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26話 待って、押さえつけないで!

 あれっ!? もしかしたら、いたずら好きな妖精の仕業しわざかと思って、羽妖精にかまをかけてみたのだけど、ほんとに違うの? うそん。どうせ火魔術に風魔法を上掛けして、強化したんじゃねえの?! 違うわけ?


 なんでぇ~っ、どぉぼぉじぃでぇ~っ、おじさん分かんなぁーい。


 う~ん、ここは──「先生、解説をお願いします」


「……」


 うん、レイノーヤ先生も停止中──完全にほうけております。


 あっ、あれか! 火の精霊さんか!? あの火の精霊の加護だ。


 うそんっ、すごくない?! 凄すぎない?


 いやいや、限度つうもんがあるだろっ!


 これ、無理くない?! 調整でどうにかできるレベルじゃないっしょ。できる気しないもん。


 気合い入りまくりで、魔素をめすぎたのかな? いやいや、そうでもないよな、違うよな……おっ!?


「あ、痛っ、いたたた、ちょっと、なに? ……待って、押さえつけないで!」


 物思いにふけっているうちに、いつの間にやら衛兵さんだとおぼしき人たちに取り押さえられてたみたい。


 と思っていたんだけど、なにやら辺りで大騒ぎしてる人もいるみたいだから、ちょっと違うのか? ──押さえ込まれて全然周りが見えないし、耳も押しつぶれて、あんまり聞こえないけど。


 もしかしたら、衛兵さん達は、猛然と抗議しにきた人達から俺を守って、盾になってくれているだけなのかも……。


 あはは、そりゃあ、当然怒るよね、里の人たちだって、あんな轟音を民家の側でぶちかまされた日にゃあ。


 しばらくすると、おそらくはレイノーヤさんのはからいだとは思うのだけど、単なる事故だと分かってもらえて、なんとか解放してもらえた。


 おいおい、でも、これってば、実験で検証するのも容易じゃないぞ。


 下手したら、死人が出かねないだろ?


 うん、ここはやはり先達に教えをおうじゃないか……もう、落ち着いたみたいだし。


「レイノーヤ先生、付かぬ事をおうかかいしますが、妖精を介した魔法を使う際に、威力を加減する方法って、なにかありませんか?」


「そうですねぇ。基本、妖精の力を借りているという時点で、威力の弱い魔法を行使するというのは、矛盾むじゅんした行動でしかないのですが……。う~ん、困りましたねぇ……」


 うなった後、黙ったまま、なにやらスプライトと見つめ合って……あぁ、そうか。どうやらこれが魔法線を介しての会話状態なんだな。


 その結果、二人でいろいろと試してみて、コツをつかんだら、俺に教えてくれることになったみたい。


 ──しばらく二人で試行錯誤してくれていたのだが、結論として、駄目だった。


 妖精と契約者がそれぞれ魔力を少しずつ出したとしても、魔力が合わさると、どうやっても相乗作用で魔力の効果が跳ね上がってしまうらしい。


 それが妖精魔法の真価なのだそうだ。


 なんと! 妖精単独で行使する魔法よりも強くなるんだと。


 それは単純な足し算とかではなく、累進的に威力が跳ね上がるような作用らしい。


 そのため、単独で行使する魔術と比べると、妖精魔法のように複数の魔力を掛け合わせることで威力を高めている相乗系魔術・魔法では、効果をさほど落とすことができないと結論付けたようだ。


 それでも、魔力を制限した上で、魔法の効果範囲をしぼるように限定すれば、ある程度は周りに被害が出ないようにすることはできそうだということを教えてもらった。


 まずは精霊と俺が供出する魔力を最小限に抑える練習だ。


 それと、効果範囲を絞る練習が必要か。


 妖精だったら話しかけて、こちらの意図を理解してもらえるわけだけど……「そもそも、精霊って話せるの? スプライト」


『さあ、どうだろ? 漂ってるだけにしか見えないけど』


 ふ~ん……まあ、ものは試しだ、とりあえずやってみるか!


『えっと、精霊さん、精霊さん、火の精霊さん、聞こえますか? こちらは伊藤崇という者ですけど、応答願いま~すって、あはは、やっぱ無理か。はは……んっ! 繋がってる!!』


 おおぅ、なんか変な感じ。


 ありゃ、自分の声が反響しているだけかな!? なんだか録音した声を聞いてるみたいな? でも、以心伝心!?


 おぉ、もうしゃべろうとする意識すら必要としないほど……。


 手のひらの上に、小さな火をともす。


 呆気あっけなかった。あはは。


 あれほど、どうやって威力を抑えたらいいんだと頭を悩ませていた問題が、こんな馬鹿みたいなほど、あっさりと。簡単に。


 これならもう威力をどうやって調整しようとか、そんな些細ささいなことを心配する必要すらない。


 もう、なんていうの? 自由自在! 応用自在……おっ、そういえば昔、子どもの頃にそんなシリーズの参考書を使ってたっけな……なんかなつかしい。


 あれ!? ああ、そうだよ。今更だけど、なにも別に……攻撃魔術で練習する必要もなかったんだよな。


 結界魔術とかでも……でも、結界とかは難しい部類の魔法か?


 いや、俺って、もうとっくにできてるじゃん。


 火の精霊による守護結界──これって、そうだろ?


 結界に改めて魔素を注いで、はっきりと明るく光らせてみる。


 うん、相変わらずの安心感……ほっ、なんかすんごく落ち着くぅ。


 え……ああ、そうなのか。もうちょっとで魔力が尽きるみたいだ。


 えっと、どうすればいいかな? あぁ、こんな感じでどうだろう?


 俺は手のひらの上に火の精霊が来るようにした後、残り少ない精霊の魔力を使い尽くすように、ゆっくりと少しずつ空気を暖めながら、はるか上空に広がる蒼天そうてんへと続く、長い長い上昇気流の筒をんでいく。


 手のひらに視線を戻すと……いつのまにか──役目を全て果たしたかのように、火の精霊は消えていた。


 うん、今まで、ありがとな。



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