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45話 ふん、その小芝居に付き合ってやる!

〔勇者アリエル side〕


 この人も勇者なのじゃないのかと疑っていたのに、「勇者って何?」なんていてきやがった。


 最初、勇者としての心構えでも問われているのかと疑心暗鬼になったけど、どうやら単純にこの世界での事情が分からない……そんな感じでたずねてきたようだったから、ちゃんと説明してやった。


 もう戦って倒す相手でもないしな。たぶん、そちらの世界の勇者……いや、おそらく引退して、しばらく経った方なのだろうから。


 それでも、本名は名乗らなかった……だって、まだ勇者として未熟で、恥ずかしかったから。


 【妖精の森】にかかる【幻影結界】を抜けた瞬間、この人もかすかに反応していたから、魔力感知能力にもけているのが分かった。


 それにしても、この人の世界の魔物は、どうにも変わった習性してるんだな。


 いや、もっと変わってるのは洞窟どうくつの方か……わけ分かんないこと言ってたけど、本当のところ、一体全体なにが言いたかったんだろう?


 しかし、なんだろうな? この人ったら、しらばっくれて、まるで冒険が初めてな奴でも演じているかのようだ。でも、演技は下手くそ。


 ほら、みろっ!「なにすれば、いいんだ?」なんて訊いてきやがった。野営の準備でだぞ。いくらなんでも基本的すぎやしないか?


 いや待て、基本……基本は大事か! もしかしたら、新米勇者のあたしなんかが見落としやすい落とし穴があるのかもしれない。


「初心に立ち返って、細かく見直してみろ」ってことなのかも!? ふん、その小芝居に付き合ってやる!


 それこそ、冒険したての坊やが教わるような基礎中の基礎から説明していく。


 すると、どうだ! 今まで見ているつもりが、その実、見えていなかったもの──重要な要素が含まれていることに気付き始めた。


 他人に対して、一から説明しようとしたことで、今まで頭の中で曖昧あいまいであやふやだったものが、しっかりと形を成していく……これかっ!? この人が言いたかったのは。これなんだな?


 なるほど、うん。新鮮な感覚だ。


 教えることで、教える側も学ぶって、こういうことだったのか!


 また、借りができちまったな……ちっ。


「熊とかいるの?」だってよ。なんだよ、熊肉が好きなのか?


 今の時期はせこけてるけど、冬前だったら、確かに煮込み料理には格別だしな。なんか想像してたらよだれが……やばいやばい。ふふふ、んじゃ、いつかお礼に熊を見つけてきてやろう。


 さて、腹も減ってきたことだし、なんか狩ってくるかな。


 そういえば、往きにこの辺りで野営した際に、確か野うさぎの痕跡こんせきがあったな。


 おっ、あの辺だ。


 野うさぎをすぐに見つけて仕留めることができた。


 まあ、二人で食うには、丁度いい大きさだろう。


 素早くけい動脈を切って、足を持って血抜きしながら戻っていく。


 帰ると、もう既に火熾ひおこしが済んでいた。ふ~ん、この辺は教えなくてもいいのか?


 いや、違うな! 初心者が上手にこなしたのなら、しっかりめてやれってことだろ? へへへ、そうだよな。


 しかし、随分と手が込んでるな。確かにこの人、いつもなんか考えてるようなふしがあっからな。あたしのために? いやいや、気のせい気のせい。


 内臓の処理についても訊かれた。ああ、知りたい! この前、食べさせてもらったパンみたいな極意……内臓の処理の仕方にも、なにか秘訣があるのだろうか?


 う~ん、少しは料理の腕に見込みがあると感じてもらえたら、なんか教えてくれるかも……ここは丁寧に処理していかなくちゃな。


 うん! なかなかの出来だ。


 この人もそこそこは満足してくれたみたい。だけど、やはり秘伝的なものは、なにも教えてくれなかった。


 う~ん、何かいい手は……。


 そうだ! この人、それとなく学ばせる方法を取ってるみたいだから、しりとりでもすれば、それにまぎれ込ませて、秘訣的な何かを秘密裏に教えてくれるかも!!


 ……さすがにしりとりしようなんて、唐突すぎたか!


 暇してるという理由じゃ、だめか? ……そうだった! 初心者相手って想定だった。正解はなんだ?! 初心者には、まず安心できる言葉をかけてやって、警戒心を解く方向にもっていくってか!? あぁ、なんか、めんどくせえ。


 初めてのこの地で生態に詳しくなくても、さすがにこの人レベルなら、強い魔物がいないってことぐらい気配で分かるだろうに。


 さて、秘伝のレシピ、秘訣は、っと!


 しりとり始めてすぐ、わざと負けてくれたと思いきや……まさかの苦しい言い訳。えっ、今度のこれにいったい何の意味があるのか? 考えてみても、すぐには答えは出ない……。


 やっぱりレシピ教えるのがしくなっただけなのか?


 いやいや、ちょっと待て! めるなんて言い出すなよ!! ……くそっ、教えてもらう弱い立場はつらいな……そういうことを学ばせたいのか?


 なんとか認めてもらって、秘訣を……。


 だめだ。なんだこの人? ぽんぽん言葉が出てきやがる。いや、あたしが余計なこと考えてるせいか……集中、集中。


 やった! 勝ったぁ!! ……って、またかよ……ほんと負けず嫌いだな、この人。


 んっ? これも泥臭く勝利をつかめってことか……いやいやだまされねえぞ。


 今度はだんまりかよ──。


「まいったな……負けたよ」


 やった! やっと認めさせた!? でっ、秘伝のレシピは?


 なんだと。この期に及んで、「おしとやか」とか、何の関係があるんだよ。


 もしかして、やっぱり、しりとりの言葉の中に忍ばせて……も……なさそうだし。


 くそっ、無駄骨か!



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