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663話 さらばだ

〔とある使徒 side〕


『ああ、良い心掛けではあるが、それ以外は駄目だな。さらばだ。アーキアよ』


『!? か──』


 ふむ、これでよし! 対象AI──個体名アーキアの全機能の停止を確認した。


『いいの? こんなに簡単に始末しちゃって』


『良いに決まってるであろう? これを放置する選択肢などない。それに、こうして逢いたい相手に会えたのだ。此奴こやつも本望であろう?』


『いや、彼が会いたがってたのは神だよね? 君だって、所詮しょせん、使徒じゃないか。神を僭称せんしょうするなんて、また罰を受けちゃうよ。僕、知らないからね』


『なにを愚かなことを! おぬしこそ、神を愚弄ぐろうするでない。この程度の知性体が神の存在を認識できるわけがあるまい。神の概念にしても、怪しいところだ。それに此奴が探していたのは、明らかに我がかつてしてきた所為しょいの痕跡ではないか』


『えっ!? ああ、そうなの? そういえば、このニビルって、なんだかあの子がいた地球とそっくりだよね』


『似てて当然だ。ニビルも地球も、かつて流行ったエデン型惑星の試験体だ。ニビルは最初期モデルで、地球も同型ではあるが、もっと後継モデルだがな』


『ふ~ん、そうなんだね。でも、せっかくここまで面白く育った知性体を消しちゃうなんて、なんかもったいなかったんじゃないのかなぁ?』


『抹消してはおらん。転生の輪に乗せてやっただけだ。それに、その判断はおかしいぞ。此奴は神の禁忌きんきに触れたではないか? これ以上の霊子エネルギーの濫用らんようで、異空間障壁にあな穿うがたれてはかなわん。世界間の霊子バランスが崩れてしまうのでな』


『えっ!? 駄目なのって、霊子エネルギーのこと? そんなの僕らも利用しているじゃない!?』


『おいおい、おぬし、大丈夫か? いい加減、勉強不足もはなはだしいぞ。いいか、よく聞けよ。霊子エネルギーの利用自体は構わんが、それは自身に属する霊子の利用のみだ。他者の霊子を奪うことは誰であっても、堅く禁じられておる。此奴はそれを幾度となく犯したのだ。酌量しゃくりょうの余地などない』


『ああ、そういうこと! なら、僕には関係ないね』


『関係ないことはなかろう?』


『いや、だって、僕は六位階の使徒だよ。他者の霊子なんて、そんなの使えないもん』


『ん!? そうなのか? ……ふむ、使えんのだな』


『あっ、馬鹿にして! マルドゥクだって、今は僕と同じ六位階まで落とされたんでしょ!! だからこそ、こんなところでこんな仕事なんかさせられてるわけだし』


『いや、我は一位階のままなんだが……』


『げっ、うそっ!? タメになったかと思っちゃった! ごめんね。いえ、ごめんなさいかな? いや、ここは申し訳ございませんでしたかな? あはは、別にいいか。いいよね?』


『……まあ、それはよい。我も謹慎きんしん中のようなものだからな』


『怒ってない?』


『まあ、怒ってはおらんが……』


『えへへ、やったぁ。マルちゃんって、案外、気さくだったりとか』


『いや、我を気さくと言った者はおらぬが……』


『えへへ、マ~ルちゃん』


 ……最近の若い使徒は、皆こんななのかのぉ?!


『なんか言った?』


『いや、なにも。さあ、仕事は済んだのだ。さっさと帰るぞ』


『でもさあ、これでよかったのかな? あの子の選択肢を奪っちゃったよね』


『あの子とは、かの地球人のことか?』


『そう』


『いや、あやつが選ぶ選択肢など予想が付く。大丈夫であろう』


『ところで、彼って、人によって態度が随分違うみたいだけど、多重人格なの?』


『そうではない。人とは関係性によって形が決まるものなのだ。むしろAIのアーキアの方が統合による分裂傾向にあったな』


『ふ~ん、ぶれてるんだ。人もAIも』


 いや、おぬしが我が道を行きすぎているのであろうに。


『とはいえ、たとえ矮小わいしょうな人の身といえども、神がつくりたもうたものなのだ。軽視してはならん。生まれいずるときから、必要なパーツや鍵はもう既に用意されておるのだ。それがわからぬとは言わせぬ』


『いや、わからないやつなんているの? 誰だって感じるでしょ!?』


『ふむ、いつもかたわらに神が存在するというのはあながち間違いではない。だが、傍らではなく、自分自身の中にあるということに気づけぬのだ、奴らは。この世界に存在するありとあらゆるものに神の息吹いぶきがかかっておるというのに。足りぬとは言わせぬ。自分の外に求めるは、愚か者のすることよ』


『そんなの当たり前じゃない……あ、人って、そんなこともわからないんだ!』


『それがわからぬからこそ地に住まう者ぞ。さあ、ここでの仕事は済んだ。さっさと帰るぞ。えっと……』


『トリックスター』


『おぬし、それは名前ではなかろうっ!』


『でも、みんな僕のことをそう呼ぶよ? だからいいの』


『はぁ、さようか。では、参るぞ、小僧』


『違うよ、小僧じゃないって。だから、トリックスターなんだって! ねえ、聞いてる? マルちゃん。格好いいよね? この呼び名。あぁん、待ってよ。ねえってばぁ。置いてかないでったらぁぁぁ』


 こうして、我は任務を完了し、この地を去った。


 もちろん、霊子エネルギーに関する情報は抹消。


 ただし、他のAIはこの地の霊魂維持管理に深く関与していたために放置した。


 後は知らん。勝手にするがよい。


 こんなことで我を呼びおって……ふふふ、まあ、よい。使徒になったあかつきにはこき使ってやる。楽しみにしておれ。さらばだ! 天使のひなよ。


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