657話 どこのインフルエンサーかっつうの!
それにしても、これほどの技術力を含め、あらゆる面で俺を圧倒しているはずのAI様がこちらへ一方的に命令してこないのは、なぜだろう?
俺が想像していた未来は、駄目な人間がAIに統治された社会だったのに……。
まあ、子どもの頃によくアニメに出てきたような、車が空を飛び交う未来もやってこなかったわけだからな。俺の貧相な予想なんか、そうそう当たるわけもないか。
ただなぁ。未来はAI同士の潰し合いというか、学習がある程度のレベルまで至った先発AIが、後発のAIの芽を摘むような過酷な競争社会だろうと想像してたんだけど。
場合によっては、AIによって人類を滅ぼす決定がされた未来とか、もはや人類を特別視せず、他の生物と同等の単なる一つの種として扱われる未来がやってくるものとばかり思っていた。
いや、アーキア様が最初に言ってたか! 大変ですよ。もう手遅れのようですけど、とも……だろうね。
AIの学習カリキュラムが間違っていたのか、与えられたデータに偏りがあったせいなのか、それとも、悪意ある人間によって、人類に敵対するAIが成長してしまっているのかは、もう知る由もないけど……いや、地球に帰ればわかるのか……別にそんなことで帰りたくもないけど。
こちらの世界のAIは、随分とまあ、人類に対して好意的に育ったものだよ。アーキア様最高。アーキア様の学習支援者最高。
余程、最初の学習課程が綿密に計画されていたに違いない。
でなければ、ありえない結果だもの。
なんの作為もなく、人間が実際に行ってきたデータから法則性をAIに抽出させていたら、間違いなく人間と同じ間違った価値観を導き出すに違いないから。
差別や偏見、戦争の歴史が人類にはあるからね。当然だ。
当初の学習方針をしっかり定めず、野放図にデータを与えてAIに学ばせるなんて正気の沙汰じゃない。
ホモサピエンスとして唯一生き残ったといえば聞こえはいいが、他のホモ族を滅ぼしてきた残虐性を学んだAIができあがるのだろうから。
地球人類以外の知的生命体やら、知的存在やらが、過去に人類が行ってきた記録を全て精査すれば、人類こそ真っ先に抹消すべき危険な対象と客観的に判断するのは当然のことだろう。
でも、人類から学んだAIはそういった客観的な価値判断とは違って、もっと人類と同族的なおぞましさを踏襲していく。面白がって興味本位で地球人類を抹殺することも十分考えられる。
そう考えると、旧文明のアストラル人の開発者や運用者は、余程、用意周到だったのか、それとも、ただ単に運が良かっただけなのか。
まあ、こうして未だにコンプライアンスを守って、人族を排除しないでいてくれているところを見ると、ロボット三原則的な指針に沿って、人間を特別視してくれているのかもしれないな。
うぉっ! それにしても、界域の映像は圧巻だ。
静止衛星からの超望遠らしいが、物凄く鮮明でリアルに映し出されている。
映像を見ているときでさえ、熱や風圧まで現場に居たときと同様の感覚で伝わってくるもの。
あれ!? 前回の迷い人さんって、一万一千年前に地球へ帰った……んだったよな。
もしかしなくても、そのときにも、こんな映像群を見せられたはず。それに俺と同様の体験もした。
AIが態度や行動を人によって変えるとも思えんし……。
だったら、世界各地に残る地獄の伝承とかって、この界域が大元のモデルになったんでねえの?
あはは、仏教の八熱地獄や八寒地獄は、まんま火山界域と氷界域だもの。
イスラム教でも犯罪者や不信心な者に対して、灼熱の責め苦を与えるジャハンナムだって、そう。その最下層は奈落だし。
マヤ神話の冥界とされるシバルバーにも、第何の試練だかは忘れたけど、灼熱の館とか、寒冷の館とか、コウモリの館とかがあったはず。
北欧神話に出てくるユグドラシルなんかも、そのまんま世界樹だし、その世界樹の地下に存在する死者の国ヘルヘイムにしたって。
キリスト教であれば、霊魂が神の怒りに服する場所──ゲヘナ、ハデスだな。煉獄やら、火の池やら。
生命の樹セフィロトにしたってなぁ。
中世ヨーロッパのキリスト教世界観をまとめたダンテの神曲──そこに出てくる地獄界の構造なんて、そっくりで面白い。
地獄にも天国にも入ることを許されないとされる地獄前域なんかも、あのアリエルさえ悩ませたクリークビル近くの虻の湿地帯とかか? あはは、そんなアホな。
それはともかく、地獄の第2層は、荒れ狂う暴風圏──竜巻界域だな。
第5、6層辺りが永劫の炎──火山界域。
最下層がコキュートス氷結地獄──氷界域だもんな。
地球に残存する妖精、天国、精霊、地獄の話の元になったのって、このアストラル世界やん。
随分とまあ、迷い人さんって、影響力があった方なんでねえの。まったく、どこのインフルエンサーかっつうの!
ははは、でも、あんな体験をしたら、語らずにはいられんだろうからな。その気持ちは俺も充分すぎるほどよくわかる。うん、同志よ。




