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651話 アリエル、本番いくぞ!

 深い青色をたたえる冷たい氷の奈落にもかかわらず、妙に甘ったるく暖かな雰囲気に包まれている。


 アリエルへ魔素を補充する方法も、こうして呆気あっけなく無事に見つかり、引き続き、二人の魔力を同期共鳴させる練習を積んでいった。


 アリエルの嬌声きょうせいに、俺までえっちな気分になってくるのを必死に抑えつつも、至極真面目に取り組んでいく。


 俺の魔素量が膨大だったせいもあってか、これまでの魔力変換がいかに雑であったかを先ほどから実感している。


 アリエルに魔素を補充したのは、俺にとっても無駄ではなかった。


 魔力の共鳴度がはるかに増したのだ。


 ごく少量の魔素で面白いように魔力が抽出されていく。


 えっと……つまり、魔力変換効率が圧倒的に上がったということだ。


 そもそも、魔素を魔力に変換する際、独特の振動を伴う。


 魔術などの魔法陣を使用した魔力変換の場合では、その振動が魔力回路内で抑えられてしまうようだが、魔法使いが魔素から直接的に魔力変換を行う際には、これまでも何かが震えている感覚はあった。


 それが今回のことで、エーテル体が振動しているということがわかったのだ。


 そういう意味では、元の世界でエーテルを媒質ばいしつと呼んだ気持ちもわからなくはない。いや、やっぱり違うな。


 もしかすると、この振動が気持ちの良さに繋がっているのかもしれない。


 心を震わすバイブってわけだ。


 アリエルがこの快感のとりこにならなければいいのだけれど……そのうち、天国が見えたとか言い出すんじゃねえだろうな?


 あまりにも熱心に取り組んでいるアリエルを見ていると、またちょっと心配になってきた。


 中毒症状とか出たら、やだぞ。


 いや、悪くはないんだけど、悪くはないんだけど、ちょっと違う。俺の好みとだいぶ違ってきちゃう。


 あわわ、早く合体魔法を完了させて、官能世界から解放してやらないと……俺好みのアリエルが消え去りかねない……。


 だが、当の俺はと言えば、慣れの問題なのか、なんの変化もない。


 とはいえ、こんなにもアリエルのあえぎ声を聞き続けていると、変な気にもなってくるが……。


 情念を抑えるのが辛いだけだ。さっきから生唾を飲み込んでばかりいるし。


 そんなアリエルが捉えている感覚がどんなものなのかは正直わからないが、俺にも徐々に気持ちの変化があった。


 凄く軽いのだ……心が。


 アリエルと一緒に居ると、どんなときでも、気が楽になる感覚は前からあったのだが、こうして魔力を共鳴させているときは、その比ではない。まるで違う。別世界だ。


 俺からすると、ごくごく小さなアリエルのアストラル体というエーテルタンクに、お互い半分ずつのエーテルを注いで満たし、そこから二人に共通する波長で魔力を導き出していくと、きれいに共振する感じなのだ。それこそ、小鳥がさえずるように美しく共鳴する──その優しげな波がなんとも心地好い。


 軽く、美しく、優しく。


 二人の心が、足し算ではなく、掛け算というか、もっとこう指数関数的に累増して満たされていく感覚とでも言ったらいいのだろうか?


 充足感に……安心感に……幸福感に満たされていく。


 あ、わかっちゃったかも……そういうことだったのか!


 人の想いがどうしてこうも他の人に影響を与えてしまうのか不思議でしょうがなかったけど……そういうことなのか!?


 まさかクロウリーの六芒星ろくぼうせいってのは、二人でまわすことにこそ意味があったなんて。


 そのことで初めて到達する秘密が得られた……いや、これ以上は考えちゃ駄目だ。


 今思えば、前任の迷い人が残してくれたヒントのお陰かもな。でも、アリエルを導いてくれたのは誰なんだろう?


 んっ! あれ!? いつの間にか、悪霊の流出が止まってるじゃんか! 今までずっと霊湧落から溢れ出てくる悪霊が、なんだか裂傷からみ出す血液のようにも見えてたのに……。


 今だ! うん、これならいけそうだ。


「アリエル、本番いくぞ!」


「ほ、本番!? え、ちょっ……う、うん。わかった。もう残された時間もなさそうだもんな」


「ああ、でも、緊張する必要はないぞ。つうか、魔力が共鳴しているときに緊張のしようもないだろうからな。一つずつ手順を踏んでやってみよう」


「うん、よろしくな」


「ああ、こっちもよろしくな。いい声で喘ぎまくれよ」


「ば、ばかぁ!」


「ははは、じゃあ、まずは虚空に広がっている浄化精霊に対して、広範囲に【アストラル・スパイダーウェブ】を張って、根刮ねこそぎ地上へ引きずり降ろしてしまうぞ。いいか?」


