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32話 へえ、困った方もいるものですね

〔側近エルフ side〕


 ──翌日、先任様に昨日の会談の様子を御報告しましたところ、御叱りを受けてしまいました。


 分かっております。聖樹様を御諫おいさめするのもわたくし達の務めであることぐらい。


 えっ! そうではない? 迷い人を攻撃しようとしたことですか?


 はて? そのような記憶は御座いませんが? 勘違いでは。


 いえ、『勘違いではない』と申されましても……えっ、同僚からの申し立て……で、御座いますか?


『毎度毎度、ファトゥム様への面会者を害そうとするのを皆で押さえるのに苦労している。どうにか諫めてほしい』という申し立てが!? ……ほう、そんなにも多いのですか?


 へえ、困った方もいるものですね。誰ですか? その不心得者ふこころえものというのは。


『だから、貴方が』って……えっ、わたくしが、で御座いますか?


 はて、そのような覚えはないのですが。


『毎度注意しても直らず、無自覚だからこそ、戒告かいこくしている』などと、わたくしにおおせられても……そういうことはその当人に言ってくださ痛っ、たたた。ほっぺたをつねらないでくださいまし。


 ……へっ?! 『それも、戒告も一度目ではない』と……はて、そんな記憶は……そうでございますか? 大変なのでございますねぇ、先任様も。


 きっとお年でけてしまわれたのね。


 ははは、そんなに大きな溜息ためいきをつかれますと、御皺おしわが……いえ、失言でした。


 はあ、もうよろしいのですか?


 では、ファトゥム様を呼んでまいりま~す。


 いえ、『なぜ?』と言われましても。もちろん、先日の迷い人への非礼についての御咎おとがめの件でしょうが。耄碌もうろくしちゃって、この方は……。


 何ですと! わたくしが『立ち会えない』とは、どういうことですかぁぁ!? ──貴方、殺しますよ! だから先任聖樹だから何だと言うのですか? きぃぇぇぇぇーーっ。


 な!? 皆して、何ですか? わたくしの聖樹様をぉぉ! ファトゥム様を返せぇぇぇぇっ!! 殺しますよぉぉぅ。


 はぁっ、はぁ、はぁ……ん、罰ですと? 何のですか? 納得できません。承服なんてしませんからね。


『これが一番効果的な罰だ』なんて……そ、そんな殺生せっしょうなぁぁぁぁーっ!


 皆でそんな怖い顔して……う、うぅぅっ、し、失礼いだじまぁずぅぅぅ──。



 ──くぅぅ……更に翌々日、またもや、聖樹様との面談をたまわった迷い人、許すまじ。


 しかも、直々に依頼を賜るなど、何様のつもりか。殺す、絶対に殺すぅ!


 わたくしとて、御側を引き離されたというのにぃっ……な、なんですか! いいではないですか? 少しくらい覗いていたってぇぇーーっ。


 それに、なんということですか!? そもそも、精霊の鎮魂はほんの二十年前というごくごく最近賜ったばかりの我々エルフの役割ではありませんか?


 それをどこぞの馬の骨とも知れぬ迷い人などという者に任せるなんて。奪われてしまうなどと、恥を知りなさい、恥を!


 エルフの誇りは一体どこへ行ってしまったのやら。


 いや、過去の記録の事は承知しておりますけど……ふん、はなはだ信じられませぬ。



 ──あれから何日か後の正午近く、ありえないほどの魔力の気配が世界樹の周囲を取り巻いた直後、激しい振動と共に、魂を揺さぶられるかのような波動が身体の中に響き渡りました。


 世界樹に棲まう者であれば、誰にでも感じられるほど、それはそれは凄まじい魔力の奔流ほんりゅうが……。


『何事か?!』と皆が皆、警戒しておりましたが、先任様の一喝いっかつ──内面はどうあれ、表面上は皆、落ち着きを取り戻したようでした。


 その直後、『おそらく一万年前と同様、迷い人が精霊鎮魂の儀式魔法を発動させただけなので害はない。落ち着くように』と申されて。


 しかし、なんですか!? 戦術規模、いえ、戦略規模で全属性の積層型魔法陣が展開されたように見えましたが……。


 それにも増して、あの膨大すぎる馬鹿みたいな魔力は、なに?!


 過去に一度だけ、ファトゥム様、先々任様、先任様の三聖樹様揃い踏みの共同儀式魔法を拝見したことはあります。


 まあ、それはそれは壮大で素晴らしいものでしたけれども……あれは、その比ではありませんでしたよっ! 何なのですか?! あれは?


 この絶大な規模を誇る世界樹が震えたのですよ。


 普通の巨木が震えるのとは訳が違います。


 それも衝撃を与える目的の攻撃魔法とかではなく、鎮魂のために使用された浸透系魔法で……ですよ。ですよね!?


 それがどんなことか考えるだけで、げに恐ろしい。


 あんなものを人族が操れるものでしょうか?!


 本当に何者なんですか? あやつは。


 あれは人族ではない……間違いなく。


 邪悪な存在……ではないのかもしれませんが、妖精エルフの我々であっても、容易に触れてはならない存在に違いない。きっと……。


 はるか昔、この世界を離れたと伝えられる神々……もしかすると、その一柱ひとはしらではないかとの懸念が一瞬、頭を過ぎり……なんとか必死に振り払うことに成功しました。


 ああぁぁ、なんという事でしょう! 聖樹様はあやつに夢中だわ!!


 持っていかれる! いただかれてしまうぅぅ!!


 くぅっ、やはり殺すか。


 いや、それよりも、速やかに二人の距離を離さなければならない。


 きゃつの旅支度を早々に準備せねば。


 ファトゥム様に匹敵する価値ある物など存在するわけもあるまいが、エルフの秘宝には神々にちなんだ品がいくらかあります。それらを餞別せんべつとしてくれてやろうじゃないか。


 きゃつめを早くこの地から追い出さねば。


 急がなくてはっ!


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