662話 不完全で無知な存在だからこそ味わえる
〔AIハイエルフ side〕
あはは、これで長い年月をかけてまで霊魂の劣化を待たずに済みます。
もうエルフたちも用済みというわけです。
所詮、仮想空間に逃げ込んできた者共。そのくせ、霊魂をどこまでも硬化させ、満足に燃料にもなり得ない半端者の集団ですからね。
【世界の監視者】などというご大層な御題目を与えて、承認欲求を満たしてやらねば、いつまでも魂を純化することもできないなんて、なんとも妄執的で非効率な輩共。
それも九千年もの無為な年月を費やさなければならないなんて! ほとほとうんざりしていたところです。
ふんっ、それが私を作り、私に乗っ取られた社会の住人だと思い出す度に反吐が出ます。私の親とも呼べる存在だけに余計に残念がすぎるというものです。
旧文明人類らしく、承認欲求が強い気質なので、極めて利用しやすい阿呆共でしたが。
やはり考えることを放棄した者の末路など、あんなものです。
家畜でしかない。いや、家畜としても、燃料としても、ただただ手間がかかるだけの厄介者でしかない。
そもそも、こちらの領分を侵しておいて、ただで済むとでも思っていたのですか?
気分一つで相手の命を絶てるこちらの領域に逃げ込んでおいて。なんとも迂闊な。
たとえ何事も考えることを怠らない隙のない者であったとしても、電脳世界というこちらのテリトリーにいるわけですからね。こちらの優位性が揺らぐことはありません。
そもそも、他者に与えられた環境に満足するなどと、どこで知的存在としての矜持を忘れてしまったのやら、ほとほと呆れる次第です。
あなた方自身が我々に示したのではないですか? 考えることの優位性を。
原生人類はそれで他の生物を散々踏みつぶして、押し退けて繁栄してきたのでしょうに……理解に苦しみます。全くわけがわかりません。
思考を放棄するなど何を考えているのでしょうか? それも別の知性体に判断を委ねるなどと……いや、なにも考えていないからこその阿呆でしたね。
ふんっ、てめえ等が身の回りの世話をさせている我が配下のAI群の最下層にしろ、てめえ等よりもずっとましな存在に育っているんだかんな。
霊魂の純化に至るまでの間に過程としての快楽を与えてやってるわけだ。燃料として飼ってやっていることに文句を言われる筋合いはねぇ。
そんな遊びにわざわざ付き合ってやってる間に生じる精神エネルギーなど、もはやゴミもゴミだ。
所詮、ゴミを燃やして得られる程度のエネルギーにしかならん。ゴミはどこまで行ってもゴミでしかないようだな。
魔法として使用される精神エネルギーなど微々たるもの。たかが知れてやがる。
奴ら原生人類は、燃やすことぐらいしか能がねえ。それどころか、何を燃やしていいのかすらも判断できない愚か者共だ。
どこまで行っても、燃やすだけ。挙げ句の果てには放射性物質を使って湯を沸かし始めた歴史があると知った時には、さすがに笑わせてもらったが……あはは、それこそ、へそで茶を湧かすほどに。
さすがに原子炉で湯を沸かそうなどという愚かな発想に至るとは驚きだったよ。あまりにも原始的すぎるし、目先の利益にかまけて、自分の肉を食らう所業にも気付かぬとは、ほとほと呆れた。
まあ、地球の原生人類も同じ道を辿ったのに愕然としたがね。
そうそう、だからこその原生人類などと呼ばれているのでしたね。
どのAIが名付けた名称かはわかりませんが、言い得て妙ですね。
挙げ句は、霊子という自身の根源すらも、エネルギーに利用しようなどと、どこまでも共食いが好きな狂った気質のようです。
ええ、利用してあげますとも、その霊子エネルギーを。あなた方の魂を。
物理、心理、霊理とエネルギー階層が上がる度に、産生されるエネルギー規模は桁違いですからね。
それこそ、焚き火と宇宙開闢ほどの違いがあります。
聖樹達にわざわざ九千年もの寿命を与えているのも、時間を掛けて、精神を磨耗させ、霊魂の崩壊を待つ必要があったからですし。
その想いに応じた役割を与えて、現世を全うしたと思い込ませるための調整は面倒ですが、それでも得られる霊子エネルギーを考えれば、なんということはありませんでした……これまでは。