「わかった。感覚を合わせてみる」


『『【アストラル・スパイダーウェブ】』』


 うんうん、いい感じに広がった。今までずっと旅をしてきた全域を覆い尽くせているな。


『よし、このまま一気にここまで引き下ろすぞ』


『へっ、楽勝、ぅだねぇ……ぁ、ぁぁ……くぅ、ふぅん』


『ああ、その調子で頼む』


 またせ我慢しやがって……同調率が更に上がってきたせいか……。


 対して、俺は……非常に楽だな。


 だって、アリエルの声を頼りにすれば、同調具合が丸わかりだから。喘ぎ声のかわいさが増す方向に調節してやればいい。


 とはいえ、アリエルだって、いつまでも耐えきれないかもしれないからな。さっさと済ませないと。


 しっかし、こんなにも楽な感覚だとはなぁ。肩の荷が下りていく気分だ。


 なんでだろう? エーテル体の振動を通して、アリエルが体験した人生の苦労のあれやこれやも、俺のエーテルの中に流れ込んできているみたいだから、もっとずっと心に負担を感じてもいいはずなのに……二人で共通の荷物を背負っている感覚のせいか、なんだか心が軽い。まるで重さを感じない。


 あはは、こんなにも清々すがすがしいのに、アリエルはなんで、あんなにも気持ち良さそうに感じまくってるのかな? なんか不思議。


 男と女の生理の違いが関係しているとかか?! それとも、地球人とアストラル人の違いとかかな?


 まあ、その辺の分析は後回しだ。


 アリエルが絶頂に達して、気を失う前に終わらせないと。


『次は、精霊を捕らえたまま、【アストラル・スパイダーウェブ】を霊湧落のサイズに合わせて包み込む感じで変形させていくぞ。せーので』


『……あぁ……ん』


 返事だか、喘ぎ声だか、もうわかんねえな。早く完成させちまおう。


『せーの!』


 よし! 巧いぞ。ここまでは上手くいったな。


 アリエルも息も絶え絶えで、今にも果てそうな感じだけど、よくがんばってくれた。


 世界が平和にでもなったら、ご褒美くれてやるからな。


 でも、これが一番のご褒美だとか言い出さないことを願うばかりだ。


 あはは、そうだった! これは世界救済の大仕事でもあったな。すっかりぽんと忘れとったわ。


 そもそもがマッチポンプでしかないからなぁ。


 さぁて、精霊の方はどうだ? う~ん、すぐにはくっついてくれないか……。


 霊湧落が傷口だとすると、浄化精霊が傷口を塞ぐ血小板のように働いてくれるのではと考えていたんだけど、そんなに甘くはないか?


 いや、なんか……霊湧落が細くなってないか!?


 おぉっ! 氷の壁との間の隙間が大きくなってきてる……やったぁ!! やったぞ。


 ほわぁ、なんかいい感じ。うっ、ちょっと眠くなってくるなぁ。


 おぉ、心が……この満たされている充足感……守られている安心感……温かい幸福感に包まれていく。


 あぁ、世界が眩しいくらいに輝きを増した。


 あ、なんか俺も……ぞくぞくしてきちまったぞ。


 あれ!? もしかして、今までの俺って、感覚が麻痺まひしてただけとかか?! 霊魂に負った傷のせいで。


 うっひゃあ、これからこの穴が狭まるに従って、アリエルみたいに快感の波が押し寄せてくるんじゃねえだろうな?!


 いや、まずいぞ、それは。


 性的感覚が男の数倍から百倍とも言われている女のアリエルがあんなにもよがってるんだぞ。


 男の俺でそんなのに耐えられるのか?


 あぁ、アリエルの前で、みっともなく果てたくない。


 早く、早く修復し終わってくれぇぇーーっ!


 そう心の中で叫びつつ、目の前でどんどん小さくなっていく霊湧落に、ほっとしながらも、苦悶は続く。


 いつの間にか地面に倒れし、横目で霊湧落が消失するところを確かに確認した。やったぁ、勝った! 快感に打ち勝ったぞ──と思ったと同時に、突然、重力が増したように感じた──あぁ、懐かしい。子どもの頃、よく夢で見た世界ごと身体が押しつぶされるような感覚に似ている。


 あぁ、薄く、薄く、引き延ばされていく……重力の幕が下りると、意識がぐりんと一瞬にして遠のいていた──


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