653話 これが本当の神対応というやつだね
そう、炭素体を基本とするユニットではあるそうなのだが、地球人類の肉体ではないそうだ。
アストラル世界のこの星──【ニビル】という名であるこの惑星──に、移送するに当たって、防疫措置として、元の肉体を運んでくる危険は冒せなかったらしい。
やはり実際の肉体には各種ウィルスや細菌などが無数に付着及び共生してもいるため、仮に消毒したとしても、安易に持ち込むことはできないのだとか。当然だな。
地球の既存の記録を参照するにしても、まだまだ未知の脅威も多くて不十分であるし、ウィルスの各種変異などに対応するよりも、ずっと効率的な方法を選んだというわけだ。
それに、そもそも、移送の際に使用された輸送ポッドの積載容量を越えていたこともあって、霊魂・精神体と遺伝子データ及び記憶データのみが、この惑星ニビルに輸送されてきたらしい。
そう、俺の肉体は、むしろ、アンドロイドに近く、この世界で【素体】と呼ばれているものだそうだ。
ユタンちゃんが故郷を脱出した時から使用しているメンテナンス用素体と同じだと喜んでいたら、全然違うものだと否定された。
俺のは非常に特殊なもので、現在、稼働中の機体はこの一機のみだそうだ。
でも、素体仲間だもんね。いいんだもん、そんな細かいことは。ふふふ、ユタンちゃんと一緒。
なんかこの話をしているとき、ちょいちょいアーキア様の表情が怯んだ気がしたのは気のせいということにしておこう。
それはともかく、だから、俺が転移してきたと思っていたのは、俺の全くの勘違いだった。この世界に病原菌を持ち込んでしまった挙げ句、今頃、訪れた町で疫病が蔓延しているのではないかなんていう心配など杞憂であったわけだ。
ちゃんとアーキア様が対処済みでした。
『そんなに心配していたのなら、今の下界の様子を見せてあげましょう』とアーキア様が言うと、どうやったのか、頭の中に直接映像が流れ込んできた──エルフの郷から始まって、クリークビル、エピスコ、ハイネス、ファイエット、サンテフラ、ティエンヌ、ヘイダ村、キオカック、王都アウラーテ・エルウクスール、ジェンネトリヒトと、そこで生活する人々の元気な様子だ。
そして、ティエンヌ近くで野菜をくれた腰痛おじさんとか、アザラシの毛皮をアリエルにくれた狩人おじさんの様子まで見せてくれて、この通り、無事だと証明してくれた。
あぁ、よかった。ほっとした。これで安心だ。
つうか、ずっと監視してたのね。
俺がこの世界で辿った経路は全て把握されているみたいだ。
あっぶねえ……途中でえっちなこととかしてなくて、本当によかった。
全部記録に残ってそうだもんね。
まあ、そりゃあ、そうだよ。異世界からの異物だもの。
病原体は持ち込んでいないにしても、この世界になんらかの悪影響を与えていないか、悪さしていないかを監視するのは当然のことだ。
おっと、そうそう、監視と言えば、世界の監視者たるエルフだよね。そのエルフの棲まうのが世界樹。
うん、そう。ここがそうなんだって。
ただし、正確には世界樹の上空とでも言えばいいのかな。
この世界樹、実のところ、三層構造になっているそうだよ。
俺らが普段目にしていたのは、最下層の樹木帯だ。
あれは確か……【妖精の森】を抜けて、クリークビルに向かっている道中だったかな? 一度だけ【水反鏡】、いや、あの頃はまだ単なる水魔法の簡易レンズで、像がややぼやけた状態だったけど……世界樹を望遠で眺めたことがあったっけ。
あのときにも生じた違和感。
スカイツリーを遙かに超えている高さとそれ以上に幹の太さに驚いた記憶と共に、ずっと上の方へ目をやるに連れ、線のように極端に細くなった部分がうっすらと目に入っていたのだ。
あのときは確か、アリエルに急かされて、その後すっかり忘れ去ってしまっていたけれど……。
そう、ここは世界樹上空の静止衛星軌道上に浮かぶ軌道エレベータ内の施設だそうだ。
我々の世界でも構想されていた軌道エレベータと同じで、元々はこの星の赤道付近の洋上に建設されたものらしい。
気象条件に応じて、海上を移動できるタイプとして開発された軌道エレベータであったそうだが、気候変動を完全に管理できるようになってからは、この世界樹に固定されたという話だった。
超面白い! こんな細かな内容まで、アーキア様自らが直接、俺に説明してくれるなんて大丈夫なのかな? 世界的な時間の損失じゃないのかな? なんて思っていると、マルチタスクで処理しているから、なんの問題もないそうだよ。「聞きたいことがあれば、好きなだけ質問なさい」と仰ってもらえた。
ふふふ、俺の相手など片手間にもならないといった感じなのだろう。さすがはシンギュラリティーを越えたAI──まじ神だ。これが本当の神対応というやつだね。




