25話 なんでもあたしのせいにすんな!!
このところ、遅々として進まない現況が悩ましい。
原因は何だ? 誰だ? 俺か? あいつか? う~む、両方だろうなぁ。
どうにもあいつとは馬が合わないというか、妙に合いすぎて困るというべきか……。
でも、今日こそは、魔術……使います。
と決意を新たにした今日、もうこの世界に迷い込んで八日目──エルフの郷の館でお世話になり続けて七泊後の朝だ。
これやばくない?! なに一つ成果を出せてないのに飲んだり食ったり……いや、さすがに居候の身で飲むわけにはいかないので、酒は飲んでいないものの、それでも食っちゃ寝、食っちゃ寝だけだもの。
なんにしても、一生懸命に働いている周りの方達からしたら、俺って、目障りだよ。絶対にうっとうしいだろうな。
聖樹様からの特命ということもあって、張り切りつつも、無表情で身の回りの世話をしてくれているレイノーヤさんは別にしてもな。
聖樹様に招かれている客だという手前、大目に見てもらっているのだろうけど、それでもやはり厳しい目が向けられている気がする……。
ちょっと離れたところでは、そんな香りが漂っているのをそこはかとなく肌で感じるんだ。
まずい、まずすぎる。
さっさと、やるべきことをやらねば……俺の仕事を。
ということで、食後は魔術講習の続きです。
昨日までの段階で、俺に火の精霊が付き従っているところから鑑みるに、火魔術への適性があるのではないかということになっていた。
昨日、文字が読めないせいで、挫折しかけた火魔術の続きだ。
火魔術の呪文が載っている魔導書のページを開き、もう一度レイノーヤさんに呪文を読んでいただいた。
それを地面に書き留めていく。集落内はどこも舗装されていない土の地面なので、こういうときには助かる。
ちょっと離れたところでは、昨日もこちらを覗いていた少女がお絵かきを始めているしな。
きっと俺が遊び始めたと思って、真似をしているのだろう。ふふふ、なんか、ほんわかする。
さて、そんなことよりもだ。
俺はこの呪文を一字一句覚えることから始める。
──うん、よし! なんとか覚えられたな。
それでは、行ってみましょう。
えっと、まず、杖を構えて、っと……ゲーム映像なんかだと、こんな感じか?
おっと、危ない危ない……万が一を考えて、杖は何もない空の方へ向けて……と。
よし、なんとか構えの方は、様になったかな。
えっと……「浪々と彷徨い、哀悼に喘ぐ時は過ぎた ……明け仄の空を深紅に染め上げ、いまこそ咎を贖え、解き放て焔」
おお、かっけぇーっな魔法陣、ちっちぇーっけど、赤い魔法陣、超かっけぇーっ!
身体もちゃんと光ってる、ピカってる!
よし、そろそろいいのかな?! 頃合いだろう。
次は魔術発動のキーワードとなる【言霊】、行っきまぁーすっ!
「【ファイア】」──刹那、轟音を立て、辺りの大気全てを飲み干すかのように巻き込みながら、紅蓮の炎が青空を切り裂いた。
空気すらも焦げついたような臭いが鼻につき、なんだか口の中までちょっと苦い。
遠くの方で、まだ空気が振動していっているのか、ゴゴゴゴッと微かな振動音がなかなか鳴り止まない……。
「や、やっちまった……」──なんか知らんうちに。
周囲ではあちこちの家々から飛び出してきたウッドエルフたちが視界に入ってくる。
うっ、これは…… 絶対に叱られ案件だよな?
はて、どこかで呪文を間違えたか? 上級魔術だったとか!? いや、でもなぁ、レイノーヤさんに読んでもらったわけだし、間違うはずが……。
「あ、お前か!? スプライト」
『知らんわぼけ! なんでもあたしのせいにすんな!!』




