40話 勇者って、なに?
「なあ、アリエルって、勇者なんだよな? ところでさぁ、その勇者って、なに?」
「はあ!? なにって、何がだよ?」
「いや、そのな……えっと、魔王を退治した称号とか? 職業的な役割とか? よく考えてみたら、勇者って、本当にわけ分かんないから……そこんところ詳しく」
俺の漠然としたこんな疑問に、アリエルは何から話をしたらいいのかと思案しつつも、知っていることを一生懸命に教えてくれたみたいだ。
本当にこいつは秘密にできない質のようだな。まあ、こちらとしては非常に助かるんだけど……。
そんなアリエルによると──突如として二十年ほど前から、各地で【魔物】が発生したらしい。
その被害に苦しむ信者たちから、「なんとかしてくれ」と、【教会】に対して、救いを求める要望が相次いだそうだ。
最初は場当たり的な対処で済ませていたようだが、さすがにこれではまずいと感じた教会が、十五年前から実行部隊を組織するようになる。
その顔となるのが【勇者】というわけだ。
聖典に記された四大天使【水のマースエル】、【風のガートエル】、【土のゴザイエル】、【火のアリエル】の名を武に秀でた者に授け、教会を代表して、魔物討伐の任務に当たらせているらしい──それが【勇者認定】だ。
そう、アリエルというのは、本名ではなく、勇者名とのこと。
本名は教えてくれなかった……いいけど。
唯一神【アーキア】を崇拝する教会──勇者が得た名声をピンはねしようという狙いが透けて見えるどころか、丸分かりだ。どこの世界でも一緒なんだな。
勇者認定を受けると、まず、三種の神器の一つである【破魔のネックレス】──稀少な【ユニコーンの角】をペンダントトップにした首飾りが貸与される。
そう、これが昼休憩の前に、胸元から一度取り出して見せてくれたあの首飾りだ。
これは、教皇や勇者のみが身につけることを許される教会の秘宝──この装備が凄い!
なんと身につけるだけで、呪い耐性や魔力を高めるだけでなく、このアクセサリーに魔素を込めることによって、神聖魔術を行使することができるという逸品だ。
その後の勇者の活躍に応じて、ユニコーンの角を金属に混ぜ込んで鍛え上げられたとされる黄金色に輝く聖剣、聖鎧が順に与えられることになっているらしい。
ただ新米勇者は破魔のネックレスしか与えられていない。よほど目の肥えた者でないと、見た目からでは勇者だとなかなか判断してもらえないようだ。
世間的には、聖剣を得て、初めて一人前の勇者と認知されるらしい。
また、教会の威信をかけて魔物討伐に当たる勇者には、【聖水】が提供されている。
実はこれもユニコーンの角から生成されていた……いやいや、どんだけユニコーン頼りなんだよ!
おいっ、教会! なんでユニコーン教じゃないんだ!? っての。
「あっ、そうだ! なあ、この世界にはダンジョンとかねえの?」
「ん!? あるけど、洞窟なんかに行って、なにするつもりだ?」
「いや、魔物とかいるんじゃないかと思って」
「へえ、あんたの世界では、魔物が洞窟に棲みついてんだ」
「ゲームの中の話だけど、そう、まさにダンジョンの中で生まれて、その中だけに棲息している感じ……いや、違ったかっ! 数が増えると偶にスタンピードで外に溢れ出てくる感じだったかな?!」
「おいおい、遊び感覚かよ。まあ、探す手間がないってのは、確かに便利だよな。それに洞窟の中に籠もってくれてるなんて、随分と良心的な魔物だな。でも、溢れ出てくるほど増えるってのは、ちょっと困りもんか……いや、計画的に狩ってやればいいだけだ。まあ、動物なんかと一緒だな」
「ダンジョンはお宝でいっぱいでもあるからね」
「ん!? あんたのところの魔物って、竜みたいに光り物好きか? それとも盗賊紛いで、村を襲ったりして、金品を集める口なのか!? なんだよ? 質悪いな。あれ!? でも、あんたさっき、偶にしか洞窟の外には出てこないって言ってなかったっけ?」
「いや、そうじゃなくてよ。ダンジョン自体に宝箱が発生するんだよ」
「はあ?! いやいや、あんた頭、大丈夫か? 洞窟だぞ。洞窟の話してんだかんな。えっ、金鉱とかそっち系の話か?」
「いや……えっと、あぁ、なんだろうな? 俺もその辺はよく分かんねえや。確かに変な話だったな。すまん、忘れてくれ……ん!?」
「まあ、いいけど……おい、そろそろ野営の準備するぞ」
いろいろと話していて、知らぬ間に結構時間が経っていたようだ──旅慣れた雰囲気で、アリエルがそんなことを言い出した。
そういえば、先ほど感じた酔いのような違和感が森の【幻影結界】を抜けた瞬間だったということか? やっぱ気のせいじゃなかったんだな。
長い間、船に乗った後、陸へ上がった瞬間に感じるような、逆に地面が動いているような変な感覚だった……すると、幻影結界の正体は、方向感覚を狂わせる類の魔術なのかもな。
魔術・魔法のある世界だ。もしかすると、この世界で暮らしていくには、こうした違和感を勘違いだと無視せずに、ちゃんと用心するようにした方がいいのかもしれない。気を付けんと。
それはそうと、とうとう【妖精の森】を抜けたってことか? ははは、やっと異世界での第二エリアへ足を踏み入れたということか。
あ、そうか! そりゃあ、屋外だもんな。確かに暗くなる前までに寝床を準備する必要があるというわけだ。
はあ、異世界に来てからというもの、最初に気絶して、そのまま一晩明かしちまった以外、ちゃんとした屋根付き部屋を用意してもらえてたからなぁ。全然気が付かなかった。
さすがに毛布に包まって、横になるだけじゃ、やばそうだもんな。
「で、なにすれば、いいんだ?」




