51話 まじかよ!? すげえーな!
ここからは草原が主体で、比較的歩きやすいとか。
はぁ~、やっとか。結構長い道のりだったな。
それでも、全然疲れてないんだよな。ふふふ、結構、体力ついたか!? なんか調子いいぜ!
道中、アリエルが捌いて、調理してくれたジビエが身体に合ってたのかな? まあ、滋養に良さそうだものな。
それに、やっぱり精霊さんの御陰だったりもするんだろうな。
人間は六割が水分でできているって言うくらいだから、殊のほか、水分補給が大切なんだ。
体内の数パーセントの水分が失われただけでも、身体的なパフォーマンスは落ちるって言われているからね。
ウォーターローディングは本当に大事だ。
旅の最中なんかは、どうしても水分の確保に制限がかかることが多いだけに、水分補給のペース配分も考慮して、多少なりとも節約気味にならざるを得ないところがある。
ところが、今の俺にはそれが無縁……だって、水の精霊さんがいるんだもの。
水精霊さんが出してくれるこの水が旨いこと、美味いこと。
お陰様で疲れ知らずだ。
水分が足りてないと、本当に疲れやすくなるんだよ。
年寄りを考えればすぐ分かる。
年取ると、膀胱の筋肉が硬くなって、トイレが近くなるもんだから、大抵の人が水分を控えるようになる傾向にあるものだ。
ただし、それって、膀胱に尿が溜まらない内におしっこをしてしまうということだから、膀胱の筋肉を使わなくなるということでもある。
こうなると、より膀胱は硬くなって、更にトイレが近くなるという悪循環に陥るんだ。
高齢者が疲れやすいのも、こうしてどんどん水分摂取を控えてしまうから、疲労物質の排泄であったり、酸素や栄養の供給にまで悪影響が出るほどの脱水状態になっているという理屈だ。
そうじゃなくても、中年になると、高脂血症なんかで血流が悪くなってるから尚更だね。
若い人だって、何かに夢中になって、水分補給を忘れていたりすると、後でどっとしわ寄せの疲れが来るんだよ。
室内にいるなら、お白湯の方が身体には良い。
だけど、今はこうやって亜熱帯地域を自分の足で長距離移動しているわけだから、ただでさえ汗をかく。しかも、体内の水分量が少ないと体温が上がってしまうため、体温を気化熱で下げようとして、更に汗をかきやすくなる。
体内の水分量が多ければ、そうした余計な汗の量を抑えることもできる。そのためにも、こまめな水分補給は欠かせないわけだ。
汗をかいてしまうと、塩分や糖分補給も必要となるしね。
まあ、汗をかけば、かいたで、程良い温度の水分が更に美味しく感じられるようになるわけだけど。
それは危険な兆候でもある。水分補給が間に合っていないという証だから。
どちらにしろ、俺にとっては精霊様々なわけですよ。うん、途中で気づいてよかった。
これからもよろしくお願いしやす!
ということで、この美味しい聖水ならぬ【精霊水】を使ってのお料理です。
たららったったったった。たららったったったった。たららったったたったたたたったんたん! ──
ここまで来たら、町まであと一歩なので、節約していた野菜を全てぶち込んで、あの熊肉を入れて、ことこと時間をかけて煮込んでいきます……もちろん、アリエルが。
別に俺が亭主関白でふんぞり返っているわけでもなく、アリエルが「台所は女の城だ」とか言って、俺を炊事場に立ち入らせてくれないとかじゃなくて。
俺も一人暮らしが結構長かったから、料理はそこそこできるんだよ。そう、自宅の台所なら……だって、ほらっ、ここは野外だからさ……うぅ、すまん。
最初はアリエルの手際の良さに見蕩れていただけだったのは確かだけど、俺も何か手伝おうとした瞬間、物凄くやりにくいことに気がついたんだ。
まな板は無いし、切れ味のいいマイ包丁も無いし、テフロン加工のフライパンも無いし、手に馴染んだ中華鍋も無い。
もちろん、便利な調理グッズなんかも無いわけだしね……つくづく文明の利器に頼って生きてきたことを痛感したわけよ。
手伝おうとすると、かえって邪魔になるのが分かる。
普段はもっと手際よく動けているイメージが頭に残っているから、余計だ。
しっかし、料理できないくらいで、こんなにも落ち込むとは正直思わなかったぁ。
一人だから食うために、仕方なく料理してたつもりだったけど、結構、料理してる時間に癒されていたのかもしれない。人生って、分からんものだな。
失って……初めて知る大切さ……か。
「あ~あぁ」
「あれ!? なんだよ? 珍しく溜息なんか吐いて」
アリエルらしくもない。
まあ、こいつのことをそんなに知ってる訳じゃないけど。
「いや、だってよ。エルフ様に仲間になってもらおうと、遠路はるばるこんなところまでやってきたっていうのによ、無駄足だもん……あんたも仲間になってくれないって言うし」
「うっ、ごめん。でもよぉ。エルフ様に御同行してもらうのは、ちょっとどころじゃなく無理があるだろ……あっ! そういや、おまえ。エルフ様、エルフ様言ってたけど、もしかして、エルフとウッドエルフの違いって、わかってるか?」
「あん?! なんだよ? ウッドエルフって」
あぁ、やっぱりか! ウッドエルフさんに対して、こいつも「エルフさん」とか呼びかけて、「エルフ様とお呼びなさい」と叱られた口なんじゃ?
俺の場合、エルフの郷まで連行される道中にちゃんと誤解が解けたけど、こいつの場合、門前払いとか言ってたくらいだから、素気なく追い払われて、それっきりなのかも。
このままだと、ウッドエルフと人族どちらにも好ましくない状況か。なら、ちょっと説明しとくべきか?
エルフ方から情報漏洩の嫌疑をかけられるとかは大丈夫だよな? エルフに対する認識が正しい方向に向くわけだし。
──ということで、俺の自己判断に過ぎないけど、問題ないと思える範囲内で、アリエルにエルフとウッドエルフに関する話をしてやった。
「おい、まじかよ!? すげえーな!」
思いの外、感激した様子で感謝してくるアリエル──勇者物語に出てくるらしいエルフにも相当憧れを抱いていたんだと。
それなら、もっと間に入って話でもさせてやれば良かったか? ……いや、俺も陰で嫌われてた口だから、逆効果だったかも……それに、今更言っても、詮無いことだものな。
でも、まあこれで、少しはアリエルに世話になった分、恩返しの足しになってくれればいいけど。
う~む、困ったなぁ……よく考えてみると、旅の道中、世話になりっ放しじゃないか。
なにか他に俺でもできることってあるかな?
この世界での俺の特異性って、精霊魔法が得意なことぐらい……って、つまらん駄洒落を言ってる場合じゃない。
でも、それしかないよな……やっぱり。




