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650話 アリエルは喜んでいる

「その顔は絶対にえっちなことを考えてる」なんて、アリエルの指摘を受けながらも、互いの魔素から引き出した魔力を同じ波長に同調変換させていく。


 だが、これがなかなかに難しい。


 アリエルは、元々が火属性に適性があるため、魔素を魔力に変換する際、どうしても火属性にかたよりやすくなっていた。


 こうなると、全属性魔法を行使するのが途端に難しくなってしまう。


 だから、アリエルの目の前で何度も他属性の魔力を見せて、その感覚を味わわせてみたのだが、そうそう適性を開発してやることはできなかった。


 いや、アリエルはがんばった。


 正直、見ているこっちに力がもってしまうほど、懸命に取り組んでくれていたのだが、現実はそんなに甘くはないらしい。


 数日後、あの元気一杯のアリエルがしょぼくれてしまう。


 このままではどうにもなりそうにないと見かねた俺が手を出した。


 いや、えっちなことではなくてだな……でも、なんか、えっちな感じになってしまった。


 いやいや、だからね、指一本触れてないっての!


 アリエルの魔素にちょっと干渉してやって、魔力への属性変換を手助けしてやろうと、そのときなんとなく思い付いただけ。


 結果はこれだ。


 いい感じにあえぎ出した。


 最初は何事かといぶかしんだが、魔素、つまり、エーテル体に触れられるのは相当気持ちがいいことらしい。


 今も恍惚こうこつとした表情を浮かべている。


 さっきまで半開きの口から漏れ出ていた「はぁはぁ」と上がる吐息といき、それに湿り気を帯びたくちびるがどうにもなまめかしかった。


 でも、その甲斐あって、少し落ち着いてくると、魔素の属性変換の感覚がわかったと言い出したのだ──目に本来の力が戻っていた。あぁ、そっか、アリエルって、目力めぢからが強いんだ。昔のトップアイドルたちみたいに。


 だが、今はまだ休憩中だ。


 にまにまと時折見せる嬉しそうな表情が、全属性魔法のコツを掴めたせいなのか、それとも、えっちな感覚に目覚めてしまったせいなのか。ちょっと不安になってくる……開発してしまったか? 別の適性を。


 その後、サポートを何度か繰り返し、アリエルも魔力の属性変換を身につけつつある。


 それでも、一人では安定して全属性魔法を行使するまでには至らなかった。


 まあ、当たり前だな。一日かそこらで魔力変換を自由に操れるようになるくらいなら、ちまたにもっと全属性や複数属性の魔術師があふれているだろうからな。


 でも、アリエルは喜んでいる。


「ま、魔法が使えるようになったぁ! 妖精と契約もしていないのに!?」


 そうなんだ。今まで詠唱による魔術しか使えなかったアリエルが魔法を行使できるようになっていた。


 安定して使えるのは、まだ火魔法だけなんだけど。


 きっちり体内魔素から魔力を引き出す感覚は掴んだらしい。


 なんだかよかった。やっぱり、にまにまと嬉しそうにしていたのは、魔法修得の方だったようだ。俺もほっとしている。


 まあ、えっちに目覚めてくれるのも悪くないが。


 でも、もうちょっと恥じらいの時期が続いてくれる方が俺的には嬉しくもある。


 それはいいとしてだ。


「おいおい、はしゃいで魔素を浪費するのもそれくらいにしろ! 魔素が枯渇こかつしちまうぞ」


「あ……ごめん。もうだいぶ減っちまった。今日はもう無理かも……すまん」


 まあ、仕方ないか。結構、朝から練習し通しだったからな。


 でも、食料の残量を考えると、時間があまり残されていないのも事実だからな。


 なにもせず、魔素の回復を待つのは正直避けたい。


 だいぶ時間を無駄にしちまうからな。


 しかも、アリエルの魔素量だと、こうした感覚に慣れる練習くらいならともかく、実際に全属性魔法の行使ともなると、どの程度維持できるかも微妙なところだ。


 できるだけ練習では魔素の消費を抑えたいんだよなぁ。


 う~む、俺の魔素を補充してみるか?


 契約妖精のスプライトたちは俺の魔素を使えていたわけだから、属性変換前の魔素なら互換性とかありそうだしな。


 ただ彼女たちみたいに魔法線で繋がってるわけじゃないから、上手く充填じゅうてんできるかが問題だ。


 俺のは、なにせ濃いいっつう話だから、試しにちょっとだけな。


「アリエルちょっとこい」


「うっ、悪かったって。そんな怒んなよ」


「はあ!? いや、別に怒ってねえから。これは真剣なときの顔だっての……まったく。魔素補給になるかどうか、ちょっと試したいことがあるから、そこでじっとしててくれないか?」


 なんだ?! 俺って、真剣な顔すると、怒った風に見えるのか? 普段あんまり真剣な顔を見せてねえせいかな。


「う、うん」


 少し集中するために、アリエルと面と向かってから、アリエルのエーテル体に俺の魔素であるエーテルを少しだけ注ぎ込んだ。


 アリエルが突然ふらつく。


 あっと思って、とっさに抱き留め、倒れないようにしっかりと支えた。


 やはり無理があったか!?


