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69話 随分海岸近くにあるんだな

 さてと、これからは、なんでも一人でこなしていかなきゃな。


 とりあえず、まずは本題となる精霊の調査からだ。


 町の外を少しまわって調べてみるか?


 それじゃ、ひとまず部屋に戻って、準備、準備っと。


 おっ、そうだ! 宿の受付の人になんか知らないか訊いてみよう。


 あの人は、なかなかに的確な仕事をしてくれたからな。


 それに、いつもこうして受付に立ってくれているのも助かる。こうやってすぐにけるからね。


「すみません。実は──」


「はて、光の玉のようなものですか? そうですねぇ……う~む……あぁ、そうそう、ありましたね、そんなことも。えっと、あくまでもお客さんから聞いた話になりますので、真偽のほどは不確かになりますが、それでもよろしいですか?」


「いえ、なんでも結構ですので」


「分かりました。それでは──」


 宿の受付もとい、宿屋のご主人によれば、この町を交易路にしている行商人が話してくれたエピソードが記憶の片隅に残っていたそうだ。


 その行商人は毎年、この町から東西方向に延びる街道を行き来しながら、その途中の町や村などで、土地土地の稀少な商品を売り買いすることを生業なりわいにしているらしい。


 ただし、一カ所のみ、その行商人の出身地である村にだけは、交易ルートから外れることになるが、昔からの縁で、必ずその年の最後に立ち寄ることにしているのだという。


 その村は、ここから北東の方角にある。村までは、この町から街道を北に進んで二泊ほど野営し、その先で東へと続く枝道に入るルートとなるそうだ。


 行商人の話では、北へ向かう街道の途中で野営をしている際、必ずと言っていいほど、ぼんやりとした光の粒が北の方角から南の方角へゆっくりと漂ってくるのに出くわすのだとか。


 それは夜にならないと分からないほど、小さくて淡い光の粒なのだそうだが、海の方へ点々と続いているのを見たという話を漁師からも聴いたことがあるそうだ。


 うん、いいんじゃない。思いがけず、良い情報が得られた。


 お礼を告げると、さりげなく明日の朝に宿泊期限が切れることを告げられる。今後の宿泊予定をどうするか訊ねられたので、迷わず宿泊延長をお願いしておいた。うん、いいタイミングだ。


 部屋に戻って、町の外へ出る準備を整える。


 とは言っても、クローゼットの中に置きっぱなしにしておいた物をちょっと装備し直すだけだけど。


 さて、出発しようかね。


 町の門を抜けるとき、メダリオンをしっかり見せようとしたら、さっさと通れ的に軽くあしらわれてしまった。


 アリエルが止められたのは、やはり馬で疾走しっそうしようとしたのが怪しまれただけみたい。案の定、余程怪しげな奴でもない限り、出るときには、ほぼ素通り状態だ。


 さてと、精霊さんは世界樹のある【虹色にじいろの園】を目指して集まってきているとのことだった。どうやら少なくともその一派に、今回の目撃情報にあった北の方からやってきているのがあるようだな。


 となると、北へ向かう街道と世界樹を結んだエリアが最有力候補か。


 話に聞いた北への街道は、このクリークビルの町よりかは、やや東寄りらしい。


 それに、その先の海での目撃情報もあることだし、その辺を考慮しても、もう少し東側に移動してから探してみるのが順当なところだろう。


 今は世界樹のほぼ北側にいるわけだから、とりあえず世界樹がぴったり真南に見える位置までちょっくら移動しようか。


 念のためと思って、腕時計の文字盤を頼りに方位を再確認してみると、やはりクリークビルの町は世界樹のほぼ北にあるようだが、それでも気持ちやや西寄りな感じがした。


 街を出て、真っ直ぐ東へ移動していたら、あっという間に海岸へ出てしまった。これ以上は東に行けない。


 それでも幸い、海岸線は幾分湾曲しながら、北東方向へ続いている。その海岸線に沿って、砂浜に入る手前の足場がしっかりした地面のところをできるだけ東に向かうことにする。


 ほどなくして、世界樹の真北とおぼしき地点に到着した。


 海岸線沿いに来たので、南側には透き通るような青い海が広がっていて、非常に見晴らしがいい。


 前に一度試したように、水魔法で水製のレンズを作って、世界樹の方を眺めてみた。


 相変わらずの威容を誇る世界樹……ではなく、海上付近を中心に、手前から順繰りに……って、おいおい、いるねえ。そこかしこに。


 海面付近に漂う精霊が帯状に点在しているのが確認できた。


 この帯を真横から見たとしても、おそらくは気付けなかっただろう。それに、北側の遮蔽物しゃへいぶつの多い陸上を見ても、なかなかこうはっきりとした分布を把握はあくできなかったはずだ。


 運の悪い俺にしては、なんとも良いタイミングで貴重な情報が得られたのではなかろうか? そのお陰で、こんないいポイントを見つけられた。


 う~ん、望遠だから、ぱっと見には分かりにくいけど、一つの精霊に焦点を当て続けていると、しばらくすると、少しだけぼやけてくる感がある。


 相当ゆっくりではあるけど、南北どちらかに移動しているのは確かなようだな。


 まあ、焦点調整の感じからして、ほぼ間違いなく、南の世界樹へ向かっていると見てよさそうだ。


 しっかし、こうやって見ると、世界樹って、ほんと随分海岸近くにあるんだな。


 まあ、とりあえず、これで目指すべき方角が決まったな。


 今後は北にある町や村伝いに旅をすることになりそうだ。次の集落までどれくらいの距離があるかも知らんけど。


 今回はちょっと外に出て探す程度の軽い気持ちだったのに、思いの外、情報的には結構な収穫があった。


 ただ、力を使いきって、そろそろ昇天してしまいそうな水精霊さんとのお別れを考えると、できれば、こうしてツキがあるうちに、他の精霊さんと接触して、追従をお願いしておきたいところなんだけど……。


 あぁーあ、今、空を飛べたら、精霊さんなんて捕まえ放題なんだけどなぁ。



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