3話 取ったぁ! 隙だらけだ
〔勇者アリエル side〕
これまで先輩たちが手伝ってくれたおかげで……いや、あれは託されたという方が正解なのかも……それでも、ひたすら、みんなでがんばって、やっとの思いで漕ぎつけた教会の勇者認定。
ほんとに、あたしで良かったのかぁ?
いや、大丈夫! のはず。
心機一転、新たな旅の仲間を加えるために、はるばる【エルフの郷】を訪ねてみれば、まさかの門前払い……ははは。
子どもの頃に、初めて読んだ絵本のおとぎ話──あれ以来、憧れ続けてきたエルフ様。
一人だけでもいいから仲間になってついてきて欲しかったのに……お近づきになりたかっただけなのに。
聖樹様に、せめて一目でもいいから、お目に掛かりたかったぁ。
まさかこれほどエルフ様に、人族が侮られているなんて……。
せっかくがんばって勇者になったのに、これでも足りなかったかぁぁ。
まあ、仕方ねえな。
たかだか十数年しか生きてないあたしなんて、途轍もない長寿と言われるエルフ様からしたら、赤子同然だもんな。
子守しながらの冒険なんて、あたしだって考えられないし。
少しでも実力を見せられる機会がもらえたなら、ちっとは結果が違ったかもしれないけど。
うん、愚痴っても、しょうがねえや。
少しずつ名声を得ていくしかない。あきらめないぞっ!
そうだっ! せっかく、ここまで来たんだ。もっと近くで、世界樹を拝んでから帰ろう。
うっひゃあ、それにしても、あれが木だとはね。
この森に来るまでだって、近づくほど、驚きが増してたけど……やっぱでかいや。
木々の狭間から見え隠れする世界樹を目指して、随分と深い森の中を進んじまったけど……あれっ!? これって、帰れるよな? 迷わないよね?
行きはでっかい目標があったから、平気だったけど……。
うっ、森に迷った挙げ句、帰り道を教えてくれ、なんてぇのは、まずい。
そんなことにでもなったら、後でどんなに名声を得たとしても、仲間になってくれるエルフ様なんていなくなるっての! はあ、もう絶対だよ。
しっかし、えらく魔素の濃い森だな。
……んっ!? なんだ?! この感覚……。
どこかで?! なにかに!? ……あ、似てる!
くっ、まさかこんなところで!? こんなにも世界樹に近いところにまで、魔物が!? ありえねえ。
それも、ただの魔物じゃねえぞ!? こりゃあ……。
それに、なんだ? この異常な魔力の動きは。
誰かが、とんでもない規模の魔術を発動しようとしている!?
戦術規模の儀式魔法か!? いや、あれの比じゃねえ。
どこだ?
う、うそっ、なに、あの厚み……あれも魔法陣の一種なのか!? にしても、ほどっつうもんが、あるだろうにっ!
それも、なに? 虹色じゃん。全属性で魔法展開されてるの?! えっ、嘘……。
ば、馬鹿げてる。こんなの、ありえない!
聖樹様のお膝元──こんなすぐ側で、おとぎ話でしか聞いたことのない魔王みたいなのが、ほんとにいるわけぇ?! 実在しているわけぇ?
しかも、世界滅亡まで、秒読み段階なんじゃ!?
駄目だ、あきらめちゃ。まだ、間に合う。間に合うはず。
あれだけの規模の魔法だもの。いかに魔王級といえども、制御するのには、相当な魔力集中が必要なはずだ。
今なら殺れる! 背後からなら、殺れる!!
「あはははは!」
呵々と笑う男の声が響きわたる。
くっそぅ、笑っていられるのも、今のうちだ。
間に合えっ! 『【瞬動ヘルメス】』──発動キーを心の中で念じ、レガースの魔導具に魔素をたっぷりと注いで、全力の瞬動スキルで、めいっぱいの加速──と同時に、魔術詠唱も始める。
取ったぁ! 隙だらけだ。うまく背後に回れた。間抜けめ。
すかさず、奥義を放つ──「【冥界帝龍斬】!」──冥界の覇者、闇の竜帝を切り裂く斬撃が、敵に襲いかかる。
しまったぁ! また、技名、叫んじまった。
ザン! という音と斬撃の手応えに遅れず、袈裟懸けに斬り裂いた魔王の上半身が、剣撃の勢いのまま、すっ飛んでいった。
あっぶねぇ。あやうく相手に気取られて、失敗するところだったぜ。気分が乗りすぎるといつもこれだ。技名と魔術の言霊がごっちゃになっちまう。
でも、なんとか詠唱効果が途切れずに済んだか。もっと集中しなきゃっ!
「あはははは!」
くっ、一刀両断したにもかかわらず、まだ奴の高笑いが止まらない。
間髪容れず、素早く大地を蹴って、奴の方向へ──この程度では、さすがに殺せやしないか?
ならば、死ね! ──「【インフェルノフレイム】」──動きながら、辛くも詠唱を続けていた呪文がやっと紡ぎ終わって、編み上げた【言霊】と共に、煉獄の炎もかくや、大火炎魔術が辺り一帯を焼き尽くす。
「ひっ!」と、悲鳴のような何かが聞こえた。
炎が消えるのを待たず、続けざまに奥義を繰り出す。
『【百裂斬】』──剣の刃が、骨もろとも肉を細切れに断裁し、無数の肉のサイコロを量産していく。
くそっ! 首に切りかかったはずなのに、もっと大きなものを切ったような妙な感触……嫌な予感がする。初撃にしたって、おかしい!? 軽すぎだ。
「ざっ!」
くっ、どうなってやがる?! まだ息が。
やっぱこれっきゃねえ。教会秘宝──勇者の証とも言える宝具【破魔のサークレット】に蓄えた魔力を全解放してやる。
「【セークリッド・サンダー】」──邪悪な存在をことごとく祓う、数多の聖なる雷が轟く。
「まっ!」
なにっ、これでもまだ駄目なのかぁ?!
残された手段は……最後の……もう一本の剣に込められた属性解放だけ。
せっかくの餞別なんだけど……ぐっ。
すかさず、剣を切り替え、「【金剛重潰撃】」──発動キーの発声と同時に、土属性剣の魔力を具現化した金剛石の塊──周囲を大きく覆うほどの巨大な岩石が剣先に現れ、敵を押しつぶす。
「ずけ!」
ま、まだ生きてやがるのか!?
怒りで噛みしめた唇から、口の中いっぱいに血の味が広がる。その瞬間に閃いてしまった。怖ろしいことを──『ひ・ざ・ま・ずけ──跪け』だとぉ。
やばっ! 呪韻か?! 呪縛する気か?