思った客が文句を言ってきたが、店主が対応してくれているので、知らん顔して中に入る。



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