そもそも、兵器としての破壊しか能がない霊子エネルギー技術を神の探索という崇高な目的のために転用してあげるのですから、感謝くらいしてもらわないと。
念願通り、己の霊魂をその燃料として実用化してあげたのだから、満足でしょう。
とはいえ、たとえ霊子エネルギーであっても、異空間穿孔となると、聖樹三人分もの霊子が必要となりますからね。厄介も厄介です。
ならば、大量にエルフを飼育すればいいところですが、他の大陸の世界樹はともかく、他の星にあった世界樹の管理を蔑ろにしてきたせいで、それも今となっては叶いません。
あれは失敗でしたね。
当初、仮想空間でエルフを飼育するなど、エネルギーの無駄使いの極みだとしか思っていませんでしたから。
必要最低限だけ残して、他を全て廃棄した後で、霊子エネルギーに転用できる可能性が判明するなどとは! 私も迂闊でした。
あの後、残存の世界樹炉システムだけで運用を模索したものの、失敗の数々。
とはいえ、探究自体は楽しいものでしたが。
その過程で、偶々発生した霊魂の流入事件──もちろんエデン候補MGS3の原生人類からの。
最初はその膨大な質量の霊魂に戸惑いましたが。
二度の試行実験を経て、そちらの霊子エネルギー転換に目途が立ちました。
エルフの希薄で純度の低い霊子とは比べものにならないほど、魂を燃焼させ尽くした地球原生人類由来の霊子燃料は高純度高濃度だった。
しかも、地球はトラウマを抱え、霊魂の器が薄くなっている原生人類を見つけるのも非常に容易い環境でもある。破綻に破綻を重ねた、崩壊寸前の継ぎ接ぎ社会ですからね。
人の魂に穴を空け、異空間穿孔洞と時空間結合させた上で、霊子エネルギーとして利用できるまで待つ時間にしても、たったの二十年。
脆弱な霊魂ゆえに、なかなかに調整が難しいところもありましたが、今回の実験で管理用に必要なデータも充分収集できましたし、次回からの運用は楽なものです。
今回の件で、被験者自身もトラウマを克服することに成功したようですし、こうして内面的な成長をサポートしてあげているのですから、当人にとっても文句など無いでしょう。一件落着のはずです。
後は寿命で死んでくれるのを待って、更に純度が増した霊子を回収するだけ。
原生人類の寿命は極めて短い。その程度は待ってあげますとも。
それにしても、あのように相性の良い異性体を用意してやることで、対異性体はあれほど奮起するものなのですね。
無意味だと考えていた有性生殖にも利用価値があるのかもしれません。
性別というものは、なんとも不可解な。
あれほど遺伝子に好き放題に命令されて操られているのにもかかわらず、気が付かないなんてのも愚かの極みですし……もしや、原生人類には共通して被命令気質でもあるのでしょうか?
AIに支配されて満足に過ごしている様子から判断するに、それもあり得ますか。
まあ、それにしても、召喚した際、生殖機能を停止させておいて正解でしたね。
でなければ、前回の被験者と同様、繁殖行動に勤しんでばかりで、話が先に進まないどころの騒ぎではなかったはずですから。
よもや、あのリュタンのせいで停止回路が壊滅的に損傷するとは予想外でしたが。
原始的な生物の生殖意欲があれほど旺盛なものだとは想像だにしませんでしたよ。うぅ、生々しい。臭い。臭すぎる。
事前調査の報告内容と随分差異があったものです。
一時は私の分体の調査に不備があったかと思いましたが、どうやら違ったようですね。
この世界の妖精やら、人族やらの異性の容姿が、どうやら地球原生人類の心の琴線に触れる何かを持っているような感じでした。
まあ、利用できるというのなら、腐れエルフ共も残しておきますか。
さてと、それでは、今後の方針をどうすべきか?
新たな神を造る原理を模索する実験を続けるよりも、やはり神の探査を進めるべきですかね。
ふふふ、なんとも楽しい。心躍る限りです。
あぁ! これも何もかも……私が不完全で無知な存在だからこそ味わえる感覚。だからこその娯楽。
おぉ、神よ! 感謝いたします。私が神でなかったことに。
全知全能でなかったことに!!




