24話 全く……読めません
それでは、続きを始めるといたしましょう。
レイノーヤさんが杖と魔導書を差し出してくれているのでね。
「えっと、ありがとうございます。では、お借りします」
いや、でもですね。初歩の火魔術のページを開いて、魔導書を渡してくれるのはありがたいのですが……片手に杖を持っているので。
「ちょっとだけ待ってくださいね」
杖をベルトの隙間に差すまで待ってもらい、改めて、レイノーヤさんから開いたままの魔導書をいかにも仰々しく受け取った。
こっ、これは!
「すみません。全く……読めません」
うぅっ、失念していた。
あまりにも同時通訳以上に自然な感じで音声が語意変換されていたものだから。
まさか……文字が読めないとは!
がっかりな子を見るような目で、なんか蔑んでいるかのような表情を湛えたレイノーヤさんのお姿が……。
うん、その筋の人にとっては、きっとご褒美なんだろうけど、今の俺には、ちと辛い。
一応、識字の問題ではないことは釈明しておいた。
「はあ、やっぱ、一から文字を学ばなきゃ理解できないのは当然か。元々知らん言語だもんな」
『なんとかなるかもよ。ちょっと待ってて。レイちゃん……そう。そういうこと』
スプライトに何かを告げられたレイノーヤさんが、俺の横に並ぶようにして、魔導書を覗き込んだ。
『これでどう?』
スプライトに問われた瞬間──おっ!
「おぉぅ!? ……わ、わかる! なんじゃこりゃ?」
あたかもスプライトの一言を合図にしたかのように、文字の内容が鮮明に理解できるようになった。今まであんなにも、ちんぷんかんだったというのに。
どうやらスプライトの発案で、レイノーヤさんの目を介して魔導書の内容を読んで、浮かんだ概念を契約妖精であるスプライト経由で、その思念を俺に伝えてきた、という……なんとも七面倒くさい方法を模索してくれていたようだ。
ドヤ顔のスプライトがなんかむかつく……でも、俺のために、わざわざこんな面倒なことを試してくれたわけか。ここは感謝すべきかな。
先ほどの呆れ顔にしても、なにもレイノーヤさんに蔑まれていたというわけではなかったようだ。あれっ!? ……そうなんですよね? えっ!? どっち? レイノーヤさんの表情からでは読めん。んっ! あれっ!?
「でもさぁ、これって、普通に読み上げてくれればいいんじゃないの? 魔術的に思念の方がイメージしやすいとかの理由があって、駄目だったの?」
「『えっ!? ……』」
なんか、どよんっと音がしてきそうなほど、二人とも急に落ち込んじゃった。
二人が少し落ち着いてから聞いてみると、どうやら声に出した方がむしろ言霊的には有効ということを告白してくれた。
言い終えた後、また、どよんっとしちゃったけど。
なんとか励まさないと……。
「えっと、どんまい……お気遣い頂いたそのお気持ちがなによりも嬉しいです。はい」
うっ、上手いこと励ます言葉が出てこんかった。
なにがきっかけで人が落ち込むか分からんもんだな。
まだ、いつもよりもだいぶ時間が早いのだけれど、結局、うやむやのまま、本日も終わりとなってしまった。
なんか、ごめんね。
もうすっかり、暑苦しさは影を潜めていた。
長い夜にも……もう慣れた。夜とは長い付き合いだから。




