21話 ちゃんと説明して!! プリーズ
精霊についてのレクチャーを受けた翌日……う~ん、やっとこせ朝を迎えた。
目が乾く。瞼がぴくぴくしている。
でも、いよいよです。いよいよなんです。
「それっ! まぁ~じゅつ、ほれっ! まぁじゅぅつぅ、うぅーっ!! ……おほん。さて、魔術のお時間です。ささ、先生お願いします」
「……」
うっ、さすがに興奮しすぎたか……レイノーヤ先生の視線が冷たい。
いや、しょうがないでしょう? だって、念願の魔術なんだもの……異世界でしか味わえないどきどきなんだもの。
そりゃあ、誰だって、わくわく、そわそわしてくるさぁ。抑えきれないもの……。
「はいっ、もう大丈夫です。だいぶ気持ちが落ち着きました。では、講義の方、よろしくお願いします」
「では、風妖精を召喚します」
広場の中央に立ったレイノーヤさんがそう告げて、念じるような素振りをすると、傍らに突然すうっと、黄緑色の小さなベールが現れ、はたはたと揺らめき出した。
若草色に薄く透き通った生地の服をはためかせながら、小人の女性が空中に浮かんでいる。
ちっちゃすぎて、なんか大事なところが見えそうで見えない。じっと目を凝らしていると、服と同じように、そもそも、その女性の体そのものが透き通っていることに気がついた。おぉっ!
『なに見てんのよ! このへんたい!!』
「あ、ごめん」
突然のお咎めの声に対し、反射的に謝ってしまった。まあ、確かに不躾であったしな。
相手は目をぱちくりさせて、小首を傾げた後、一拍間を置いてから、『……たまたまよね?』と一言。
確かにそう聞こえたので、「何がですか?」と問うと、またもや、あちらさんはこちらをじっと見つめたまま、沈黙……。
『うそ?! なんで? なんで聞こえてんの?!』
なぜか取り乱した様子の羽妖精さんの問いかけに対して、「普通は話せないものなんですか?」と、当然の疑問をぶつけてみる。
『あたりまえでしょ! って、ほんとうに話せるんだ』
「そうみたいですね。俺の肉体が希薄だからですかね?」
『えっ!? あぁ、あんた、たしかにうっすいわね! でも、すっごく濃っい~よ』
「どっちなんだよ!?」
さすがに関西人でない俺であっても、これにはつっこまずにはいられない。思わず反射的につっこんでいた。
その後、羽妖精との埒が明かない話が続くと、レイノーヤさんも間に入ってくれた。
どうやら俺の物質的な肉体が薄いというのは確かみたいだ。確か、妖精であるエルフの聖樹様からもそう言われていたしな。妖精からは、やはりそう見えるらしい。
ただしその代わりに、霊魂を構成する【アストラル体】、精神からの派生物で構成される【エーテル体】、そのどちらの密度も高く、その薄い肉体の中に溢れんばかりに満ち満ちているんだと。
まったくワカランでしょ。おれもワカラン。
そもそも、肉体が薄いってなんだよ?
ああ、ずっと思っていたよ。聖樹様に言われたときから……。
わからんのですよ! 偉い人の言うことは。
宇宙戦用のジオ○グに足付けろという人たちの言うことは。
説明しろ! 責任者出てこいっ!!
あ、スミマセン……またもや取り乱してしまいました。ガンダ△好きなもので。
いやいや、俺の話なんてどうでもいいのよ。
今は、妖精と……妖精さんとお話できる件ですよ。問題は!
妖精が魔法契約を結ぶと、通常であれば、契約者の肉体の壁を突き破るかのごとく、魔法線が繋がることによって、双方向で念話以上の意思疎通ができるようになるそうだ。
うん、この羽妖精さんとレイノーヤさんの現状がこれだ。
「あれっ!? でも、それだったら、話のできない契約前に、どうやって互いに契約しても良いという意思を伝え合うの?」と素朴な疑問を投げかけたら、「『そんなの分からない方がおかしい』」と、二人して同時に呆れ顔で言われた。
はん、そんなんで、分かるもんかよ。
少しふてくされ気味にそう思っていたら、ものすっごいポンコツを見る目で二人から凝視されている。
うん、ピンと来たね……さすがに俺でも。
なるほど、伝えたいという意思がはっきりしていると、結構容易に相手へ伝わるもんなんだな。
「はい、分かりました。これですね……もう分かったから、察するということは。きちんと身体で理解できましたから……その眼差し、もうそろそろ勘弁してください」
散々、二人に謝った末、やっとのことで、呆れ顔を解いてもらった。
……というのに、その次の瞬間には──『あれっ! こいつ、なんかおかしいよ!』と。
「薄々、私も変わった御仁ではないかと……」
失礼な物言いの妖精……うそん、それに乗っかるようにレイノーヤさんまで。
『そういうことじゃなくて』
空中に浮かぶ妖精さんは、俺との距離をできるだけ置こうとするように、こちらを警戒しながら後ずさって、声がぎりぎり届きそうなところで止まった。
「「どうしたの?」」──レイノーヤさんと二人でその様子を訝しがっていると。
『引きずりこまれる! 引きちぎられる!!』と言い出す風妖精──途端、レイノーヤさんに酷くきつい目で睨みつけられました。
「いや、俺は何もしてませんって」
なんでそんな誤解するの? しないですよ、本当に。
そもそも、この世界に来てからというもの、元気には元気なのだが、それは身体の肝心なところを除いてという話……全く反応しないんだよ。
身体のどこか? って、そりゃあ、あそこしかないだろ……。
どっかに連れ込んで、悪戯とかしねぇから。つうか、できないから、そもそも物理的に。ちっちゃすぎて。
まあ、その透けた身体がどうなってるのかが、ちょっと気にはなってるけどよ。
あれっ!? これはセーフだよね? ……お巡りさん、この人が犯人です! までは行ってないよね?
ははは、なんか考えれば考えるほど、自分が変質者寄りになっていくような気も……。
「いや、だから、誤解ですってば! 妖精さん、ちゃんと説明して!! プリーズ」




