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46話 勘違いするって……誰だって!

〔勇者アリエル side〕


 にやにやしやがって、さてはあたしをめやがったな!


「てめえー、ぶっ殺すぞ!」


 ……あれっ!? 秘伝教えるなんて一言も言ってなかったか?


 けっ、やってらんねえ。さっさと寝るか。


 そういえば、葉っぱどこだ?


「そこにあるだろ、そこに!」──この一言でかちんときた。


 おいおい、まだやるのかよ……こんなやり取りを、いつまでも。


 んっ!? もしかして……あたしを試していたわけじゃないのか?


 ほんとに初心者!? ほんとに何も知らないのか?


 そうならそうと……言ってるのか?! 今まさに。


 くっ、また失敗しちまったな。


 おいおい! どこ行くつもりだ!? こんな暗くなってから。初心者のくせに。はあ、本当に初心者なのか……仕方ねえ、あたしの失敗だしな。


 これからはしっかり一から優しく丁寧に教えてやらなきゃだめだな。


「ありがとな。アリエル」──寝床に就いて、しばらくしてから、そんな小さな声が耳に届いた。


 いいってことよ! へへへ、しっかり聞こえてるからな。なんせ、あたし地獄耳だかんな。



 ──翌朝、目が覚めて、あいつの方に目をやるが、まだまだ起きる気配はない。


 初心者だというのを思い出して放置し、朝飯代わりになりそうな物でも探してきてやるかと思って、出かけた。


 春先は食べられる果実が少ないから、結構困るんだよな。


 おっ! みっけ……なんつったっけかな? このって。


 種には毒があるけど、実の部分はちょっとだけ甘い赤いやつ。


 これは食べ応えがないし、あいつが間違って種をくだいたりしたら大変だ。なんせ初心者だし……かあっ、初心者かよーっ!? 初心者なんだよな? ほんとに?


 おぉっ、いいの、みっけ! あんなとこに良さそうなのが。


 なんだ?! このでっかいみかんみたいなの。夏みかんにしては少し皮が柔らかそうだし、時季的にも少し早い気がするし。


 まあ、とりあえず、食べてみっか。


 一個ひん剥いて、早速、房ごと口に放り込んだ。


 甘っ! これ、すげえ旨いぞ。果汁が半端なく美味しい。


 へえ、この辺にはこんなのもあんのか!? いいなぁ。


 種を持ち帰って植えたら、育たねえかな? う~ん、無理か? ……でも、惜しいなぁ。


 あっと、これなら、あいつでも問題ないな。


 よしっ、少し多めに持ち帰ってやるか……お礼に料理のコツ教えてくれるかもしれないし。


 果実をかかえて戻ると、ついさっき起きたような寝ぼけまなこをしたまま、後片づけしているあいつが目に入ってきた。


 一声をかけて、果実を放ってやる。


 目の前で皮をいて食べてみせてやると──あいつも一瞬、顔をそむけはしたものの、真似をして食べ出し、満足顔で礼を言ってきた。


 どうやらあいつもこれが気に入ったらしい……そりゃ、これだけ旨けりゃな!


 機嫌が良さそうなうちに、駄目元でお願いしてみるか?


 料理の秘訣……いやいや、勇者パーティーに加わってくれないかと。


 冒険自体が初心者であったとしても、そんなのは些細なことに思えてしまうほどの魔術適性……それこそ、おとぎ話の中の魔王と見間違うほどの……いや、ごめんな間違えて。


 それに加えての不死身だ。これ以上頼もしい後衛は存在しない。


 意を決して口にすると、即、断られた。


 動物と戦うのが怖いとかどうとかほざいていたが、不死身の体で何を抜かしやがる。


 いや、教会のしがらみが嫌というのが本音か? こいつも教会嫌いなのか? はあ、そういうところは気が合いそうなのにな。


 冒険の経験がまったく無いのは、ほんとみたいだから、死なないように……いや、こいつの場合は関係ないか? でも、またどこかで縁があるかもしれないし、少し教えといてやるか。


 初心者に言うようなことをこいつに向かって口にするのは、なんとも場違い感が半端ないんだけど。まあ、神妙な顔して聞いてくれてるので続ける。


 途中で、こいつの場合には、連携の話の方が当面の課題かと思い直し、それとなく話を軌道修正していった。だって、味方を巻き込みそうだろ? あの馬鹿でかい魔力じゃ。


 退避するように味方へ合図を出す方法とか、味方が退避するまで待つことを教えておかないと……味方殺しですぐ干されちまいそうで……。


 あたしの心配を余所よそに、こいつは訊いちゃいけないことを訊いてきた。


 いや、あたしが悪いのは分かっているけど……そうだけど……だって……しょうがないじゃない。そっくりだったんだもん。勇者物語のあの場面に。


 魔王と勘違いするって……誰だって!



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