 アリエルの身体が小刻みに痙攣けいれんして、ぎゅっと抱きついてきた。


 う~ん、エーテル体的な見た目には何の問題もない……よどみなくきれいに混ざり合った感じなんだけどな。


「な、なに、したの?!」


「いや、俺の魔素をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ分け与えただけなんだけど、辛かったか? ごめんな」


「え!? あ、ほんとだ。魔素が満ち溢れてる……」


「やっぱりか! でも、そんなふらふらするくらい辛いんじゃ駄目だな」


「いや、辛いってわけじゃ……もう一度、魔素が枯渇したら、今の……」


「ああ、心配すんなよ、もうしない。俺も焦りすぎた。ぼちぼちでいこう」


「う、うん……でも、魔素は回復したから。続き、やろ」


 相変わらず、がんばり屋さんなんだな。


 まあ、ちょっとアリエルには負担かもしれないけど、もうちょこっとがんばってもらうか?


 あ! いやいや、駄目だって。こんなこと前にもあっただろ?


 スプライトに対しても、気が付かずにずっと無理させちゃって、あんなことになったんじゃねえか! ここはどんな状態なのかをちゃんと確認しておかないと。


「アリエル、正直なところ、どんな感じなんだ? 相当無理してるんじゃないのか? 今回のように魔力を同期共鳴させる魔法の成否にとって、お互いの信頼関係は大きく関わることだからな。正直に言ってくれ!」


「え!? そうなの? いや、でも、正直にって……」


「わかった。やっぱり知らず知らずの内に、また無理させてたみたいだな。ごめん。ちゃんと休憩しよう」


「あ、いや、ちょっと……ち、違、違うんだって……」


「いや、無理しなくていいから。おまえの身体の方が何よりも大事だ。俺、また危うく失敗するとこだったよ。すまんな。許してくれ」


「うっ、そんなに謝らないでくれ。あ、あたしが恥ずかしくなるじゃん……うぅ……その」


「恥ずかしがる必要なんてないぞ。おまえはがんばってる。凄くがんばってると思う。今までだって、ずっとそうだったものな」


「いや、だから、そうじゃなくて……あのな……ただ、き、気持ち良かっただけなの……」


「あん!? あんだって? 聞こえねえよ」


「だから、おっきな声では言えないことなんだって。は、恥ずかしいだろ?」


「えっ!? なんの話?」


「だ、か、ら、魔素の補充が凄く気持ち良すぎて……その……だから……もお、わかってんだろ! ばか……」


「え!?」


「『え!?』じゃねえよ。白々しらじらしい。ぜってえ、わかった上で、あたしに口で言わせたいくせに。ずるいぞ、そうやって信頼関係を盾にしやがってっ!」


「いや、ごめん。本当に気が付かなかった。じゃあ、身体に問題は無いんだな?」


「え!? ほ、ほんとに……心配してくれてただけなの? うっ、それなのに、あたしは……ごめん。は、恥ずかしぃ……」


「いや、俺こそ、ごめんな。そんな言いにくいこと、言わせちゃって……その……なんだ。どんまい」


「もっと、こう、言い方ってもんがあるだろう!? それじゃあ、余計に恥ずかしくなってくるからぁぁ」


「そうか? 確かに、エーテル体に干渉した時点で、あれほどもだえてたからな。エーテルの補充だって、そういう点を考慮すべきだった。申し訳ない」


「いや、そうやって真面目に分析されるのも辛いから」


「じゃあ、どうしろってんだよ? わかんねえよ」


「もっとこう、優しく気を利かせた感じで……あぁ、もお! 面倒くせえな」


 いやいや、面倒くさいのはおまえだろうが……いや、これは口に出しちゃあかんやつだ。


 まあ、そうだよな。いくら気持ちいいからって、アリエルに恥じらいが無くなっちまったら、そらっやだもんな。


 うん、これでいいんだ。むしろ、これがいい。


「そうだな。恥ずかしい思いさせちゃったのは謝る。でも、そうやって恥じらうアリエルちゃんもめっさかわいいぞ」


「なっ!? なんだよ? いきなり、なに言い出すんだ?!」


「いや、おまえに恥ずかしい思いさせちゃったから、俺も本心暴露して恥ずかしい目に遭おうかと」


「……」


 なんか余計に赤くなって、無言になっちゃった。


「……」


「えへへ、相子あいこだな」


 なんかこっちも、こっぱずかしくなってきちまったよ。


 身体の芯から熱を感じる。アリエルを無性にいとおしく感じていた。



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