655話 霊湧落ができた経緯
当初の計画では、その孔から小型ポッドで収集データを回収する予定であったが、孔に生じたアストラル世界からエデン世界への流れが予想以上に強く、回収の目処が立たない。
データ転送の試みもことごとく失敗し、計画が頓挫してしまう。
更なる検討を重ねた結果、最終的には虚空の特定箇所にもう一つの孔を空けて、各世界間の流れを緩和しつつ、逆にエデン世界からアストラル世界への流れを生じさせる計画が実施される。
しかし、またもや、ここでも問題……いや、大問題が発生する。
その際にも使用されていた試験運用型世界樹炉が突然制御を離れ、暴走……挙げ句の果てには本来空けるべきであった虚空内だけではなく、世界樹のあった空間に孔が生じてしまう。
この星の北極圏にあったその世界樹は、当然のことながら、消失した。
そう、それが【霊湧落】ができた経緯だ。
大事故が発生し、その後の被害対応も大がかりだったものの、この孔を通じて無事に小型ポッドを回収することに成功したという。
つうか、そんな状況であっても、調査を優先させているのが、自身の目的に忠実なAIらしくもあるがな……。
しかし、残念ながら、肝心の神々の所在に関しては杳として知れず、不明との調査報告であったそうだが。
それでも、もし万が一にも神々が帰来される可能性にかけて、引き続き、探査船はエデンの静止衛星軌道上に駐留し、調査を継続中だという。
そう、このエデンとは地球のことだ。
それもこの重大な事故というのは一万年前の出来事らしい。
地球文明が発達してきた現在、作戦はフェーズⅡへ移行、○◇国籍の静止衛星に擬態したり、ステルス機能を使って、その存在を知られないようにしているそうだ。
もしや地球でのUFO騒ぎのいくつかは、アーキア様の分体が操作した探査機が原因だったかもしれない。
さて、こうした予期せぬ事故で生じた霊湧落であったが、しばらくすると、更なる予期せぬ事態に見舞われる。
極地周辺で、これまで存在しなかった種類の生物が次々と報告されたと。
原因を探ると、すぐにアストラルの生命体由来とは異なる霊魂が、既存のニビル生物に取り憑いて変異させていることが判明する。
その元を辿れば、それは霊湧落から流出してきていることもすぐに突き止められた。
アーキア様からしたら、空間の孔の先がどこに繋がっているかは既知であるからね。
分体との情報交換の結果、この流入してきている霊魂がエデン型霊魂であることも確認された。
とはいえ、エデン世界由来の霊魂も、アストラル世界由来の霊魂も、霊質的にはアストラル体と呼ばれる同一のものだそうだ。
世界樹システムは、アストラル型霊魂の回収利用目的で最適化された仕様になってはいるものの、それでも設定を変更さえすれば、理論上はエデン型霊魂を浄化することもできなくはないらしい。
ただし、世界樹システムの処理能力の限界に加え、そこから派生する様々な諸問題もあって、やる意味がなかったようだ。
そこで考え出されたのが、エデン型霊魂の悪影響から、アストラル世界の生物を守るために、世界樹の浄化システムとほぼ同等の効果を持たせた三層に渡る【界域】の設置だ。
ただ、そこで問題となったのが、この惑星ニビルで生活する現世人族の生活圏が北極圏近くまで広がっていたことらしい。
住人の生活環境を確保するためにも、今以上の界域拡大はできないそうだ。
一応、これ以上は界域付近に人系種族が近づかないように、監視者も配置してあるとのこと。
そう、俺とアリエルが海を渡るときに遭遇したあのでっかいやつだ。
あの【リヴァイアサン】もアーキア様の管理下にあるらしい。
それを聞いただけでも、アーキア様と敵対することがいかに無意味であるかがわかる。
さて、この事故というのは、正確には11,017年前の出来事であり、そのときにも、エデン型霊魂がどこの誰由来かを追跡調査した結果、地球人の一人の男と一致することが判明したそうだ。
俺の場合と同様、アーキア様の分体が接触し、事情を説明した上で、アストラル世界へ召喚し、事に当たってもらったという話だ。
当初は原因など露ほども知れず、霊魂本体である本人との接触で、いくらかは霊魂断片が吸収され、被害が減少するのではないかとの予測の元、連れてきたのが実状らしい。
ありとあらゆる試行錯誤の結果、なんとか霊湧落の消失に漕ぎ着けることができたそうだ。
と言っても、その時分には世界樹にかなり近い地域まで死ねない魔物たちがゾンビのように横行していた酷い環境にまで陥っていた。
そう、あれほど肉体がぐずぐずになっていたから、放っておけば、いずれ朽ち果てると思いきや、魔物はそもそもがアンデッド化に進んでいるんだとか……。
俺も一時は魔物化した動物を殺すのがかわいそうになって、隔離だけしておけばいいんじゃないかと思ってた時期もあるけど、やらなくて正解だった。余計なことをしなくて本当によかったよ。
というわけで、神々を探査中であったアーキア様の分体と俺が偶々会って、勧誘されたというのではない。そう、まさに今回の騒動の張本人だからだ。
俺がこの世界に呼ばれたのは、この通り、必然だったというわけだ。迷い人ではなかった。




