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646話 だから、罰が当たったのかな?

 無意味な焦りからは解放されたものの、問題解決には至っていない。


 そもそも、これは何なんだ? まずはそこからだ。


 悪霊が湧き出す穴……。


 悪霊──霊魂の欠片か。それも俺の……。


 そういえば、この世界に来て、一番最初に理解できなかったのも、俺の肉体が希薄と言われたことだっけな。


 同時に、生命の根源となる霊魂やら、実体のない心・生成された感情としての精神体やら、肉体との三位一体説の話を初めて聞かされたのだけど……。そんときにはあまりにも漠然ばくぜんとしすぎていて理解不能だったから、そもそも考える気にもなれなかった。


 その後、羽妖精のときのちびスプライトにも、同じ様なことを言われて、そんとき初めて、俺の霊魂を構成するアストラル体やら、精神の派生物となっているエーテル体が、薄い肉体の中に溢れんばかりに満ち満ちているとも言われたんだ。


 まあ、どちらにしろ、霊魂に関しては、元の世界の知識とはかけ離れすぎていて、考えるきっかけすら掴めないまま、旅の間中、ずるずるとずっと放置せざるを得なかった。


 俺があんなに素敵な妖精……いや、中には変なのもいたけど、大抵は夢のように素晴らしい妖精たちとお近づきになれたのだって、この満ち溢れているアストラル体とエーテル体のお陰らしい。


 精神はともかく、霊魂が溢れ出ている時点で、どう考えても異常事態なんだろうけどな。


 俺の身体の構成が明らかに変なばかりに、あの子たちにも随分と迷惑をかけていた。


 スプライトはずっと苦痛に耐えてきたようだし、いや、他の子たちも同様なのだろう。


 そのことに俺は気付きもしないどころか、面白がって、てっきり気持ちよくあえいでくれてるものだとばかりに、無茶をいていたようだし……。


 最後にはスプライトですらも耐えきれず、あんなことに……あ、もしかして……もしかすると魔法線を介して、俺の霊魂の欠片が流れ込んだのか!


 契約者からの魔素供給路にまぎれて、悪霊が流れ込んだんじゃ、さすがのスプライトだって、対処のしようがなかった……ということか。そりゃ、無防備だったろうから。


 同伴契約までして信用してくれていた俺から害されるとは、つゆとも思わなかっただろうに。


 知らなかったとはいえ、本当に悪いことしちゃってたんだな。あぁ、なんてことを……。


 それに、その巻き添えを食らったファムちゃんにも。


 いや、ファムちゃんは巻き添えとかじゃなかったな。あれは確かに、俺を守ろうとしてくれていた。彼女の意思だ。


 貰い事故じゃないよね?


 ふふふ、ファムちゃんには最後の最後まで愛されていた証だ。そうだ。彼女の意思を否定しちゃ駄目なんだった。


 あーあぁ、でも、不謹慎ふきんしんだよな……。どうしていつもこうなんだろう? だから、罰が当たったのかな?


 あの瞬間、超痛かったもんな。気を失うくらい……。


 あ、れ?! いや、あれは……違うぞ。あれは前にも覚えがある痛みだ。


 全然痛みの程度は段違いだったけど、確かに知ってる感覚……そうだ! あの後、ぼろ小屋の中でも感じたあの痛みだ。


 そうか……あのときの痛みは神からの罰じゃなくて、スプライトとの契約を打ち切られた痛みだったんだ。


 でも、聖樹様があんな状態で、いったい誰が?!


 あの状況で味方には魔術も使えないユタンちゃんしか居なかったはずなのに……。


 やっぱり天罰か?!


 まあ、スプライトもファムちゃんも……えっとぉ、なんだっけ? ……ああ、そうそう! ニンフって、やつだ。神の花嫁の。


 あの至宝とも言える二人をNTRそうになって、さすがに温厚な神でも許せなかったということかもな。


 ありゃ!? んじゃ、ユタンちゃんは誰に同伴契約を解除してもらったんだろ?


