33話 我ながらよくぞ理性が働いてくれた
ちょっと聞いてくださぁるぅ、奥様ぁ~。
最近、あたくし、肌の調子がすごーく良いのぉ!
もうすっかり若いときの張り、水を弾くような。
透き通るようなきめの細かい肌艶なのよぅ。
ここ【エルフの郷】の食べ物がそんなにも身体に合ってるのかしら?
違うの! あたくしだって、口に合うことくらいは分かっているのよ~。だって、とっても美味しいんだもの。
いえいえ、そうじゃないの、からだが……身体が妙にうっすいからですわ~っわ~~っわ~~~っ!
朝からお騒がせして、すみません。
テンションが高いのには理由があるんです。
本日は、いよいよ旅立ちの日だから。
興奮覚めやらぬ朝、恥ずかしながら、遠足前の子どものように、なかなか寝付けなかったんですよ。
それもこれも、この世界に転移してからというもの、うすうす感じていたのだけれど、この若々しい肉体が影響しているような……。
ここでは鏡を見る機会がなかったから、はっきりはしないんだけど、視界に入る範囲では明らかに俺の身体が若返っている気がするんだよね。ふふふ。
なんか学生時代にでも戻ったかのような爽快さだ。
まあ、眠れなかった理由は、それだけじゃないんだけどな。
このエルフの郷での滞在は、正直、俺にとって辛い。
集落全体に漂う差別的な雰囲気もさることながら、一部の方が凄く親切にしてくれることに対しても……。
なにも返せない状況がこんなにも辛いものだとは……。
だからって、本当に何もせずに出て行くほどの恩知らずと思われたくなかったから、精霊鎮魂に関われて、ほっとしている。
多少の恩返しができた今なら……また恩義が嵩まない内に、できるだけ早くここを立ち去りたいとすら思っていたんだ。だから、今はむしろ、心が軽い。
さて、そろそろ、お世話になった人たちに、せめて誠意を込めてお礼の言葉だけでも伝えないと……残念ながら、今の俺にはそれくらいしかできないから。
とはいえ、これだけお世話になったのだから、これっきりというわけにもいかない。
精霊の調査のついでに、各地でみんなが喜びそうなお土産や土産話でも仕入れてくるとしよう。
心残りなのは、今まで一番力になっていただいて、いろいろと教えも受けた聖樹様に、結局、旅支度を整えていただいたことへのお礼と、最後のお別れの挨拶が言えず仕舞いだったことだ。
この世界で相当高い立場の方なのだから、今まで俺なんかが、ほいほいお会いできていた方がおかしかったようだ。
それだけ精霊の問題が重要案件だったのだろう。
しばらくは聖樹様との面会はできないとの側近の方からの伝言をいただいたので、非礼とは知りつつも、出立を決めたのだった。
最後に愛らしい聖樹様のお声を拝聴できなくて非常に残念だ。
その代わりと言っては失礼だが、食堂のお姉様方から非常に激しい抱擁を受けた……いや、その中でも特に大人っぽくってセクシーな美人さんに抱きつかれて泣かれたのには、ちょっとどころでなく、驚いた。
なんかすっごく得した気分。だって、物凄くセクシーな美尻なんだもん。手が思わず尻に行きかけたのは内緒だ。あんなにもぷりっした完璧なお尻は見たことがない。我ながらよくぞ理性が働いてくれたと思う。
もう少しここに残っていれば、この人といい仲になれたのかなと思うと、後ろ髪を引かれる思いだ。
心残りはそれだけじゃない。
だって、ここの料理は今までの人生の中で最高も最高、超絶レベルの料理ばかりだったのだから。
この食堂だけからは、正直、離れたくはなかった……間違いなく、俺の心のオアシスだった。
もうここの料理が当分食べられないと思うと、ちょっと生きていく気力を失いそうだ。
そう思って、超落ち込んでいたから、その美尻さんから昼食用に頂いたこれまた美味しそうなサンドイッチが超嬉しかった。
これを心の支えに生きていこうと思ったほどだ。
この食堂のお姉様方と同様、今回の滞在で最もお世話になったレイノーヤさんとのお別れが、正直、寂しくもある。
彼女自体は、それほど寂しそうでもなさそうなところが、また別の意味でも、ちょっと寂しい……。
レイノーヤさんはスプライトにも呼びかけてくれたみたいなのだが、どうやらあの風妖精さんには嫌われていたらしく、別れの言葉を交わすことができなかった。
まあ、どうせ、いたずらされるか、憎まれ口を叩かれるだけなんだろうけどな。
寂しいっちゃ、寂しいぜよ……。




