61話 競馬のゲートみたいなやつ
予め、宿の受付で訊いておいた【魔防ギルド】に向かった。
といっても、宿の斜向かいだから、今来た道をちょっと戻るだけなんだけどね。
あれだな。結構しっかりした建物のようだ。
それにあの西部劇に出てくる酒場にあるような背の高い両開きの扉……あれって、なんて言うのかな? えっと、競馬のゲートみたいなやつ……う~ん、まっ、いっか。
ゲートを押し開けて中に入ると、外見の立派さとは裏腹、なんかこぢんまりとした空間に驚いた。
もっとずっと大きな施設をイメージしてたから、ちょっと拍子抜けだ。
たった一つしかないカウンターの向こうには、快活そうな受付嬢らしき子が座っている。
入った瞬間からすぐに目が合って以来、ずっとこちらに微笑みかけてくれているどこか愛嬌のある子の前まで行くと、こちらが話しかける前に、すかさず更に笑顔を増して、声を掛けられた。
「魔防ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件ですか?」
なんかファーストフードの店員みたいな話し方だな。ポテトもよろぴく。いや、そんな場合と違った。
「えっと、魔防ギルドに関して何も知らないので、基本的なことから教えてほしいのですが……」
「畏まりました。それでは──」
受付のお姉さんは、やはりマニュアルでもあるのか立て板に水という感じで、すらすらと説明を開始した。
「ご存じの通り、【魔物防衛ギルド】は【魔物】に対処するために組織された機関となります。この町の周辺に魔物が現れた際、当ギルド支部の直接案件として、登録者を派遣しています。また、近隣の村などからの援助要請に対しても、こちらの支部で扱っております。ここまではよろしいでしょうか?」
了承のために軽く頷くと、今度は質問された。
「お客様のご用件は、魔物討伐の依頼でしょうか? それとも、【魔防士】登録の方ですか?」
もちろん、魔防士登録に関することを聞きたいと告げた。
「はい! 了解しました。まず、魔物の討伐には必ず複数人単位で魔防士を派遣することになっています。魔防士登録をしていただくと、この【呼び出しリング】が貸与されます。魔物発生情報がギルドに入った時には、この指輪の石の部分が赤く点滅してお知らせします。受諾可能であれば、ギルドまでお越しください。到着順に番号札を受け取って、この受付前の広間で待機していただくこととなります」
「強制的な召集ではなく、自分の意志で来るか来ないかを判断してもいいわけですか?」
「ええ、そうです。体調の善し悪しもあるでしょうから。あくまでも、魔防士の役目は防衛が主眼となっています。大切な魔防士の方に無理をさせるわけにもいきませんので。話を続けてもよろしいでしょうか?」
「あっ、すみませんでした。話の腰を折って」
「いえいえ、何か疑問に感じたら、質問していただいて結構です。えっと……そうでした! 集まっていただいた【上級魔防士】の中から、まずは【監督官】が選ばれます。魔物の数や推測される強さに応じて、余裕をみた必要な人数を割り出し、集まった魔防士の中から、到着順に直近の活動状況を加味して、公平に派遣人員が選出されます」
ここまでは理解できたのかと目配せされたような感じだったので、軽く頷くと、説明を続けてくれる。
「派遣人員が確定したら、選ばれなかった魔防士には申し訳ありませんが、ここで解散です。選ばれた魔防士の方々は、そちらの会議室に移動していただいて、魔物の情報を共有、それぞれの得意不得意や連携などを確認し合っていただいてから、出発となります。基本的にはこちらで移動用の馬をご用意しますので、それで現地に向かっていただくことになります。以上です! 何か不明な点はございますか?」
「えっと、乗馬の経験がないのですが、馬に乗れないと、登録の方は無理なのでしょうか?」
「そうですね。緊急依頼ですと、なかなか難しいかとは思いますけど、それでも依頼の中には、遠征が必要となる場合、輜重、えっと……食料や水、予備の武器とか、防具、弓矢などの補給物資ですね。それらを積んでいく必要がある場合であったり、大型の魔物の素材を回収する見込みがある場合には、稀に馬車を出すこともありますから、それに同乗していただくことで、参加することもできるかと思います」
こちらに求められるのは、「年に一度だけ、呼び出しリングのメンテナンスも兼ねて、魔防士登録を続けるかの意思確認のために出頭する必要があるくらいなので、是非、登録だけでも」と勧められた。
本業の閑散期のときだけ参加する兼業魔防士も相当数いるらしい。
というか、この辺りでは皆が皆、兼業さんみたい。
登録後、他の町へ移るにしても、移動届などの面倒くさい手続き等は無く、その町々でギルドの呼び出しに応じれば、それで良いそうだ。
ただし、【魔防士ランク】を上げたいのなら、一つの支部で集中して討伐実績を積み、評価を上げる方が確実だと言われた。
もっとも、クリークビルのような南部の地では、魔物の発生件数が圧倒的に少ないため、ランクを上げたり、専業で稼ぎたいのなら、北の地に行く方が良いらしい。
どうやら魔物って奴は、北の方からやってくるようだ。
この安全なクリークビルは、魔防士にとっては、初心者の町とか、最初の町とか揶揄されているんだとか。
そう、先ほどの説明の中にもあった上級魔防士のように、魔防士ランクには初級・中級・上級の三つの区分がある。
依頼回数が十回までは、どんなに強かろうが初級のままだ。
十回目の依頼をこなした後、それに参加した上級・中級魔防士たちにギルド職員が意見聴取して、ランクアップの可否が決められる。
そして、【中級魔防士】になると、呼び出しリングの色が赤銅色から銀色に変わる。
上級に至っては、リーダーとしての資質も重視されるため、上級魔防士の推薦と共に、統率力や指導力、安全管理能力などについてのギルド職員による審査も実施されるとのことだ。
上級になると、今度は呼び出しリングの色が金色になる。
報酬もランクに応じて高くなるが、求められる責務も重くなるというものだった。
ちなみに、一回当たりの基本報酬は、上級が十万シェル、中級が八万シェル、初級が六万シェルだと。
そのときの状況に応じて、他にも報酬が加算される場合もあるらしい。
倒した魔物の素材、特に魔物の体内で結晶化してできるとされる石──【魔晶石】がギルド報酬の源泉となっているらしく、できる限り持ち帰る必要があるそうだ。
「魔晶石を持ち帰れなくても懲罰はありませんが、以降の基本報酬の支払いが難しくなってしまいますので、必ず破損させずに持ち帰るようにしてください」と念を押された。
しかし、体内にできた結石って……魔物は病気持ちなのか?
胆嚢結石、腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、他に何があったかな? と、またくだらないことを考えていると、「魔物を倒す際、心臓は極力狙わないようにしてください」と注意を促された。
魔晶石が心臓の内壁にできるからだそうだ。
なお、貸与される呼び出しリングを無くしてしまうと弁償する必要があるが、登録に際しては一切料金がかからないらしい。
ここまで確認できたので、一応、魔防士登録を済ませておいた。
これで今日から魔防士にクラスチェンジだ。




