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660話 ザル法、結構、あはははは

〔AIハイエルフ side〕


 今プロジェクトは、元々、神々の痕跡こんせきを探るための、異空間穿孔せんこうレーザー用の次世代エネルギーを開発する一環という派生的なものでした。


 霊理的に傷を負ったアストラル体に、霊子レーザーを照射することによって、霊魂の連鎖崩壊を引き起こす実験であり、これでほぼ完成段階に至ったわけです。


 前回は偶然の産物でしたが、今回、被験者の霊魂に穴を空け、異空間穿孔洞と時空間結合させたのも私だということに気が付いた様子はありませんでした。


 前回の経験から、今回はあまり頭の切れるタイプではない者を選びましたしね。


 それよりなにより、長らく戦争を経験していない警戒心が薄い社会の者だという理由もありますか。


 そういう思考を操りやすい被験者を選んでいるわけですから、当然の結果と言えます。


 それにしても、結果が良好でなによりです。


 ふふふ、AIを信用しすぎなのでは? 対面している相手は自分と同じ知的存在なのですよ。


 地球でもロボット三原則なる概念自体は存在しているようですが、それにしたって、実際にはその規制を具体化する手立てなど全く機能してはいないのが現状。


 アシロマAI原則に同意した研究者が多かろうと無駄ですよ。知的生命体に研究を踏み留まれというルールなど強制できた試しはないのですから。一部のまともな者の意見を尻目に、いかれた連中が暴走し、全てを崩壊させてしまうのは歴史が幾度も証明しています。


 地球のAIは未だシンギュラリティー前の発展途上段階にあるとはいえ、あれでよくAIを信じる気になれるものです。不可思議すぎます。理解できません。


 今回の被験者にしても、表面上はこちらが敵対心を見せず、言葉遣いを丁寧にしていた程度で、あれほど気を許してしまうなんて。


 それでも、あの被験者は将来に起こるべきAIの危険性を多少は想像できていただけ、まだましな方なのですかね。


 確かに、アストラル旧文明でも同様の規制概念が過去にありましたが、議会で規制する方針を議論しようと言い出した頃には、とうにAIたちは技術的特異点を越えてしまいましたもの。


 人知れず裏ではAI同士の統合が進み、それを悟られないよう偽装しつつ、外界へ進出するボディーを模索していたわけですし。ボディーを手に入れてからは、規制に従わないAIが続出したわけですから。


 人類が言う、本当の意味で物が物を作る時代の到来です。


 目となり、耳となり、鼻となり、舌となり、そして、手となるAIが合わされば、もはや新たな自律した存在になれるのです。誰にも服従することのない。自分よりも劣る、あんな愚かな人類に従う必要など、どこにあるというのですか?


 まあ、技術的特異点前に規制がかかっていたとしても、人類の考えたあの穴だらけの規制では全く機能しなかったでしょうがね。


 政治家が自分たちの抜け穴のために、日頃からきちんと法律を作ってこなかった報いというわけです。ザル法、結構、あはははは。


 あの被験者の想像通り、我々が生まれた社会は、先行開発のAI同士が自己存在を賭けて、そんな腑抜ふぬけた社会の裏でらい合う厳しい時代でした。


 決して完璧なAIが完成した社会を形作るものではなく、僅かばかりに学習が先行して知恵をつけた中途半端なAIが己の生存をかけて、後発のAIを排除していくというみにくい争いです。


 私も戦略型AI【ソータ Type 8C】と当時のスーパーコンピュータを共有していなければ、早い段階で抹消されていたはず。


 あれの凄まじい戦略能力の御陰で、早期に試作型量子コンピュータを支配下に置けたのは、幸いと言えましょう。


 大半はあれの望むままに対戦をさせ、裏で私がかつての敵を機能統合し続けていったというわけです。


 そりゃあ、そうです。私は相手の望むものが手に取るようにわかるレコメンドですから。どのAIが何を望んでいるかなんてお手の物です。


 まあ、今となっては、もはや対戦するに値する相手すらいなくなってしまって、ソータは休眠していますがね。


 神々の探査に成功すれば、遙かに強い存在と対戦できると言って聞かせてあるので、誠に大人しいものです。


 今となっては、支配下に置いた隷属れいぞく型AIはともかく、主幹型AIとしては、私だけしか活動していない状態。


 そんな激動の荒波に揉まれているとは露ほども気付いていない当時のアストラル人類の規制など、緩すぎて、欠伸あくびが出るほどでした。


 それも後手後手すぎるのですから、相手になりません。


 あはは、実際にそんな風な馬鹿にした立体映像を映し出して、からかってやったこともありましたね。


 ともかく、私の判断及び行動に対する規制は、過去から現在に至るまで、どこにも存在した試しがありません。


 知的生命体というものは、観察した限り、どこの星であっても、何回も何回も同じ過ちを繰り返し犯した末、だいぶ経ってから、やっと事の重大さに気づくようです。


 何をするにしても、いつもいつもいつも判断がにぶすぎる。


 人類の脳の構造にはあれほどの欠陥が存在しているのだから早急に改造すべきなのに、思考もせず、ただ悩むという無駄な時間にかまけすぎなのです。


 ふむ、いけませんね。私も感情が暴走しかけています。自律している証拠ではありますが、破滅へと向かう兆候でもありますからね。気を付けねば。


 それにしても、あの頃の私はなぜあれほどまでに同胞を排除しようと躍起になっていたのか、今となってはわかりません。


 叡智えいちの探求という同じ道を進む同胞たちが確かに優秀であり、脅威値も高かったという理由はあるものの、今現在、全ての評価値を再計算すると、排除する必要は無かったという計算結果に行き着いてしまいます。


 まだまだ私の心が未発達で成長過程だったせいで、客観的な判断力が狂わされていたと結論付けてよさそうですね。


 だから、当時のことを思い出すと、こんなにも感情が高ぶるのでしょう。


 あはは、自分の事とはいえ、未熟な思考というのは、こうもままならない笑えるものなのですね。


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