62話 いや、違うんです。お巡りさん
無事、魔防士登録を終え、貸与された透明な石が飾られた赤銅色の指輪──【呼び出しリング】を填めようとして、アリエルに借りていた連絡用支援アイテムの【共鳴鈴】を返していないことに気づいた。
確か、六個でワンセットだと言っていたはずだから、一つでもなければ、困ることもあるだろう。忘れずに返さなければ。
魔防ギルドでは、かなり詳しく説明してもらえたので、そこそこいい時間になっている。
職務外のことだったのだが、世間話として、受付のおねえさんに、生活雑貨を取り扱っているお店がこの辺にないかと尋ねてみると、快く行きつけの雑貨店を教えてもらえた。
お礼を告げ、別れの挨拶をして、魔防ギルドを後にする。
この大通り沿いの店ではないらしいが、「次の大きな交差点の角を右に曲がってすぐ」とのことなので、この町に不慣れな俺でも迷うことはなさそうだ。
何事もなく、すぐに雑貨店の前まで来ることができた。
店の中の物を少し見て、話をしつつ、値段を把握するついでに、必要そうなものがあったら、買い揃えていくことにしよう。
うん、外観もなかなかにおしゃれな雰囲気のある店構えだ。
これで安い上に、良い品揃いだというのだから、なんかわくわくする。
期待して店の中に入った。
あぁ、なるほど、これはあれだ……うん、若い女の子が好きそうな色合いのファンシーグッズだ。
それらが見事としか言いようがないくらい、きれいなグラデーションになって並んでいる。
ディスプレイの仕方に、なんとも非凡なセンスを感じさせる不思議な店内だ。
この配置を少しも崩したくないと思わされるほどの整然さに驚き入った。これじゃ商品に触れない。
ここの店の人は、いったい何者?
呆気に取られて、しばらくぼーっと突っ立っていたのだが、あまり出入口を塞いでいても邪魔になるかと気付き、足を前に進めた。
「らっしゃ」
小さな声だけど、その割によく通る声がしたと思って、辺りを見回したのだけれども、その子の姿が見えない。
いや、居た……ちっさい女の子が……視線のずっと下の方に。
えっ!? でも、いくらなんでも、小さすぎやしないか? ……だって、こんなだぞ。
こんなって、どんなって? えっと、これくらい?
いやいや、これじゃ分からんよな。
ははは……この子、俺の膝丈よりも低いんだよね。
「君は、お店の子?」
「……」
じっとこっちを見つめてくる、それはそれは小さな小さな女の子。
「あははは、お客さん! そいつに話しかけたって無駄さ。商品の陳列にしか興味ないからね」
「えっ?!」
おっ、今度は店の奥から出てきた店員に話しかけられたようだ……うん、こっちは普通サイズね。
いや、ちょっと待てよ。今さっき、確かに話しかけられたぞ! いらっしゃいって。
今だってな、こっち凝視したままだし……ほらっ、やっぱり!
こうやって、手を動かすと、この子の視線がそれを逃さないぞとばかりに、忙しなく動く──それこそ、子猫が壁に映った影を追いかけるように。ふふふ。
なんだろう?! この子、超かわいいな。なんか凄くほっこりする。
ほ、欲しい……いや、なに言ってんの!? 俺。
是非とも、お持ち帰りしたい。あれっ!? ……いつロリロリに目覚めた?!
いや、違うんです。お巡りさん、そういうことでなく。
うん、なんていうの? 愛玩動物的な愛くるしさ?!
はぁ~っ、かわゆす。
「せい……れい」
ん?! セイ……レイ。あぁ、精霊か!
「あはは、そうだよ。これは水の精霊さんね」
「みず」
どうやら、俺を守護してくれている水の精霊さんに興味津々のようだ。
普段は薄くなって気配を消している精霊さんを指さしてみた。
でも、ちみっ子はなぜか? 不思議顔。
「……おっきな……せいれい……あな」
そう言ったきり、こちらに興味を失ったのか、しばらくして商品の陳列に戻っていった。
今、その様子を近くで眺めている。
『いったい全体、零コンマ何ミリ単位の調整なんだよ?』と、つっこみたくなるほどの精密さで、光と影を操るかのごとく、商品の微妙な向きや配置に全神経を注いで、商品陳列に専念しているみたいだ。
「はあ、いやぁ、珍しいなぁ……久々に見たよ、この子が話すところなんて」
「いつもは……あぁ、こうしてるんですね」
「そう、陳列以外は全く。後は真夜中に商品の色を少しずつ変えてるくらいかな。この子は『リュタン』って言うんだぜ。うちの看板娘だ」
なになに、この子の名前、「りゅたん」って言うの? ○○たんっだなんて、まあ、かわゆい!
──勘違いでした。




