648話 こっちの方が落ち着くから好き
魔素から取り出して変換した魔力は、なんらかのエネルギーみたいな感覚はあるんだけど……あれ!? なんか、もやっとした……なんだろう?
ふぅ……それにエーテル体もなぁ。なんじゃそりゃって、感じだ。
別に、エーテルって言っても、化学のジエチルエーテルの略ってわけじゃねえだろうしよ。
ジエチルエーテルも昔は全身麻酔に使われていた時期もあったそうだけど、いろいろと問題もあって、今では使われていないみたいだし。
今だと、有機溶媒としての利用ぐらいなのかな?
ははは、揮発性で爆発するらしいけどな。
いや、違うか。ジエチルエーテルとごっちゃになっちまった。ジエチルエーテルじゃなくて、エーテルの話だった。
エーテルって聞くと、俺みたいなファンタジー好きからすれば、どうしても前の世界でかつて信じられていた概念に登場するエーテルのイメージの方なんだよね。
この世界で謂われるところの四属性の土水火風とよく似た、万物を構成するとされる四大元素の地水火風。
まあ、土属性も地属性も一緒だもんな。
ただ、六芒星の原理を解明してからは、魔法使いの感覚として、風火土水の並びの方がしっくりくるんだけど、それも俺の単なる拘りに過ぎない。
うっ、また話が逸れそうだ。いかんいかん。
これらとは別に、第五の元素とされていたのがエーテルだ。
天体の構成要素とも言われ、光とか熱の波を伝える媒質として、全宇宙を満たす物質、なんて感じで仮想されていた概念だったな。
でも、こちらの世界では聖樹様とスプライトの説明だと、実体のない心や生成された感情がエーテル体を構成するという感じだったっけ。
そんな風に夢中になって考えに耽り、ついつい、ぶつぶつと魔素やらエーテルやらの用語が口を衝いて出ていたらしい。
その呟きを聞いていたアリエルがとんでもないことを言い出した。
「エーテルって、あれな! 魔素の大元」
「え!? エーテルって、魔素なのか?」
「え!? 違うのか?」
「いや、俺が訊いてるんだけど……どういうこと?」
「あたしの感覚からしたら、そうなの。感情の高ぶりを利用してる感じなんかが……。まあ、子どもの頃に読んだ古い絵本に書いてあったから、てっきりそういうものだと思い込んでただけかも……うっ、なんか自信なくなってきた」
いや、言われてみれば、俺にもそんな感覚はあった。
一番最初に魔物に向けてぶっ放したのだって、ユタンちゃんが危ないと思って、感情が暴走して、必死なあまりに魔法にもなっていない単なる魔素だけを放出したものだったもんな。
あれは感情の高ぶりと呼応しただけで魔法ではなかったのに、それでも事後の状況から察するに、かなりの威力があったものだと推測できたし。
そっかぁ。エーテルは魔素か。魔力属性化する前の無属性の魔素だと思うと、なんかすっと腑に落ちた。
魔法や魔術は、魔素──つまり、エーテルを魔力に変換して、使用しているというわけだ。
消費すると無くなってしまうように、魔素は枯渇する。
この世界のエーテルは、媒質ではなく、エネルギー体なんだな。
一晩くらい寝ると、きっちりフル充填されてる感じがするけど……なんでだろう? 睡眠時に生成されてるのか?
「なあ、アリエル。俺とおまえで、魔素の量の差って、どれくらいだと思う?」
「はあ、てめえ、喧嘩売ってんのか?」
「いや、純粋にどのくらいの違いがあるのか知りたかっただけなんだけど。なんで怒ってんの?」
「うっ、そうなのか。ごめん。また馬鹿にされたと勘違いしただけだ。忘れてくれ。そうだなぁ。わかんねえ」
「おいおいっ!」
「仕方ねえだろ、そんなもん。あんたのは途方もないんだよ。少なく見積もっても、あたしの千倍か、万倍か、それ以上なんじゃねえの?」
「そんなに違うのか!?」
「まあ、それくらいは違うだろうな」
「ちなみにアリエルの魔素量って、この世界ではどのくらい? 順位的に」
「あたしだって、元勇者だかんな。それなりだ。人族ならこれでも一応はトップクラスなんだぞ。まあ、スプライトさんとかの妖精種には到底及ばないだろうけどな」
「そっか、あんがと」
「なんか、わかったのか?」
「いや、まだ思案中だ。すまん」
「いや、あたしこそ、こういうことに役に立てなくて、ごめんね」
「なんだよ? 突然、女言葉なんか使いやがって」
「いいだろうが、偶には……変かよ?」
「いや、ちょっと、どきっとするから、不意打ちは止めて」
「へへへ、良いこと聞いた。そっかぁ。そうなのか」
「ふ~ん……」
「ふふふ、なんだ、感心でもしたか?」
「うん、アリエルも女の真似できたんだなと思って」
「てめえ、ぶっ殺すぞ!」
うんうん、俺は正直、こっちの方が落ち着くから好き。
それに、ベッドの中で初めて女の声にさせるギャップは捨てがたいんだよね。ははは。スケベなおじさんでごめんよ。




