7話 偏見はやっぱ怖かった
そう、ファンタジー小説やアニメなどで【エルフ】と呼ばれる耳の長い人たちが、すぐ目の前にいる。
本物!? いや、まさか。
しかし、ハリウッドの特殊メイクにしても良くできているなぁ。
一番近くで、こちらに剣先を向けつつ、話しかけてきている一際背の高いやつがリーダー格のようだ。
それにしても、すごくリアル──メイクの皮膚部分があんなにも自然に動くものなのか?
ハリウッドの技術どころの騒ぎじゃないだろ。
しかも、言葉が違う……はずなのに、ほんの僅かなタイムラグで、相手がまるで日本語を話しているかのように意味がはっきりと伝わってくる。
なに!? この違和感……。
超能力!? 異世界とでもいうのだろうか?
相手の言わんとすることはわかったが、こちらの言いたいことが伝わるのか……急に不安になってきた。
話しかけてきている者以外は、少し離れたところで弓に矢をつがえたまま、今にもこちらを射ると言わんばかりの様子なので、なおさらだ。
かなり警戒されている。
不用意に動いたり、誤解されそうな言動は慎んだ方がいいかもしれない。
こちらの言葉が伝われば、だが……。
それにしても、皆若い。それに、顔ちっさ!
あれほどまでの美貌で、凛とした佇まい──頭身バランスからすると、普通じゃあり得ないほどの頭の小ささなのに、それでいて全体としての完璧な調和はお見事としか言いようがない。
まさに容姿端麗を絵に描いたような美しさだ。
これが異世界転生! いや、俺の場合は異世界転移の方かな?
しかし、こんな綺麗な女の人たちに、こぞって睨まれているのは、まじで怖い……。
そう、なぜか男が一人もいないのだ。
誰も彼もが超絶美形すぎて、どう見ても女性にしか見えないもの。
──と、惚けている内に、あちらさんは言葉が通じていないのに痺れを切らしたようだ。
原始人でも見るかのように、明らかに蔑んだ表情を浮かべている。
周りから弓で狙われつつも、リーダー格の人物がついてくるようにと、あご先で伝えてきた。
ここで返事を返すのが一番当たり障りないはずと判断し、勇気を振り絞って、声を出してみる。
「承知しました」
エルフたちにざわめきが走った。
「お、お前、喋れたのか?」
「ええ、わたしの言葉が通じるか不安だったもので……なかなか喋り出す勇気が湧かなくて、すみませんでした。ちゃんと誤解なく、意味が通じてますでしょうか?」
「う~む、なにやら、口の動きが変な感じだが……あぁ、意味ははっきりと分かるぞ」
気を失い、気がついた時には森の中に迷い込んでいたという事情を説明し、保護を願い出てみる。
正直なところ、連行された後、奴隷にされたり、投獄される可能性もあるので、隙を見て逃げ出そうかとも考えはした。だが、彼女らの身のこなしを見る限り、それはどうにも難しそうというか、ほぼ無理そうだったので、仕方がない。
幸いにして、あちらさんにしても、聖樹様と仰られる、なにやら物凄く偉い人らしい御方の指示で、【エルフの郷】こと、彼女らが暮らしている集落に連れて帰るように指示を受けているそうだ。
通常であれば、俺みたいな迷い込んだ人は、森の外に追いやられるらしいのだが、今回に限っては、例外なのだとか。
それよりもだ。やはり、彼女らはエルフだった!
最近、なにかと無気力気味になっていた俺であっても、ファンタジーだけは別物……大好物だ。
いやがうえにも、興奮が高まってくるぅ!
この人たちは自分らのことを「ウッドエルフ」と呼んでいるようだ。
ウッドエルフさん達に話しかける際に、「エルフさん」と呼んだら、酷く怒られた。
物凄い怒鳴り声で「エルフ様と言いなさい!」と叱ってきたので、すげえ上から目線じゃんかと思っていたら……勘違いでした。
うん、どうやらエルフとウッドエルフは違う種族らしい。
ウッドエルフさん達にとっても、エルフは別格な存在なんだって。
そう、俺を連れ帰れと命じた──偉い偉い聖樹様が当のエルフ様というわけだ。
【エルフ】は純粋な妖精であって、ウッドエルフとは一線を画す存在らしい。
同じ妖精の系譜ではあっても、今となってはエルフとは異なる種族となったのが、【ウッドエルフ】らしいのだ。
自分たちが崇めるエルフ様を自分たちウッドエルフと混同して呼ばれることが「何よりも許せない! だから、人族はっ!!」と何度も何度も説教された。
その後も「人族は……、人族は……」と、どうやらなにか遺恨がありそうな雰囲気を漂わせてきたので、すかさず丁重に謝り倒してみると……やっとのことで許しを得ることができた。
なにやら宗教的な危険な臭いを感じ取ったので、ここは平謝りしかないと判断し、素早く聖樹様を褒め称えたことが正解だったようだ。
「うむ、人族にしては感心感心!」と、それまでの緊迫した雰囲気はどこへやら……。
突然のことに、いささか戸惑いはしたものの、なんとかやり過ごすことができて、ほっとしている。
未知の文化圏では、決して触れてはならない禁忌があることを身に染みて感じる一幕だった。
幸いにも大問題にならなかったので、良い教訓になったと捉えておこう。
そんなこんなで、ウッドエルフさんの案内のもと、里を目指して、森の中を進んでいく。
こちらの歩みに合わせてくれているせいか、ゆっくりとした足取りなので、少し話をすることもできた。
これまでの森の中で見た光景を俺が話して聞かせていくと、それを聞いていたウッドエルフさん達に、なにやら驚きが伝わっていったような……。
最初に話しかけてきたウッドエルフの隊長さんによると、この森に人族──そう、ウッドエルフたちは俺たち人間を人族と呼ぶみたいだ──が迷い込むと、通常なら森に掛けられた【幻影結界】が働いて、森の外へ外へと誘導され、いつの間にやら森から抜け出てしまうのだそうだ。
「このような警備上の秘密は普通、人族には決して話さないのだが」と注釈してきた上で、「どうやらお前は森に導かれた者で間違いないようだからな」と打ち明けられた。
おぉ、あるんだぁ! 結界。それに加えて、導かれし者……あぁ、なんて心地好い響きだ。
来たよ! ファンタジーRPG世界の王道が。




