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54話 まあ、厄介ではあるな

〔勇者アリエル side〕


 だって、勇者物語好きなんだもん! いいじゃない、なんか文句ある?


 うん、ごめん。あったよね!


 気を取り直して、連携の実践の話にもっていく。


 ところで、こいつ、熊肉が好きなのかと思いきや、実は熊が怖いらしい。


 へえーっ、そうなんだ。へえーっ。


「ほれっ、さっさといくぞ! さっさと」


 別に意趣返しとかじゃねえぞ! 仮にもあたしは勇者だからな。これもあいつの心理的な古傷を解消するため。


 しかし、こいつをこれほど恐がらせる熊って、一体全体どんなのだ?


 こいつの世界の熊って、化け物じみた強さしてんのかも……。


 まあ、この辺りの熊は、南国だけあって、このとおり小型でおとなしい……無手むてでどうとでもなるくらいだしな……あらよっと!


 ──それにしても、遅いな……まさか、長文詠唱とかで大魔術をぶっ放すつもりじゃないだろうな?! 勘弁しろよ。こんな熊っころ相手に……森ごと……おいおい! まさか、あたしごと焼き払うつもりじゃねえだろうな?


 なんて考えてたら、合図がきた──早く、素早く、ここを離れなきゃっ!


 森が焼き払われる……なんてことはなかったけど、なにあの威力!? ……確かに「ウォーター」とは聞こえたから、確かに水魔術には違いないのだろうけど。おかしくないか? それって、初級魔術だろ?!


 聞き違いか!? 耳でもおかしくなったかな? それとも、目の方か……。


「危ないだろ」なんて言ってきやがるもんだから、思わず「まったくだ」と同意しちまったよ。


 なんなんだろうな?! このどうにも話がみ合わない感じ。


 あ~あ、そんなことよりも、心の臓……切り裂いちまってるよ。


 熊のやつ、かわいそうに……大して旨くもないこんな時期に殺られちまって……。


 連携練習の相手が済んだら、背中の肉だけ軽くぎ落として、そのまま逃がしてやろうと考えてたんだけどな……。


 町まではまだ数日かかる距離だってのに、こんなにも大量の肉を仕入れやがって、どうするつもりだよ?


 それに、これじゃあ、すぐにばらして吊るしたとしても、血抜きが不十分になっちまいそうだしな……。


 仕方ない。どうせ全部は食いきれやしないし、運ぶにだって限界はある。


 できるだけ栄養価の高いところと旨いところだけ選んで、後は放置だな。


 ……あ、肉が黄緑色に!? ダメじゃん! 胆嚢たんのうが、破れちまってる……。


 あぁ、これじゃ貴重な肝臓も、心臓だって使い物にならねえ。


 くそぅっ! 胆汁たんじゅうに一度触れた肉なんて、どう処理したところで食えたもんじゃねえってのに。


 しかも、こんなにど派手に切り裂いちまったから、血に混じって、広範囲にかかっちまってるじゃねえかよ。


 こりゃあ、内臓周りはほとんど森の動物に処分してもらうしかねえな。下手したら動物でも食わねえかもしんねえけど。


 ただし、……だ。自分がしでかしたことがどんな結果を導いたかは、ちゃんと味わって覚えてもらおうか。せめて一食くらいはな。


 ……そうだよ。血抜きを失敗した肉は、食えたもんじゃねえだろ?


 だから、無闇に食材に傷をつけるんじゃねえぞ。


 胆嚢や腸は絶対に破るな。ちゃんと覚えておけよ。


 まったくぅ、料理の腕は良いはずなのに、貴族の奴らみたいに食材を粗末にしやがって。


 しかも、こいつ……散々、臭い臭いと騒ぐから、もしかしたら、あたしが臭うのかと焦っただろうがっ! 馬鹿。


 ……あたし、臭くないよな!?


 とりあえず、肉の方は運べる分をあらかた燻製くんせいにしちまうしかないか……幸い、この辺には燻製に適した木なんかも豊富だしな。


 さて、どの木のウッドチップ使っていぶすかなぁ。


 強い薫香くんこうから、ちょっと距離を置きつつ、燻されるのを気長に待つ。


 はあ、たまには湯浴むあみしてえ。


 暖かい地域とはいえ、まだまだ水浴みずあびするには肌寒いからな……。


 ──飯を作っていると、そろそろ出来上がりというところで、こちらを凝視ぎょうしする視線を感じた。


 冗談のつもりで「さてはれたな」なんて口にしただけなのに……「うん」って、あんた……恥ずかしげもなく……そんな、そんなこと言うなんて……ばかっ! なに考えてんだよ?


 余りにも恥ずかしくって、どんな態度を取っていいのやら、正直、わけが分からなくなっちまった……。


 意味もなく、燻製をいじくりまわしてしまう。


 ──翌朝、旅を再開した。


 それにしても、食材を目一杯背負っての移動か。行商人にでもなった気分だ。


 しばらくすると、あいつは余程魔物のことが気になるのか、またいろいろと訊いてきた。


 二十年前……といっても、もちろんその辺はあたしだって人から聞いた話でしかないんだけど、聞きたがりのこいつには逐一ちくいち丁寧ていねいに説明してやる。


 分かってんのかな? こいつ……なんでもけば、全て教えてもらえるってわけではないんだぞ! 情報だって、ただじゃないんだから……あたしだけだからな。特別なんだぞ。


 ──「まあ、厄介やっかいではあるな」……魔物も、あんたもな。


 魔物を倒すことはできる。でも、慎重に戦わないと撤退てったいを余儀なくされるばかりか、一つ間違えば、仲間だった者を殺さなければならないことすらもあるから……。


 こいつに説明したとおり、聖水や神聖魔術がなければ、どうにもこうにも切りがない。それこそ、いたちごっこみてえに。


 勇者になって、詳しい事情を知ることができたのはよかったものの、だけど、それによって、今度は……ユニコーンの助力がいつまで続くのかが不安になった。


 だって、今の教会が光の妖精の加護を受けられるような素晴らしい組織だとは到底思えないから……。


 孤児院で教会の裏側を見てきただけに、なんか釈然としないところはある……けど、今は背に腹は替えられないというのもあった。


 あたしができることをするしかない。




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