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63話 なんですか?これ、おいくらザマスの?

 この子の正体は、【半小妖精リュタン】。


 えっとね……小はそのままの意味で小さいということ……半は実体のある身体を持ったという意味、つまり、小さな妖精なんだけど、体にれることができるという。


 いや、撫でようとすると、するっと──半妖精たちにいつの間にかかわされてしまうのだとか。


 けっ、結局、さわれてねえじゃん! やっぱ、身体無いから触れないんじゃないの?


 そう思って、この子を優しくでようと、頭の上に手の平を乗せると、なんとも柔らかい感触!


 あれ?! 普通に触れるじゃんか……というよりも、なに? この触り心地。すんごくきもちいい!


 撫でてるときは目をつむって、気持ち良さそうにしているし、手を止めると目を開けてなんで止めるのって感じの表情をこちらに向けてくるし、手を離そうとすると愕然がくぜんとした顔になる、その様子の愛らしさといったら……そらもう、生唾なまつばものでっせ。


 チャーミングな表情が目まぐるしく変化する。


 なんですか? これ、おいくらザマスの? と、とち狂いたくなるほどの至極の逸品いっぴんだ……。


 うん、物じゃないけど……分かってるけど、物じゃなきゃ買えないでしょうがっ! ……だから物だと思い込みたいのよ。うん、それくらいなのよさ。


 ううぅ……なんてものを、なんてものを神はつくりたもふたぁ。


「なっ……なんであんたが触れるんだよ!? 俺だって触ったことないのにーーっ!」


 あーっ!? びっくりしたぁ。なんだよ? いきなり。


「あんた、買ってけよな!」


「えっ!? 売ってくれるの?」


 店員がやっぱり売らないと言い出さないように、すかさず、リュタンちゃんをき上げて、金貨の入った袋を取り出す──たった今、俺の限界スピードを超えた。超えましたよ、絶対に。


「ちげぇーよっ! 誰が売るっつったよ!!」


「いや、あんたが……『買ってけよな』って、言った。さっき確かにあんたが言った」


「誰がリュタンを売るかっ! 俺の……俺の大切なリュタンの心をかっさらった責任取って、店の商品をっ、なんか買って、帰れっ、つったんだろうが!!」


 ああ、そういうことね。


「でもよぉ。こんなに一生懸命並べた商品を買っていったら、リュタンちゃん、怒らないのか?」


「いや、むしろ喜ぶぞ。また新しく商品を並べられるしな。俺にしたら同じ商品に見えても、こいつには全く違うものに見えるらしくてな。一個変わるだけでも、全体の配置をがらっと変えてくるんだよ……俺には理解してやれねえが」


「おお、そうなのか! それなら……って、だましてないだろうな? 俺がリュタンちゃんに嫌われるよう仕向けるために」


「てめえ、殺すぞ!」


 いやいや、曲がりなりにも商売人なんだから、客に対してそんな口きいちゃ駄目でしょ……つうか、俺も何も買ってないからまだ客じゃねえけど。


 まあ、うそじゃないのなら買いますよ。買いますとも、リュタンちゃんのために。


「よく見れば、確かに日用品のたぐいが充実しているよな。あれ!? 何だこれ? 全部、ごく普通の日用品じゃねえか! 色はきれいだけど」


「そりゃそうだよ。俺は何一つ、特別なものなんて一切仕入れてねえもの」


 えばって、言うなよ! そんなこと。


「じゃあ、なにか? これって、リュタンちゃんが色付けただけなのか?! ほんとに?」


 リュタンちゃんに警戒されないようおもむろに商品を一つ取り上げて、じっくりとながめてみる。


「確かに!」


 思わず大きな声が出てしまった。


「いや、でも、このタオルにしたって、縫製ほうせいの糸とかきれいに処理されてるし、結構良い品仕入れてるじゃないか! あんた」


「いや、その……それも、あれだ……うん、リュタンだ」


 なんでも、商品の細部に気に入らないところがあると、知らぬ間に直してくれているらしいんだって……おいおい、本当にリュタン様々なんだな。


「このお店に、おまえはらな」


「皆まで言うな……分かってるから、分かっているから……そんなことは」


 食い気味の否定があまりにもあわれで、とりあえず、男物のパンツ、タオル、ハンカチなどを数枚ずつ買って帰ることにした。


「どれが良いの?」とリュタンちゃんに尋ねたら、ずっと首をかしげて悩んだまま固まってしまったので、すぐに謝って、これとこれにするとさっさと決めてしまった──いや、なんだか物凄くかわいそうな気がしちゃったから。


 でも、そこはそれ。リュタンちゃんがしっかり管理しているものだから、どれもきちんとした商品でした。


 店員、いや、実際には店主だったそいつに代金を支払う。ついでに他の商品の値段も尋ねて、相場そうばを確認することも忘れてはいない。


 結論からすると、日本よりも少しだけ物価が安いくらいかな。


 店主に確認すると、手作業で作られているものが多い──にもかかわらず、単価が上がらないのは、こいつが上手に買い叩いているわけではなく、半妖精が作業工程で関わっていることで安価に収まっているためだとか。


 他にも半妖精がいるらしい。


 リュタンちゃんにのみ、お別れの挨拶をして、店を出た。


 宿に帰る道すがら、今日あったことを思い出す。


 魔防士の仕事で、収入の方は目処めどがついたと言えなくもない。


 魔物討伐一回に付き、六万シェルか。


 支出として、金額が一番大きそうなのが、朝飯付きの宿代だろう。


 まあ、贅沢ぜいたくさえ言わなければ、昼飯も宿泊割引の三百シェルで食える。仮に晩飯が少し高くて、せいぜい倍程度だとしても、今の宿なら一日七千シェルでお釣りがくる計算だ。


 一度の収入で、八日分の宿泊と食事代相当がまかなえる。


 諸々の雑費などを考えると、少なくとも一週間に一度くらいは討伐に参加しなければ、いずれ生活できない状況に追い込まれるな。


 とはいえ、切迫感などはまるでないけど。


 まあ、経済的には、なんとかなりそうか。


 これで一安心だ。


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