 あれあれ!? ……いや、いつの間にか、話がだいぶれちまってたな。


 ふ~む、そういえば、妖精も肉体を持たない存在なんだったよな。


 アストラル体とエーテル体のみの存在か。


 そんな妖精と似通っているから、俺を害のない存在と判断したとも、恐・かっこいいバージョンの聖樹様が言ってたような……そんな軽率な。実際には災厄の大元だったわけだし。


 まあ、あのときに俺を処分してたところで、状況が好転してたとも思えないから、あれはあれで仕方なかったのだろう。正解だったのかもな。


 というか、俺がここできちんとした正解を導き出せないことには、身代わりになってくれたファムちゃんが浮かばれないだろうに。


 うん、がんばろう。


 ぜってえ、なにがなんでも問題を解決して、天国でファムちゃんに許してもらうんだ。


 そして、天国でいちゃいちゃさせてもらおう。むふふ。


 いや、待てよ。最後の最後に人助けをして亡くなったファムちゃんが天国へされるのは当然として、こんだけ動物やら、人に迷惑かけまくった末に死んで、果たして俺が同じところへ行けるのか?!


 神に天罰を与えられたかもしれない俺が……む、無理そうだな。あぁ、なんか急にやる気無くした。途端にやる気がせた。俄然、失せたわぁ。


 でもな……聖樹様との約束だかんな。いや、約束はしてねえけど、仁義だから。人としての。


 これだけは、なにがなんでも、なんとかしないことには駄目なのがわかりきってんだけど、ほんと、どうすりゃいいわけ? こんなの。


 俺の霊魂には穴がぽっかりと空いているわけだよなぁ? 自分で全く見えないところがなんとも歯痒はがゆく、もどかしいところではあるのだけれど……まあ、ユタンちゃんがそんな意味のない嘘を吐くはずもないわけだし。


 でも、俺から崩れ落ちた霊魂の欠片が俺の周りで浮遊しているわけじゃなくて、こんなにも辺鄙へんぴも辺鄙、北極圏のどこぞとも知れない場所にぽっかりどころか、ずどごーんと大きく空いた穴から出てくるって、どういうこと? お、おじさん、わかんない。


 誰か? おせーて!


 まさか俺の霊魂の穴とこの霊湧落が繋がっているわけじゃあるまいし……あれ!?


 ん? なんか今、変なのが見えた気が……。


 げっ、うそ?! あれ? あ、やっぱり! えっ?! どういうこと? なんであんなところから!? わけわかんねえよ、これって、現実なのか? ぎゃっ!!


 いってえ、なんだ!? 急に指先に痛みが走った……ああ、指先が千切ちぎれちまってる。痛いはずだ。


「おい、大変だぞ! 今、あそこから変なのが出てきた。思わず剣で斬っちまったんだけど、なんだろう? 人の指みたいな形してるんだけど……ん!?」


 切れた指のような物を剣先で突き刺したまま、俺の方に持ってきたアリエルと目が合った。


 うん、そうだね。それ、たぶん俺の指な。


 次元の影響かなんかで、突っ込んでた指が時空間的に切断されたのかと勘違いしてたけど……どうやら単にアリエルの剣で斬り落とされただけのようだ。


「あわわ……」


 しかし、「あわわ」とか実際に言ってるやつ、初めてみたわ。


 アリエルが慌てて、右往左往しているのを眺めているうちに、気が付くと指先の断片が消えて、いつの間にやら、俺の指が元通りになっていたけど……。


「おいおい、あんたの身体って、いったいどうなってんだ? 人か? ほんとに人なのか? ひょえーっ、あんたの世界の人族って、そんな半端ない生命力してんのかよ? うひゃあ、あたしと同じ人族とは到底思えない。むしろ、ゴキブリ以上かも……うげぇ、変な想像しちまった」


「いやいや、前の世界の人ってのは、むしろ生命力的にはこの世界の人族に到底及ばないっつうの。こっちに来て、俺が変になっちまっただけ。つうか、俺が聞きたいよ。どうなってんの? 俺の身体は」


「ほんとか? そっかぁ、普通なのか。よかったぁ。人族に似た変な外来生物に侵入されちまったかと、一瞬焦ったぜ。でも、あんたは……」


「なんだよ? 俺と居るのが途端に怖くなっちまったか? そうだよな。夜、ふと気が付くと、身体から変なにょろにょろが伸びて、おまえにぐちょぐちょと襲いかかるかもしれないもんな」


「こえーな、止せよ! そんなこと言うの……ん!? あ」


 うん、そうだね。それが普通の男の生理だ。よく気が付きました。別に触手がいっぱい出てきて、うにうにと気色悪い感じとか、どうとかは言ってないものね。


 ははは、超セクハラだ。まじバッシングされるな、元の世界なら。


 まあ、指を切り落とされた痛みとの相殺そうさいということで、許してくれ。


 だから、そんなまじで顔を赤らめるなって……まじもんで、こっちもムラムラしてきちゃうから。


 頼みますよ、アリエルさん。


 こんなところで、初体験したくないでしょ?


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